SOCANがSunoを提訴|管理団体はなぜ国ごとに違う訴状を書くのか

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カナダの著作権管理団体がSunoを訴えました。ただ、その訴状は7月にドイツで出た判決とは形が違います。争点は学習ではなく、生成された曲が配信されたことのほうに置かれている。同じ相手を訴えても、団体ごとに使える武器が違うのはなぜなのでしょうか。


カナダの著作権管理団体SOCANは2026年9月2日、AIで音楽を生成するSuno Inc.をカナダ連邦裁判所に提訴したと発表した。SOCANは、Sunoがカナダでプラットフォームを一般に提供し、SOCANの管理楽曲を複製するアウトプットを生成・提供したうえで、それをカナダおよび世界のユーザーへストリーミングしたことが、楽曲の演奏権の侵害にあたると主張している。

訴状には、Sunoのプラットフォーム上で公開されているアウトプット150件がサンプルとして挙げられた。主な請求は、著作権法の遵守と侵害にあたるアウトプットの提供停止で、損害賠償も求めている。SOCANはSunoにライセンスを発行しておらず、使用料も受け取っていない。会員は20万人を超える。

From: SOCAN is Standing Up for Music Creators and Publishers with Legal Action Against Suno Inc. for Unauthorized Use of Music in Generative AI Platform

【編集部解説】

同じ会社が世界のあちこちで訴えられているのに、訴状の形が国ごとに違う。今回のSOCANの提訴を読んで、私がまず引っかかったのはそこでした。

SOCANが裁判所に持ち込んだ主張の軸は、意外なほど一点に絞られています。Sunoがカナダで誰でも使える形でプラットフォームを提供し、そこで生成されたアウトプットをカナダおよび世界のユーザーに配信した。この配信が、楽曲の演奏権の侵害にあたる、というものです。学習の話も背景として出てきますが、請求が立っているのは出力とその配信のほうです。

7月末にドイツのミュンヘン地裁が出した判決と並べると、違いが際立ちます。あちらでGEMAの請求が認められたのは、4つの行為についてでした。米国での学習にともなう複製、モデルの内部に作品が記憶されていること(メモライゼーション)によるドイツでの複製、モデルと生成アプリを提供すること自体による公の伝達、そして出力における複製と公の伝達です。裁判所は米国で行われた学習にまで国際裁判管轄を認め、米国著作権法を適用したうえで、フェアユースの主張を退けました。

その管轄の根拠として裁判所が挙げたのは、著作権等の管理事業を規律するドイツの法律の第131条でした。管理団体という立場に認められた、特別の裁判籍です。同じ行為を争おうとしても、レコード会社や個々の権利者にこの入口はありません。ドイツで米国の学習まで射程に入ったのは、原告が管理団体だったからでもあるのです。

一方、SOCANが前面に出しているのは演奏権です。SOCANも複製権を扱えないわけではなく、SOCAN Reproduction Rightsとして管理する仕組みを持っています。ただしこちらは会員が別途委託した場合に限られ、演奏権のように自動で付いてくるものではありません。20万を超える会員のレパートリーをまとめて主張できるのは、演奏権のほうなのです。

だから「またSunoが訴えられた」と一括りにすると、いちばん面白いところを取り落とします。管理団体が前面に出せる権利の範囲は、委託の受け方や各国の制度によって変わります。訴訟戦略や立証のしやすさも当然からみますが、訴状の形が国ごとに違って見える背景には、この構造の違いがあります。

このニュースを受けて、JASRACは9月4日、海外の管理団体の生成AI対応をまとめたページを更新しました。2023年からの17項目が時系列で並んでいます。眺めていると、その多くが3つの型に収まることが見えてきます。

ひとつは訴訟です。ドイツのGEMAがOpenAIとSunoの両方に、デンマークのKODAがSunoに、そして今回のSOCAN。ふたつめはライセンスです。スウェーデンのSTIMは2025年9月、権利者が明示的に参加を選んだ楽曲に限って、AI企業向けのライセンスを試験的に立ち上げました。3つめは宣言や原則の公表で、CISACのパリ宣言、イギリスのPRSの4原則、フランスのSACEMの立場表明などがここに入ります。会員への意識調査やAI利用作品の登録ポリシーもあり、17項目すべてがこの3つに収まるわけではありませんが、大きな流れは見て取れます。

注目したいのは、同じ団体が複数の型を同時に走らせている点です。GEMAは7月23日、AI学習用の音楽データセット「PLAI by GEMA」の提供を始めました。Sunoとの判決が出る8日前のことです。約17万8000のファイルに、著作権と原盤権、メタデータをまとめて付けたものでした。

