国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は2026年5月6日、太陽光・風力発電と蓄電池ストレージを組み合わせたハイブリッド・ソリューションが、化石燃料よりも低コストで24時間電力を供給できるとするレポートを発表した。
資源条件に恵まれた地域における太陽光・ストレージのファーム・コストはMWhあたり54〜82ドルで、中国の新規石炭火力の70〜85ドル、世界の新規ガス火力の100ドル超を下回る水準である。2010年以降、総設置コストは太陽光発電(PV)で87%、陸上風力で55%低下し、蓄電池ストレージは93%下落した。国際連合事務総長アントニオ・グテーレス氏はエネルギー移行の加速、エネルギーインフラへの投資、国際協力の強化を呼びかけた。IRENA事務局長フランチェスコ・ラ・カメラ氏は、再生可能エネルギーは24時間電力を供給可能であり、その優位性は経済面と戦略面の双方にあると述べた。
From:
Solar, wind and storage now deliver cheaper electricity than fossil fuels, says IRENA
【編集部解説】
今回のIRENAレポートで最初に押さえておきたいのは、その正式タイトル「24/7 Renewables: The Economics of Firm Solar and Wind(24時間再生可能エネルギー:ファーム型太陽光・風力の経済性)」にあります。記事中でカギとなる「Firm(ファーム)」とは、需要に応じて確実に供給できる、つまり「使いたいときに使える電力」を意味する用語です。再生可能エネルギーは長らく「天候に左右される不安定な電源」と批判されてきましたが、その前提を覆す経済性が示されたことに、本レポートの本質的な意義があります。
コスト低下を牽引した最大のドライバーは、蓄電池ストレージの93%という劇的な下落です。太陽光発電(PV)の87%、陸上風力の55%という数字も大きいものですが、ラ・カメラ氏が「The battery revolution(蓄電池革命)」と呼ぶ蓄電池の進化こそが、再生可能エネルギーを「変動電源」から「常時供給可能な電源」へと変貌させた決定打と言えます。
レポートで象徴的な事例として挙げられているのが、アラブ首長国連邦のアル・ダフラ複合発電施設です。太陽光発電と蓄電池ストレージを組み合わせ、1GW(ギガワット)のクリーン電力を1MWhあたり約70ドル(約11,000円、1ドル=157円換算)で安定供給する実例で、レポートが提示する数値の現実性を裏付けています。風力+蓄電池側でも、2025年時点で内モンゴルが1MWhあたり約59ドル、ブラジル・ドイツ・オーストラリアでは88〜94ドルと地域差はあるものの、2030年までに49〜75ドルへ低下する見通しです。
innovaTopia 読者にとって、もっとも見逃せない論点はAI・データセンター需要との接続です。IRENAは本レポートで明確に「24時間途切れない電力を必要とするAIやデータセンター」を需要の主役として位置づけています。生成AIブームによる爆発的な電力需要を、化石燃料で賄うのか、ファーム型再生可能エネルギーで賄うのか。その選択が、今後の国家・企業の競争力を直接的に左右する局面に入ったということです。
地政学の文脈も重要です。IRENAの公式プレスリリースでは、ラ・カメラ氏は「ホルムズ海峡における進行中の混乱」に明確に言及しています。原油輸入の大半を中東に依存する日本にとって、グテーレス事務総長が呼びかけた「自国産(homegrown)の電力を世界中の人々に」というメッセージは、エネルギー安全保障の観点からきわめて切実な問いを投げかけているのです。
一方で、慎重に読み解くべき点もあります。54〜82ドル/MWhという数字は、あくまで「日射量や風況に恵まれた優良地点」での値です。地理的条件や土地制約、系統接続の課題を抱える日本で同じ水準を実現するハードルは決して低くありません。さらに太陽光パネルや蓄電池のサプライチェーンが中国に大きく偏在している現実は、別種の地政学リスクを生んでいるという視点も持ち合わせておくべきでしょう。
それでも長期トレンドは明確です。建設期間が「許認可と系統接続から1〜2年」とガス火力より大幅に短く、量産効果と技術学習効果が今後も働き続けるなか、化石燃料との価格差は開く方向にあります。2035年までに最良地点では1MWhあたり50ドルを下回る予測も示され、再生可能エネルギーは「環境配慮の選択肢」から「経済合理性と戦略的レジリエンスで選ばれる電源」へと、その立ち位置を完全に変えつつあるのです。
【用語解説】
ファーム・コスト(Firm levelized cost of electricity)
24時間途切れずに電力を供給することを前提とした均等化発電原価のこと。再生可能エネルギーが本来抱える「変動性」を蓄電池や複数電源の組み合わせで補ったうえで算出する、いわば”使える電力”のコストである。
均等化発電原価(LCOE: Levelized Cost of Electricity)
発電所の建設費、運転維持費、燃料費などを生涯発電量で割って算出する発電単価指標。異なる電源間のコストを比較するための国際的な基準として用いられる。
MWh(メガワット時)
電力量の単位で、1メガワット(100万ワット)の出力を1時間継続した場合の電力量に相当する。1MWh=1,000kWh。
太陽光発電(PV: Photovoltaic)
半導体素子(太陽電池)を用いて太陽光を直接電気に変換する発電方式。屋根設置型から大規模発電所まで、近年もっとも急速に普及している再生可能電源である。
陸上風力(Onshore wind)
陸地に設置される風力発電設備。海上に建設する洋上風力(offshore wind)と区別される用語で、建設・保守コストが洋上より低く、世界の再生可能エネルギー導入の主力となっている。
ハイブリッド・ソリューション
