AIデータセンター向けの旺盛な需要が、私たちの手元にあるノートパソコンのメモリ価格まで揺るがしている——そんな報道を、この数ヶ月何度も目にしてきました。多くはメーカー側がコスト上昇にどう対応するかという、受け身の話でした。そうした中、モジュール式ノートPCで知られるFrameworkが、珍しく逆方向の動きを見せています。7月の値上げから1ヶ月半ほど、同社は安く仕入れられたメモリ在庫を確保し、その差額を一部の顧客へ実際に還元し始めました。9月6日にお伝えしたFramework Laptop 12の「所有権」の話とあわせて、この会社の透明性への姿勢を、別の角度から見ていきます。
9月8日に公表されたところによると、Framework社はLaptop 13 Pro向けLPCAMM2メモリについて、Micron製32GB・64GBモジュールをより安価に確保できたという。値上げ後の価格で出荷済みだった顧客には差額が自動返金され、保留中の予約のうちBatch 10までは自動的に値下げ後の価格が適用される。Batch 10までの予約者は32GB・64GBへの構成変更も可能で、出荷済みのDIY Edition購入者もメモリを返送すれば交換に応じてもらえる(返送料はFramework負担)。新規予約にはこの値下げは適用されず、16GBが239ドル(約3万7000円)、32GBが800ドル(約12万3000円)、64GBが1,600ドル(約24万6000円)という現行価格が維持され、この価格も7月22日の値上げ前の水準までは戻っていない。
From:
Navigating the volatile silicon market: updates on memory and storage pricing
【編集部解説】
「還元」という言葉が指す範囲
まず整理しておきたいのは、今回の値下げが誰に対するものかという点です。対象になるのは、あくまで既存の予約注文者と、すでに製品を受け取っている顧客の一部に限られます。これから新規に予約する場合、価格は7月の値上げ後の水準(16GBが239ドル=約3万7000円、32GBが800ドル=約12万3000円、64GBが1,600ドル=約24万6000円)のまま変わりません。
また、今回下がった価格自体も、7月の値上げ前——つまりプレオーダー開始当初の水準までは戻っていません。「値下げ」というポジティブな見出しに引っ張られすぎず、対象範囲は正確に見ておきたいところです。
メディアが呼ぶ「RAMpocalypse」の中の逆流
海外の一部メディアは、AIデータセンター向け需要に押される形で続く一連のメモリ高騰を、皮肉を込めて「RAMpocalypse」と呼んでいます。ただし、これはあくまで報道側が使う通称であり、Framework自身が公式にそう名乗っているわけではありません。同社の公式ブログを確認しましたが、この語は一度も登場しませんでした。
当メディアもこの数ヶ月、AI主導のメモリ危機がスマートフォンやゲーム機を含む各社の製品にどう波及しているかを追ってきました。そこで共通していたのは、メーカー側がコスト上昇にどう対応するかという、受け身の構図です。今回のFrameworkの動きは、その流れの中では珍しく逆方向——コストが下がった分を、実際に顧客へ戻す事例にあたります。
なぜFrameworkにはこれができたのか
Frameworkがこうした対応を取れる背景には、同社が繰り返し明言してきた価格方針があります。仕入れコストの加重平均に基づいて価格を設定し、コストが上がれば上げる代わりに、下がれば下げるという原則です。プレオーダー中心・DIY前提というビジネスモデルだからこそ、大手メーカーのような大量生産・大量在庫を抱え込まずに、この機動的な価格転嫁がしやすいという側面もありそうです。
とはいえ、これは恒久的な値下げではありません。Framework自身は今回確保できたのを「限定的な数量」としており、複数の海外メディアはこれを一時的な措置と評価しています。在庫が尽きれば、再び値上げされる可能性は十分にあります。9月6日の記事でお伝えした「所有権」というテーマと同様、透明性を重視する姿勢そのものは評価できますが、それが構造的なメモリ危機を解決するわけではない、という点は分けて見る必要があります。
まだ見えていないこと
今回、Frameworkは値下げの根拠となった安価なメモリの調達先を明らかにしていません。どのような経路で、なぜこのタイミングで安く仕入れられたのかは、現時点では分かっていません。
また、Frameworkは日本国内で正規販売を行っておらず、購入は個人輸入が前提になります。今回の恩恵を直接受けられるのは、すでに海外から予約・購入している一部の国内ユーザーに限られるという点も、頭の片隅に置いていただければと思います。
