iPhoneだけがなぜ?|世界スマホ市場縮小の中でAppleだけが4地域で成長

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世界のスマートフォン市場では、メモリ価格の高騰が販売台数を押し下げる展開が続いています。今週相次いで公表されたCounterpoint Researchの4本のレポートは、欧州・中国・インド・中南米という異なる地域でそろって前年割れを記録したことを伝えました。その一方でAppleだけは、いずれの地域でも市場平均を上回る成績を残しています。何が明暗を分けているのでしょうか。


Counterpoint Researchが2026年8月17日週に公表した4本のレポートによると、欧州のスマートフォン出荷台数は2026年第2四半期に前年同期比10%減少し、過去3年で最低水準となった。この中でAppleはシェアを9ポイント伸ばし、Samsungと並ぶ34%で首位に並んだ。Xiaomi・Oppo・Honorはそれぞれ15%・4%・3%までシェアを落とした。

中国市場は2026年の第1〜30週で前年同期比8.6%縮小し、618商戦後に減少率が二桁に戻った。インド市場は第14〜31週の販売が14%減となる一方、Appleは15%増とこの期間で最も強い伸びを記録した。中南米市場は2026年第2四半期に前年同期比10%減となったが、AppleとSamsungのみが成長し、それぞれ5%増・6%増だった。Appleは600ドル超の高価格帯でLATAM市場の約51%のシェアを握っている。

From: 文献リンクApple bucks downward trend as reports show global smartphone shipment and sales declines

【編集部解説】

欧州、中国、インド、中南米。地理も市場構造も異なるこの4地域から、Counterpoint Researchはこの一週間で示し合わせたようによく似た絵を出してきました。市場全体は軒並み前年割れ、そしてAppleだけがそのなかで浮いている。偶然が重なったというより、同じ震源から出た地殻変動が、たまたま同じ週に4つの観測地点で記録された、と捉えるほうが実態に近そうです。

その震源は、ここ数カ月innovaTopiaで繰り返し取り上げてきたメモリ価格の高騰です。AIデータセンター向けの需要がDRAM・NANDの生産能力を奪い合い、スマートフォン向けの部材コストを押し上げている構図は、MacBook Airの品薄CMFの新型スマホ断念と地続きです。世界全体のスマートフォン出荷は2026年第2四半期に前年比11%減となり、2013年以来最低の水準まで落ち込んでいます。

なぜAppleだけが逆行できるのか

答えの輪郭は、4地域のレポートに繰り返し出てくる同じ単語に表れています。「プレミアム化」です。

メモリ高騰は、部品コストに占めるメモリの比率が高い低価格帯から真っ先に直撃します。欧州レポートでも、東欧のように低価格帯依存度が高い地域ほど落ち込みが大きく、逆に高価格帯シフトが進んでいた西欧は相対的に持ちこたえたと分析されています。Appleの製品ラインはもともとこの「高価格帯」に集中しているため、市場全体が高価格帯にシフトすること自体が、相対的な追い風になります。

数字で見ると、この構図はより鮮明です。Appleは2026年第2四半期に世界のスマートフォン売上高の49%を獲得し、過去最高を記録しました。平均販売価格(ASP)も879ドルから946ドルへ、8%上昇しています。台数ではなく金額で稼ぐ体質は、値上げ環境下でこそ強みに転じます。

もう一つの要因は、値上げに対する体力の差です。LATAMレポートは、Appleの成長を「値上げ分を自社で吸収する判断」によるものと説明しています。IDCの分析でも、中国市場でHuaweiとAppleが価格を据え置いた一方、他のAndroid陣営が値上げに動いたことが、両社への駆け込み需要につながったと指摘されています。値上げを「今すぐ全部乗せる」か「利益率を削ってでも遅らせる」かの選択で、Appleは後者を選べるだけの利益率の厚みを持っている、ということです。

「独歩高」の裏にある、もう一つの顔

ただし、この好調さを額面通りに「Appleだけが特別」と読むと、見落とす部分も出てきます。

中国レポートが指摘しているのは、Appleの需要の一部が618商戦の時期に前倒しで消化されていたという点です。IDCも、Appleが下半期製品の値上げを早めに示唆したことで、本来もっと後で買うはずだった消費者がiPhone 17シリーズの購入を前倒しした可能性を指摘しています。だとすれば、いま数字に表れているAppleの強さの一部は、9月の新型発表・値上げを見越した「先食い」であり、その反動が今後どこかで出てくる可能性は残ります。

異なる指標が語る、少し違う顔

もう一つ、記事を読むうえで意識しておきたい点があります。今回の4本のレポートはいずれも「販売実績(sell-out)」や「出荷(shipment)」という異なる指標を扱っており、単純に横並びで比較できるものではありません。

たとえばインドについては、9to5Macが引用したCounterpointの週次販売データではAppleが15%増と際立った成績を見せていますが、同じ2026年第2四半期を四半期出荷ベースで見た別のCounterpointデータでは、iPhoneの出荷は逆に3%減という報道もあります。この出荷減は需要の弱さではなく、iPhone 17シリーズの供給制約が主因とされています。つまり「売れているのに、届けきれていない」という状況が同時に起きていた可能性があり、「Appleの独歩高」という一つの見出しの下には、指標によって少し違う顔が隠れています。