太陽光、風力、蓄電池など複数の電源・設備を組み合わせて最適化したシステム構成。単一電源では難しかった24時間安定供給を、補完性のある電源を組み合わせることで実現する考え方である。
蓄電池革命(The battery revolution)
ラ・カメラIRENA事務局長が用いた表現で、リチウムイオン電池を中心とする蓄電技術の急速なコスト低下と性能向上を指す。電気自動車(EV)向け需要の拡大が量産効果を生み、定置用蓄電池のコスト低下を加速させてきた。
系統接続(Grid connection)
発電設備を送電網(電力系統)に接続する手続き・工程のこと。再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、世界各地で接続容量の不足が課題になっている。
レジリエンス(Resilience)
危機や外的ショックに対する強靭性・回復力。エネルギー分野では、地政学的リスクや自然災害、価格変動などに対するシステム全体の耐性を指す。
ホルムズ海峡(Strait of Hormuz)
ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海峡で、世界の海上原油輸送の約2割が通過する戦略的要衝。日本も中東原油の輸送ルートとして強く依存している。
自国産電力(Homegrown power)
燃料や設備を海外輸入に頼らず、自国の資源(太陽、風、地熱など)で生み出す電力を指す概念。エネルギー安全保障の文脈で、国際協力強化の必要性を訴える際の象徴的な表現として国連事務総長グテーレス氏が用いた。
【参考リンク】
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)公式サイト(外部)
2009年設立の再生可能エネルギー専門の政府間国際機関。日本を含む170か国近くが加盟し、アブダビに本部を置く。
IRENAプレスリリース「24/7 Renewables Outcompete Fossil Fuels on Firm Costs」(外部)
今回の24時間再生可能電力レポート発表に関するIRENA公式プレスリリース。本記事の一次情報源にあたる。
IRENAレポート本体「24/7 Renewables: The Economics of Firm Solar and Wind」(外部)
レポート全文(PDF)。ファーム・コストの算出根拠、地域別の詳細データ、技術別コスト推移などが収録されている。
国連事務総長公式サイト(外部)
アントニオ・グテーレス国連事務総長の公式情報サイト。気候変動・エネルギー転換に関する声明や演説が随時公開される。
Emirates Water and Electricity Company(EWEC)(外部)
アブダビの水・電力公社で、アル・ダフラ太陽光発電所の電力を購入する事業者。UAEのエネルギー転換計画の中核を担う。
【参考記事】
pv magazine International「Firm solar and storage costs fall to $54/MWh, says IRENA」(外部)
太陽光発電業界の専門メディアによる詳報。Al Dhafra事例の70ドル/MWhや2030年30%・2035年40%の追加低下予測を詳述。
Renewable Energy Magazine「New IRENA Report Confirms Cost-Competitiveness of Round-the-Clock Renewable Power」(外部)
風力+蓄電池の地域別コスト(内モンゴル59ドル、ブラジル・ドイツ等88〜94ドル)と2030年49〜75ドル予測を整理。
GreentechLead「IRENA Says Solar, Wind and Battery Storage Deliver Cheaper 24/7 Power Than Fossil Fuels」(外部)
建設期間1〜2年でガス火力より短い点や、AIインフラ・データセンター・脱炭素困難セクターへの適合性を解説。
ESS News「Firm solar and storage costs fall to $74/MWh, says IRENA」(外部)
蓄電池専門メディアによる解説。歴史的低コスト局面の意義、ホルムズ海峡発言の文脈、系統接続最適化の仕組みを分析。
【関連記事】
IEA Global Energy Review 2026、太陽光PVが史上初──世界エネルギー需要増の25%超を担う
国際エネルギー機関(IEA)による年次レポートを解説した記事。太陽光PVの躍進という主題が今回の記事と直接重なる。(2026年4月24日)
IEAがAIエネルギー影響を可視化、米中が世界の電力消費増加80%を占める見通し
データセンター電力消費が2030年までに倍増するとのIEA予測を扱った記事。AI・データセンターと再エネの論点と直結する。(2025年6月20日)
ProEnergy、退役航空機エンジンをAIデータセンター電源に転用
AIデータセンターの「24時間途切れない電力」需要に化石燃料側からアプローチした事例。再エネ側の解との対比視座を提供する。(2025年10月21日)
系統用蓄電池が日本のエネルギー転換を支える─庄原市に新たな蓄電施設が誕生
日本国内における蓄電池インフラ整備の事例。今回の記事の「日本での実装ハードル」という論点に現場感覚での実例を提供する。(2025年12月29日)
【編集部後記】
エネルギーは、私たちが何かを「動かす」ための根源的な力です。明かりを灯し、データを処理し、暮らしを温める ── あらゆる営みの土台にあります。今回のIRENAレポートは、その根源的な力を、有限の化石資源から、太陽と風という日々再生される資源に移し替える経済合理性が、もはや疑いようがないことを告げました。
この転換が単なる代替ではなく、人類とエネルギーとの関わり方そのものを変える「進化」であると捉えています。今後も、この大きな潮流をていねいに追いかけていきたいと思います。












