ここ数日、ANBERNICの動きを追いかけるだけで息切れしそうです。8月31日に発売したばかりの「RG 55G1」に続き、その直後には38ドルの「RG 35」を予告なく販売開始。そして9月3日、今度はデュアルスクリーン携帯機「RG DS Plus」をYouTubeトレーラーのみで発表しました。わずか1週間足らずで3つの製品が動いたことになります。スペックの中身以上に気になるのは、なぜこの会社はこれほどの速度で新製品を出し続けられるのか、という点です。
9月3日に明らかになったANBERNIC「RG DS Plus」は、2025年12月発売の「RG DS」の後継となるデュアルスクリーン携帯機だ。4.3インチ×2枚のディスプレイは解像度1024×768で、Nintendo DSの画面を4倍のピクセルスケーリングで表示する。OSは先代のAndroid/Linuxデュアルブートから、Linux単独に変更された。自社開発と称するDSエミュレータ「NNDSS」を搭載し、画面入れ替えや76種のシェーダー、マイク対応などの機能を持つ。スタイラスは本体収納式となり、ヒンジは15〜180度の開閉に対応する。カラーはMetallic Blue、Matte Black、Coral Pinkの3色。チップセット、RAM、価格、発売日は9月7日時点で未発表となっている。
From:
Anbernic RG DS Plus: The Screen Math Is the Whole Story
【編集部解説】
「新製品ラッシュ」をスペックの外側から見る
冒頭で触れた通り、ANBERNICはこの1週間足らずで3つの製品を動かしています。8月31日のRG 55G1発売、その直後に予告なく販売開始された38ドルのRG 35、そして9月3日のRG DS Plus発表です。
こうした動きを見ると、つい「開発力がすごい」という方向で驚いてしまいがちです。ですが今回はあえてスペック表を離れ、この会社が置かれている構造的な条件から読み解いてみます。
前提:2026年は「メモリが足りない」年である
まず押さえておきたいのが、2026年という年そのものが、半導体業界にとって特殊な年だという点です。AIデータセンター向けの需要がDRAM生産能力の大半を奪い、民生用メモリの供給が世界的に逼迫しています。JPMorganの分析では、DRAM価格は2024年初から2026年末までに400%以上上昇する見込みとされています。TrendForceも、2026年第3四半期のDRAM契約価格が前四半期比13〜18%上昇すると予測しています。
この供給逼迫は、PCやスマートフォンの大手メーカーだけでなく、ANBERNICのような低価格帯のニッチハードウェアメーカーにより強く効いてきます。メモリはBOM(部品原価)に占める割合が大きく、かつ価格転嫁の余地が小さい市場だからです。
ANBERNICには、すでに前例がある
この文脈で無視できないのが、ANBERNICが実際に今年、メモリを巡って似た対応を取った実例です。
同社の「RG34XXSP」は2025年5月の発売時、2GBのLPDDR4メモリを搭載していました。ところが2026年1月19日〜21日頃、公式サイトの仕様表がいつの間にか1GBに書き換えられていることが発見され、問い合わせを受けたANBERNICのサポート窓口が仕様変更を認める形になりました。事前の告知や公式発表は一切ありませんでした。
さらに2026年5月には、一部の個体でメモリがさらに512MBまで削減され、しかも速度の遅い旧世代のLPDDR3に置き換えられていたことが、ユーザーによる分解調査で判明しています。ANBERNICはTom’s Hardwareの取材に対し「現行の標準仕様は1GBであり、512MBは想定外のエラーだ」という趣旨のコメントを寄せ、該当ユーザーには交換対応を優先すると説明しています。
つまり「値上げではなく、告知なしの仕様変更でコストを吸収する」という選択を、ANBERNICは少なくとも一度、実際に行っています。
今回のRAM削減説を、この文脈でどう受け止めるか
RG DS PlusについてはRAMが3GBから1GBへ削減されたという情報があります。複数の独立したメディアが報じているものの、ANBERNIC自身による公式確認はまだありません。