【関連記事】
「Linuxデスクトップの年」を自称する前に|Framework Laptop 12が体現する所有権の話
Frameworkの透明性への姿勢を、修理・所有権という別の角度から掘り下げた記事。
Nothingが新型CMFスマホを断念——「前進した端末が作れない」、AI需要が引き起こすメモリ危機の実態
メモリ危機が「受け身」の対応を強いてきた実例。今回のFrameworkとは対照的な事例。
Nothing、2027年にスマホラインアップを約2倍へ|インドで専売店も拡大
メモリ高騰のさなかでも強気な拡大方針を見せた、Nothingの事例。
【編集部後記】
今回の値下げは、あくまで期間限定の在庫が生んだ小さな揺り戻しにすぎません。メモリ危機そのものが収束したわけではなく、次の仕入れでまた価格が動く可能性も十分にあります。コストが上がれば上げ、下がれば下げるという当たり前のことを、当たり前にやり続けられるメーカーがどれだけあるのか——私たちも、この先の動きを注意深く見ていきたいと思います。
【参考リンク】
Framework公式サイト(外部)
モジュール式・修理/アップグレード前提のノートPC・デスクトップを展開するメーカー公式サイト。
Framework Laptop 13 Pro 製品ページ(外部)
対象機種の仕様・現行価格を確認できる公式ページ。
LPCAMM2メモリ単体購入ページ(外部)
16GB/32GB/64GBそれぞれの現行価格を確認できる購入ページ。
DIY Editionメモリ交換申請フォーム(外部)
出荷済みDIY Editionユーザーが安価な構成への切り替えを申請する専用窓口。
Framework Community Forum(外部)
ユーザー同士の議論やフィードバックの場となる公式コミュニティフォーラム。
Micron「LPCAMM2」解説ページ(外部)
今回のメモリを供給するMicronによる、LPCAMM2規格の技術解説。
【用語解説】
LPCAMM2
ノートPC向けメモリ規格CAMM2のLPDDR5Xベース低消費電力版。SO-DIMMより省スペース・省電力ながら着脱可能な次世代メモリモジュール。
Batch(予約バッチ)
Frameworkの予約注文管理単位。注文順に番号が振られ、部材供給状況に応じて価格・仕様変更の適用範囲を区切る基準として使われる仕組み。
DIY Edition
メモリ・ストレージ・OSなどを購入者自身が組み込む、Framework製品のセルフビルド版。
加重平均コスト(Weighted Average Cost)
複数回・複数価格で仕入れた在庫の平均取得原価を算出し、それに基づいて販売価格を設定する会計手法。Frameworkが価格改定のたびに言及している方式。
RAMpocalypse
AI需要主導のメモリ価格高騰を指して海外メディアが使う造語。Framework公式の呼称ではない。
【参考記事】
The RAMpocalypse Hits Framework Hard As LPCAMM2 Sourcing Doubles, Pushing 64GB Configs To $1,600 — Wccftech(外部)
7月の値上げ時の実額(32GB:439→800ドル、64GB:849→1,600ドル)を報道。
Good news for some: Framework swims against the tide of the RAMpocalypse by ‘retroactively reducing’ its LPCAMM2 prices — PCGamer(外部)
「RAMpocalypse」という通称の使用例と、Panicの関税返金事例との比較視点。
Framework Scores “A limited quantity” Of Lower Cost LPCAMM2 Modules — PC Perspective(外部)
安価な仕入先をFrameworkが非開示にしている点を指摘。
Laptop-slinger Framework refunding customers who paid top dollar for RAM — The Register(外部)
返金対応の詳細と、他社(Everpure、HPE)の類似対応との比較。
Framework Cuts LPCAMM2 Prices for Some Laptop 13 Pro Orders — Digital Citizen(外部)
対象条件を表形式で整理。
Framework Lowers Laptop 13 Pro Pre-Order Prices After Securing Cheaper Memory — Guru3D(外部)
今回の値下げの経緯と返金対応を報道。
















