AI向けデータセンターをめぐる旺盛な投資が、メモリや半導体部品の争奪戦を引き起こし、私たちの身近なガジェットの価格を押し上げ続けています。Framework、Raspberry Pi、Steam Frameと、この「RAMpocalypse」と呼ばれるメモリ危機は、これまで最新鋭のハードウェアを次々と直撃してきました。その余波は今、懐かしのゲーム機を蘇らせるレトロゲーム互換機「Polymega」にまで及んでいます。
Playmajiが開発するモジュール式レトロゲーム互換機「Polymega」の価格が、10月5日から引き上げられる。本体(Base Unit)は599ドル、Polymega Remixは229ドル、Element Module Setsは99ドル、RC-Seriesコントローラーは35ドルとなる一方、物理ゲームコレクションシリーズなど他の製品は据え置かれる。Playmajiは、AI向けデータセンター投資の急増による部品の争奪戦と、燃料費高騰による製造・輸送コスト増を理由に挙げ、これ以上のコスト吸収は持続不可能だと説明している。10月5日より前に発注した注文には現行価格が適用される。
From:
“We Don’t Take This Decision Lightly” – Polymega’s Prices Are Going Up Thanks To The RAMpocalypse
【編集部解説】
599ドルという数字が示す、8年間の値上がり
Polymegaは2018年9月に予約受付を開始した際、249ドルという価格が発表されていました。今回の値上げ後の本体価格は599ドルですから、単純計算でも8年間で価格は2倍以上に膨らんだことになります。
この間の推移を丁寧に追うと、2023年頃の時点で既に本体価格は550ドルに達していたことが、海外の愛好家サイトRetroRGBの記事から確認できます。同記事は「2018年の発売時、249ドルの価値はあると思っていた。それが5年後、550ドルという法外な価格になった」と評しており、値上がりへの不満は今回が初めてではないことがうかがえます。つまり今回の599ドルへの値上げは、「AIによる急激な事件」というより、「もともと右肩上がりだった価格が、RAMpocalypseという新しい圧力でさらに押し上げられた」という文脈で捉えるべき動きだと考えられます。
レトロゲーム保存という営みが、いま直面していること
Polymegaのような製品の存在意義は、単なる「懐かしいゲームで遊べる機械」にとどまりません。ディスクやカートリッジという物理メディアが劣化し、それを読み取るための実機(PS1、セガサターン、NEC PCエンジンCD-ROM²など)も年々故障・入手困難になっていくなかで、「正規に所有している物理メディアを、今の環境で失われないうちに遊べる形にする」という保存(プリザベーション)の実践を、一般消費者レベルで支えてきた製品です。実際、Polymegaが2018年に発表された当初、海外のあるユーザーはフォーラムで「物理メディアと実機をこれ以上延命できなくても、このシステムがあれば保存が長持ちする」という期待を語っていました。
そして今回、興味深いのは、こうした「保存」を担う機器がPolymega一社の問題ではないという点です。互換性重視のFPGA機(MiSTer、Analogue、パーマー・ラッキー氏が手がけるModRetroなど)も同様に部材不足に直面しており、コアボードや周辺アクセサリーの品切れが相次いでいると報じられています。レトロ系携帯機を手がけるAynも、AI主導のメモリ危機を名指しして自社製品(Thor、Odin 3)の値上げを発表しています。
ここで一つ、皮肉な対比を紹介しておきたいと思います。2024年、Time Extensionは「MiSTer FPGAの保有コストが劇的に下がろうとしている」という記事を報じていました。従来1台250ドル前後していた互換ボードが、99ドルの新型クローンボードの登場によって、FPGA保存機への参入障壁が大きく下がる——そんな明るい兆しがあったのです。
あれからわずか2年あまりで、状況は完全に反転しています。「保存技術の民主化」に向かっていたはずの流れが、AIデータセンター需要という、レトロゲームの世界からは最も遠いところにある力によって押し戻されている——それが、Polymegaの値上げという個別の出来事の背後にある、より大きな構図だとinnovaTopiaは考えます。
保存という営みは本来、専門知識や資金力を持つ一部の愛好家だけでなく、広く誰もがアクセスできることに意味があります。その前提が、今後も成り立ち続けるのかどうかは、現時点では見通せません。