興味深いのは削減の理由です。海外メディアの一部は、カスタムファームウェア開発者@TheGammaSqueezeとの協業により、Linuxベースの「GammaOS」に最適化した結果1GBで十分と判断された、と報じています。これが正確なら、RAM削減は単なるコスト吸収だけでなく、Android向けに確保していたメモリがLinux/GammaOS環境では不要になったという、技術的な合理化の側面も持つことになります。前段で展開したメモリ高騰によるコスト圧力という説明と、このOS最適化という説明は互いに排他的ではありません。ただし、後者の可能性を無視してコスト論だけで説明するのは一面的だという点は、留保しておく必要があります。
同様に、チップセットがRK3568のまま据え置かれるという観測も、公式確認ではありません。ただ単なる噂というより、複数の取材で独立に観測されている情報で、同じチップセットを複数の製品ラインで使い回すこと自体は、検証コストや調達コストを抑えたい低価格帯メーカーにとって合理的な選択でもあります。
「速さ」の正体は、開発力ではなく流用かもしれない
ここまでを踏まえると、今回の「新製品ラッシュ」を見るときの軸が一つ見えてきます。RG DS PlusとRG DS(先代)は、チップセットが同じである可能性が観測されており、筐体構造も基本的な設計思想を踏襲しています。変わったのは、画面解像度、ヒンジ、スタイラスの収納方式、そしてOSとエミュレータソフトウェアです。
言い換えると、ハードウェアの根幹(チップセット)を固定したまま、見える部分(画面・ヒンジ・スタイラス)とソフトウェア(Linux化、自社エミュレータNNDSS)に開発リソースを集中させる、という構造が浮かび上がります。これ自体は悪いことではなく、限られたリソースでニッチ市場に高頻度で製品を投入するための、理にかなった戦略とも言えるでしょう。
一方で、その裏側にあるコスト管理(RAMやストレージ構成の選定)が、今回のように「発表されない」形で行われているとしたら、それは開発の速さとは別の問題として、購入を検討する人が知っておくべき情報です。
ここから先は、まだ分かっていません
RG DS Plusの実際のRAM構成、チップセット、価格、発売日は、2026年9月7日時点でいずれも未確定です。これはメディア報道が追いついていないという話ではなく、ANBERNIC自身の公式ブログ(9月4日付)でも同様にこれらの項目には一切触れられていません。つまり「まだ発表段階ではない」という状態そのものが、トレーラー・公式ブログを通じて一貫しているということです。今回取り上げたRAM削減説とチップセット継続説は、複数の独立したメディアが報じている点で単純な噂よりは重みがありますが、いずれも未確認です。
私たちが確認できているのは、①ANBERNICが2026年に実際にメモリ仕様を無告知で変更した実例があること、②2026年という年がメモリ調達コストの観点で業界全体に強い逆風が吹いている年であること、この2点までです。この2つの事実がRG DS Plusという1つの製品に当てはまるかどうかは、正式な仕様公開を待って判断すべきだと考えています。
【関連記事】
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【編集部後記】
ANBERNICの新製品ラッシュを追いながら、正直なところ「次は何が出るのだろう」という単純な楽しみもあります。ただ今回書いていて気づいたのは、スペックの新しさよりも、その裏側にある部品調達や原価管理のほうが、実は製品の性格を強く決めているのかもしれない、ということでした。RAM削減説の真偽は、私たちもまだ確かめられていません。何か確認でき次第、この記事に追記する形でお伝えします。
【参考動画】
【用語解説】
RK3568
Rockchip製のARMベースSoC(システムオンチップ)。低価格帯の携帯ゲーム機に広く採用され、DSやPS1世代のエミュレーションには十分だが、PS2や3DS級には非力とされる。
整数倍スケーリング(Integer Scaling)
元の解像度を整数倍(2倍・3倍・4倍等)に拡大する表示方式。補間処理が不要で輪郭のにじみが生じにくい。整数で割り切れない倍率では、一部のピクセルが不均等に引き伸ばされ画質が甘くなりやすい。