この先の焦点

Counterpointは欧州レポートの中で、「Appleは今後も市場全体を大きく上回るパフォーマンスを続けると見込んでいる」と予測しています。一方で、メモリ価格の高止まりは2027年後半まで続く可能性があるとの別の見通しもあり、Apple自身もiPhone 18 Pro向けプロセッサーの供給遅れという形で、この波と無縁ではいられなくなっています。

これまでAppleはMac・iPadの値上げに踏み切る一方、iPhoneの価格据え置きは維持してきました。しかしAppleのティム・クック氏は、iPhoneの値上げもいずれ避けられなくなる可能性があるとメディアに語ったと報じられています。9月に予定される新型iPhoneの発表と価格設定は、今回の「独歩高」が構造的な強さなのか、それとも一時的な追い風の重なりなのかを見極める、次の試金石になりそうです。

【関連記事】

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低価格帯ブランドが撤退を迫られる話。今回の記事の「プレミアム化が明暗を分ける」構図の対極の実例。

【編集部後記】

メモリ高騰が市場を締め付けるほど、値上げに耐えられるブランドとそうでないブランドの差が、数字にくっきり表れる時代になってきているようです。私たちが次にスマホを選ぶとき、この「プレミアム化」の波をどう感じるでしょうか。9月に登場する新型iPhoneがどんな価格で出てくるのか、私たちもあわせて注視していきたいと思います。


【用語解説】

Counterpoint Research
スマートフォン・半導体・IoTなど幅広いテクノロジー市場を対象とする国際的な調査会社。四半期ごとの出荷台数調査に加え、週次の販売実績(sell-out)トラッカーなど、より短いサイクルのデータも提供している。

618商戦(618 Shopping Festival)
中国のECサイトJD.comの創業記念日(6月18日)を起点とする、中国最大級のオンラインセール期間。毎年5月末〜6月にかけて実施され、スマートフォンを含む家電の販売動向を占う指標として業界内で注目される。

sell-out(販売実績)とshipment(出荷)
sell-outはメーカー・販売店から消費者への実際の販売数、shipmentはメーカーから販売チャネルへの出荷数を指す。両者は一致しないことがあり、出荷が伸びていても店頭在庫が積み上がっているだけの場合や、逆に販売は好調でも供給制約で出荷が追いつかない場合がある。

ASP(Average Selling Price/平均販売価格)
販売された製品の平均価格。台数ベースのシェアが横ばいでも、高価格帯モデルの比率が上がればASPは上昇し、売上高・収益への貢献は大きくなる。

プレミアム化(premiumisation)
消費者が相対的に高価格帯の製品を選ぶ傾向が市場全体で強まる現象。今回のケースでは、メモリ高騰で低価格帯モデルの魅力(価格の安さ)が薄れたことが、間接的にプレミアム化を後押ししている。

【参考リンク】

Counterpoint Research(外部)
スマートフォン・半導体市場のアナリストレポートを提供する調査会社の公式サイト。今回引用した4本のレポートの発行元。

Counterpoint Research|Smartphones Coverage(外部)
スマートフォン市場に関するCounterpointの最新インサイトが一覧できるページ。今後の続報を追いたい読者向け。

Apple公式サイト(外部)
iPhoneをはじめとする製品ラインアップ、直近の価格改定などを確認できる。

Samsung公式サイト(外部)
欧州・LATAMでAppleと肩を並べる成長を見せたGalaxyシリーズの製品情報を確認できる。

IDC(外部)
Counterpointと並ぶ大手市場調査会社。中国市場でのHuawei・Apple独歩高の要因分析を今回の解説で参照した。

【参考記事】

Europe Smartphone Shipments Drop 10% YoY in Q2 2026 to Hit Three-year Low — Counterpoint Research(外部)
今回の欧州データの一次情報。Apple・Samsungの成長の背景にあるプレミアム化トレンド、東西欧州の格差について、Stryjak氏のコメントとともに詳述。

China Smartphone Market Saw Sharper Contraction After 618 — Counterpoint Research(外部)
中国市場8.6%減の一次情報。Huaweiの首位維持、Appleの季節的減速入り、下半期のさらなる値上げ観測を報告。

Why Huawei and Apple Grew While China’s Smartphone Market Fell Again in Q2 2026 — IDC(外部)
価格を据え置いた2社に駆け込み需要が集まったという分析。編集部解説の「値上げに対する体力の差」の論拠として使用。

Apple Captures Nearly Half of Global Smartphone Revenue as Q2 Market Share Hits Record — BigGo Finance(外部)
Appleの世界売上シェア49%・ASP946ドルというプレミアム化を裏付ける数値の出典。

Why Apple’s iPhone Growth in India Is Slowing After Four Years — India Weekly(外部)
インドの四半期出荷ベースでiPhoneが3%減となった別データ、およびティム・クック氏の値上げ示唆発言の出典。

Samsung wins Q2, but the smartphone market is still in trouble — Android Authority(外部)
世界全体の出荷が前年比11%減・2013年以来の低水準という大枠のデータ、メモリ危機の年間見通しの出典。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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