公式説明をどこまで額面通り受け取れるか
Playmajiは値上げの理由として、AI向けデータセンター投資の急増による部品の争奪戦と、燃料費高騰による製造・輸送コスト増を挙げています。この説明自体は、Framework・Xbox・Nintendo Switch 2など、innovaTopiaがこれまで報じてきた他社の値上げ理由と軌を一にしており、単独で見れば不自然な説明ではありません。
一方で、Time Extension記事のコメント欄では、値上げ理由を額面通り受け取れるかという疑問の声も一部で見られます。実際の原価構成や利益率は、Playmajiが数字を公開していない以上、外部から検証することはできません。ここは正直に「わからない」と述べておくべき部分です。ただし、この種の懐疑が読者から自然に出てくること自体は、「大手が挙げる値上げ理由を、そのまま受け取ってよいのか」という感覚が、レトロゲームコミュニティの中に既に育っていることの表れとも言えるでしょう。
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【編集部後記】
レトロゲームを未来へ残す技術が、最も遠いところにあるはずのAI開発競争によって値上がりしていく——この構図に、割り切れなさを感じた方もいるのではないでしょうか。保存という営みが、誰にでも開かれたものであり続けるために、今、何ができるのか。私たちも、まだ明確な答えを持っているわけではありません。ただ、この値上げのニュースを、単なる一企業の価格改定として読み流さず、少し立ち止まって考えてみたいと思っています。
【参考リンク】
Polymega公式サイト(外部)
製品情報、予約ページ、値上げに関する公式アナウンスを確認できる。
MiSTer FPGAプロジェクト公式Wiki(外部)
オープンソースのFPGA保存プロジェクト。技術仕様や参加方法を確認できる。
Analogue公式サイト(外部)
Analogue Pocket等、FPGA互換機を手がけるメーカー公式。
AYN公式サイト(外部)
Thor・Odin 3など、メモリ危機を理由に値上げを発表した携帯型実機メーカーの公式サイト。
【用語解説】
RAMpocalypse
AI需要主導のメモリ価格高騰を指して海外メディアが使う造語。Playmaji公式の呼称ではない。RAMageddon(RAMmageddon)とも呼ばれる。
FPGA(Field-Programmable Gate Array)
回路構成を後から書き換え可能な集積回路。ソフトウェアエミュレーションと異なり、実機に近いタイミング精度で旧ハードウェアを再現する技術。MiSTerやAnalogue製品など、レトロゲーム保存系ハードウェアの中核技術。
Element Module
Polymega本体に差し込んで使う交換式モジュール。NES、SNES、メガドライブなど、カートリッジ式ゲーム機ごとに個別販売される拡張パーツ。
ゲームプリザベーション(保存)
経年劣化する物理メディアや実機を、正規に所有した状態のまま長期的に遊べる形で残す営み。ROM吸い出しやその再配布とは区別される実践として語られることが多い。
【参考記事】
Polymega — Wikipedia(外部)
2018年の予約開始時価格(249ドル)、および2021年発売時の実勢価格(450ドル)の確認に使用。
Polymega Is Now An App — RetroRGB(外部)
2023年頃時点で本体価格が550ドルに達していたことの確認に使用。
The Polymega All-In-One Console — vgcollectフォーラム(2018年)(外部)
発売発表当初から「保存」目的での期待が語られていたことの裏付けに使用。
The FPGA Retro Gaming War Kicks Off — blog.lon.tv(外部)
MiSTer・Analogue・ModRetroなど他のFPGA保存機も同じ部材不足に直面している状況の確認に使用。
Analogue Pocket Stock, AYN Odin, Thor — Kotaku(外部)
Aynがメモリ危機を明示的な理由に携帯機を値上げした事例の確認に使用。
The Cost Of Owning A MiSTer FPGA Is About To Come Down Dramatically — Time Extension(2024年)(外部)
2年前は保存機の低価格化が進んでいたという対比材料として使用。