LPDDR3 / LPDDR4
モバイル機器向け低消費電力メモリの規格。数字が大きいほど新しい世代で、一般に高速・省電力。LPDDR3はLPDDR4より一世代古い規格。
GammaOS
@TheGammaSqueeze氏が開発する、ANBERNIC製ハンドヘルド向けの非公式カスタムファームウェア。Android版の負荷を軽減し、限られたRAMでも動作するよう最適化されている。
NNDSS
RG DS Plusに搭載されたデュアルスクリーン向けDSエミュレータの名称。ANBERNICは自社開発と説明しているが、新規開発なのか既存プロジェクトの改名なのかは第三者メディアも確認できていない。
シャドードロップ(Shadow Drop)
事前の予告なく、突然発売・販売を開始する手法。話題性を生みやすい一方、消費者が仕様を比較検討する時間を十分に持てない。
BOM(部品原価)
Bill of Materialsの略。製品を構成する部品ごとのコストを積み上げた原価のこと。メモリ等、市況の影響を受けやすい部品はBOMに占める割合が変動しやすい。
【参考リンク】
ANBERNIC公式ブログ|RG DS Plus発表記事(外部)
RG DS Plusの特徴を写真・動画付きで紹介するANBERNIC公式の一次情報。解像度・ヒンジ・スタイラス等を確認できる。
ANBERNIC公式|RG DS(先代モデル)製品ページ(外部)
2025年12月発売の先代機の公式仕様ページ。RK3568・3GB RAM・Android 14など、比較材料として参照できる。
r/ANBERNIC_OFFICIAL(ANBERNIC公式Reddit)(外部)
ANBERNIC自身が運営する公式コミュニティ。新製品情報や公式アナウンスがいち早く共有されることがある。
IDC|2026年メモリ不足危機の市場分析(外部)
AIデータセンター需要がDRAM供給を圧迫する構造を解説するレポート。スマートフォン・PC市場への影響を専門機関の視点で確認できる。
【参考記事】
Anbernic RG DS Plus: The Screen Math Is the Whole Story|HeldGames(外部)
解像度の整数倍スケーリングを軸にした分析記事。先代RG DSとの比較表、購入判断のガイドを掲載。本記事の主要な参照元。
Gaming handhelds are quietly losing RAM|Tom’s Hardware(外部)
ANBERNIC RG34XXSPのRAM削減の経緯(2GB→1GB→一部512MB LPDDR3)と、同社のコメントを報じた記事。
Anbernic’s GBA SP-like handheld just lost half its memory (Update: Statement)|Android Authority(外部)
RG34XXSPが2026年1月に無告知で1GB化された経緯と、サポート窓口による確認を報じた記事。
DRAM prices surge amid AI-driven shortage|JPMorgan Global Research(外部)
2024年初から2026年末までにDRAM価格が400%超上昇するとの見通しを示すレポート。編集部解説内の数値の出典。
AI Server Demand Continues to Support Memory Prices in 3Q26|TrendForce(外部)
2026年第3四半期のDRAM契約価格見通し(前四半期比13〜18%上昇)を示す市場調査。編集部解説内の数値の出典。
ANBERNIC Announces RG DS “Plus” Clamshell Handheld|RetroDodo(外部)
RG 55G1発売→$38 RG35のshadow drop→RG DS Plus発表という新製品ラッシュの時系列を報じた記事。
[UPDATE: Spec Info] Anbernic RG DS Plus Officially Revealed|RetroHandhelds.gg(外部)
RAM削減とチップセット継続を報じ、削減理由をGammaOS最適化と関連付けた記事。編集部解説の主要な出典。


