判決を待たずに出してきたところに、意味があると思います。ライセンスされた学習が実務として回ることを、判断が下る前に形で示したことになるからです。

PLAIが主な対象としているのは、学習に使った作品と競合する生成を主目的とせず、音楽をつくる人の制作過程を支援するAI音楽ツールです。生成機能を持つツールを条文のように排除しているわけではありませんが、想定の中心はそこにない。最初の顧客は、録音を楽譜に起こすAIを開発するドイツのKlangioでした。訴訟とライセンスは矛盾しているのではなく、線を引いたうえでの使い分けなのです。

SOCANの姿勢も、単純な反AIではありません。特設ページの質疑応答で、SOCANはAIそのものには価値があると述べています。データの精度を上げ、権利者と楽曲の照合を速め、誤りを減らし、支払いを正確にする道具としてのAIは支持する、と。否定しているのは、人間の創造性の代替として使われることと、同社が掲げるART原則、つまり許諾・報酬・透明性を守らない事業者のほうです。

では日本はどこにいるのか。JASRACが選んだのは、訴訟でもライセンスでもない第4の道でした。6月に公開した特設ページで、同協会は著作権法第30条の4の改正を含む抜本的な対応を求めています。AI開発のための学習を原則として無許諾で認めるこの規定を、変えてほしいという立法への要求です。

一見すると迂遠に映るかもしれませんが、順序が逆です。足場が違えば、取れる手も変わります。EUのテキスト・データマイニングの例外には、権利者が「使わないでほしい」と留保を示せば例外が及ばなくなる仕組みが、条文の中に組み込まれています。日本の30条の4には、同じ形の仕組みがありません。学習の入口で意思表示をする道具が制度として用意されていないまま、出口の出力だけを個別に追いかけることになります。JASRACが法改正から入ったのは、そういう地形の上での判断だと読むのが自然です。

なお、ミュンヘンの2件で決め手になったのは留保の有無ではなく、作品がモデルの内部に記憶されていたという認定でした。留保の仕組みは、権利者が入口で意思表示できるかどうかという制度の設計の話であって、今回の勝敗を分けた論点そのものではありません。

もっとも、どの経路も途中経過にあります。ミュンヘンの2件はいずれも未確定で、GEMA対OpenAIは控訴審に係属中です。SOCANが挙げた150件は同団体自身が「サンプル」と明記しているとおり一部であり、主張はまだ裁判所に認められたものではありません。STIMのライセンスも、限られたレパートリーで枠組みを試す試験運用として始まっています。

それでも、この1年で確実に変わったことがあります。管理団体が、AI企業と対峙する当事者として名乗りを上げたという点です。近年、音楽とテクノロジーがぶつかる場面で前面に出ていたのは、レコード会社の動きでした。今回カナダで訴状を書いたのは、20万を超える作詞作曲家や音楽出版者が集まる団体であり、ドイツで判決を勝ち取ったのも、スウェーデンで世界初のライセンスを設計したのも管理団体です。

彼らは楽曲を所有しているのではなく、預かっています。だから勝ち負けの先に、必ず分配という仕事が控えている。SOCANがART原則に透明性を含め、STIMがライセンスの条件として第三者の帰属技術の利用を義務づけたのは、争うことと同じくらい、生成物からたどって誰に払うかを決める仕組みが要るからです。

訴訟は、その仕組みを整えるための時間を確保する手段でもある。私はそう見ています。日本で30条の4の議論がどこへ着地するにせよ、AIが作った音から人間の仕事へ線を引き直す作業は、いずれ誰かがやることになる。世界の管理団体はいま、その線の引き方を実地で試しているところです。

【関連記事】

JASRAC、生成AIと著作権の特設ページ公開─30条の4改正で問う「創造のサイクル」の守り方
JASRACが生成AIと著作権の特設ページを公開した件を扱う。著作権法第30条の4の改正要求の中身を詳しく解説している。

Suno、BMGと世界規模で提携|訴えないまま過去の利用も清算
SunoがBMGと世界規模で提携し、過去の無許諾利用についても訴訟によらずに清算した経緯を、順を追ってたどった記事である。

米司法省、守ったのは学習だけ|OpenAI著作権訴訟に意見書
米司法省がOpenAIの著作権訴訟に意見書を提出した件。学習と出力を切り分ける考え方の背景を、ここから読み取ることができる。

ChatGPT vs. Penguin Random House|ドイツ児童書の著作権侵害訴訟が問うAIの「記憶」
GEMA対OpenAIの判決を土台にしながら、AIモデルの「記憶」が著作権上でどう扱われるのかを掘り下げた解説記事である。

【編集部後記】

SOCANの特設ページには、原曲とSunoの出力を並べて聴けるコーナーがあります。トム・コクラン、アヴリル・ラヴィーンら5組。証拠を法廷にだけ置かず、誰の耳にも届く形で並べたところに、この団体の構えが出ていると思いました。

しかも、それらは特別な手順で掘り出したものではないとされています。Sunoの「Explore」から誰でもたどり着ける、と明記されているのです。探さないと出てこないものではなかった。この一文のほうが、150という数字より重く響きました。


【用語解説】

演奏権
音楽を公衆に演奏したり、放送や配信によって伝えたりすることに関する権利。SOCANが中核として管理しているのはこの権利であり、今回の請求もここに立っている。

メモライゼーション
学習に使った作品が、統計的な特徴としてだけでなく、再現できる形でAIモデルの内部に残ること。ミュンヘン地裁は2件の判決で、これを複製にあたると判断した。

テキスト・データマイニングの例外
大量のデータを機械的に解析する行為を、著作権の例外として認める規定。EUでは権利者が留保を示せば例外が及ばなくなる仕組みが条文に組み込まれている。日本では著作権法第30条の4がこれにあたる。

著作権法第30条の4
著作物を、その内容を楽しむこと(享受)を目的としない形で利用する場合に、原則として許諾なく利用できるとする日本の規定。AI開発のための学習の受け皿になっている。

ART原則
SOCANが掲げる、許諾(Authorization)・報酬(Remuneration)・透明性(Transparency)の3つ。AI事業者に求める最低条件として位置づけられている。

フェアユース
米国著作権法上の例外。利用の目的や市場への影響などを総合して判断される。ミュンヘン地裁は米国での学習について米国法を適用したうえで、この主張を退けた。

帰属技術
AIが生成した出力を、影響を与えた人間の作品までたどる技術。STIMはAIライセンスの条件として、第三者が提供するこの技術の利用を義務づけている。

【参考リンク】

SOCAN(外部)
カナダ最大の会員所有型の音楽権利団体。20万を超える作詞作曲家、作曲家、音楽出版者が加盟し、演奏権を中核として管理している。

Innovation Must Respect Human Creativity(SOCAN訴訟特設ページ)(外部)
提訴の趣旨、裁判所に求める救済、原曲とSuno出力の聴き比べ、FAQを掲載した特設ページ。本記事の主要な副次情報源である。

Statement of Claim(SOCAN v. Suno 訴状)(外部)
2026年9月2日にカナダ連邦裁判所へ提出された訴状の全文。請求の内容と、対象となった楽曲の一覧をここで確認できる原典である。

What are SOCAN Reproduction Rights?(外部)
SOCANが複製権を管理する仕組みについての説明。演奏権と異なり、会員による別途の委託が必要である点をここで確認できる。

Suno(外部)
テキストを入力すると歌入りの楽曲を生成するAI音楽プラットフォーム。米国マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置いている。

PLAI by GEMA(外部)
GEMAが2026年7月23日に提供を始めたAI学習用の音楽データセット。著作権と原盤権、メタデータを束ねた形で提供している。

Stim unveils world’s first AI license for music(外部)
STIMが2025年9月に発表した、音楽向けでは世界初とされる集中的なAIライセンス。参加は権利者のオプトインによって決まる。

海外の著作権管理団体等の生成AIに関する取り組み(JASRAC)(外部)
海外の管理団体の生成AI対応を2023年から17項目にまとめた一覧。2026年9月4日にSOCANの提訴が最新項目として加わった。

創造のサイクルとの調和がとれたAI利活用の実現に向けて(JASRAC)(外部)
JASRACの基本的な考え方と、著作権法第30条の4の改正を含む抜本的な対応を求める立場を、あわせてまとめた特設ページ。

The Paris Commitment(CISAC)(外部)
2026年6月4日、創立100周年の記念総会で採択された生成AIに関する国際宣言。4つの原則を各国政府と企業に対して求める。

【参考記事】

Urteil GEMA gegen SUNO(Pressemitteilung 16/2026)(外部)
ミュンヘン地裁第42民事部の判決を裁判所自身が説明したもの。対象6曲、国際裁判管轄の根拠、フェアユース却下の理由まで載る。

Munich District Court Rules on AI-generated music GEMA v Suno(外部)
判決が禁じた4つの行為を整理した英語の解説。管理団体にのみ開かれた裁判籍という論点についても、はっきりとした形で示している。

GEMA notches a second transatlantic AI copyright win in Germany(外部)
EU域外で行われた学習にも著作権が及びうるとした点の意味と、この判決がまだ確定していないことを整理した英語の解説である。

SOCAN sues AI music company Suno, alleging copyright infringement(外部)
提訴の概要、訴状に挙げられた楽曲、SOCAN幹部のコメントを伝えるカナダ公共放送の記事。会員数の内訳についても触れている。

SOCAN Sues Suno for Copyright Infringement Over AI Generated Music Outputs(外部)
SOCANがこれまで展開してきた無許諾AI音楽への反対運動と、今回の提訴との連続性を押さえたカナダの音楽業界誌による記事。

STIM launches world’s first collective AI music licence(外部)
STIMのライセンスの構造、パートナーとなった企業、帰属技術の位置づけを、CISACの視点からまとめて説明した記事である。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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