Last Updated on 2025-04-23 14:25 by admin
米国のPew Research Centerが2025年4月22日に発表した最新調査によると、米国の13歳から17歳の10代の若者1,391人とその親を対象にした調査で、ソーシャルメディアが若者のメンタルヘルスに与える影響について、親と子どもの間で認識の差があることが明らかになった。
主な調査結果:
・親の55%が10代のメンタルヘルスについて「非常に」または「とても」心配していると回答したのに対し、10代自身ではその割合は35%にとどまる。
・10代の48%がソーシャルメディアは同年代の人々に「主に否定的な」影響を与えていると考えており、この割合は2022年の32%から増加している。 しかし、自分自身への否定的影響については14%のみが認識している(2022年の9%から増加)。
・ソーシャルメディアに費やす時間が多すぎると報告する10代は45%で、2022年の36%から増加している。
・10代の44%がソーシャルメディアの使用を減らす努力をしたと報告しており、女子(48%)は男子(40%)よりもその傾向が強い。
・10代の女子は男子よりもソーシャルメディアが自分のメンタルヘルス(25%対14%)、自信(20%対10%)、睡眠(50%対40%)に悪影響を与えたと回答する割合が高い。
・10代の74%がソーシャルメディアは友達とのつながりを感じさせると回答し、63%が創造的な面を見せる場所を提供していると回答している。
・親の80%が自分の10代の子どものメンタルヘルスについて子どもと話すことに非常に快適または非常に快適だと回答しているが、同じように感じる10代は52%にとどまる。
・10代の34%が少なくとも時々ソーシャルメディアでメンタルヘルスに関する情報を得ていると回答している。
・約5人に1人の10代がソーシャルメディアが自分のメンタルヘルス(19%)または成績(22%)に悪影響を与えたと回答している。
関連する他の調査:
2019年に発表された米国医師会雑誌(JAMA)の研究では、6,595人の米国の若者を3年間追跡調査した結果、ソーシャルメディアを1日6時間以上使用する若者はメンタルヘルスのリスクが78%高まることが判明している。
また、2017年5月に英王立公衆衛生協会(RSPH)が発表した調査では、14歳から24歳の1,479人を対象に人気SNS5社の影響を調査した結果、インスタグラムが若者の心に与える否定的な影響が最も高かったことが報告されている。
from: Teens, Social Media and Mental Health
【編集部解説】
Pew Research Centerの最新調査結果は、私たちがテクノロジーと人間の関係を考える上で重要な示唆を与えてくれます。特に注目すべきは、10代の若者たちのソーシャルメディアに対する認識が2022年から2025年にかけて大きく変化していることです。同年代への影響を「主に否定的」と考える割合が32%から48%へと増加したことは、若者自身がデジタルプラットフォームの影響をより批判的に捉えるようになっていることを示しています。
この調査が今特に重要なのは、2023年から2024年にかけて米国で30以上の州がソーシャルメディア規制法案を検討し、ユタ州やオハイオ州などでは実際に法律が成立したという背景があるためです。これらの法律は16歳未満の若者のソーシャルメディア利用に親の同意を義務付けるなど、若者保護を目的としています。
また、ソーシャルメディアの影響には明確なジェンダー差が存在することも見逃せません。女子は男子よりもメンタルヘルス(25%対14%)、自信(20%対10%)、睡眠(50%対40%)への悪影響を報告する割合が高くなっています。これは2019年の研究結果とも一致しており、ソーシャルメディア利用とうつ病の関連性が女子において顕著である可能性を示唆しています。
UT Southwestern Medical Centerの2024年の研究では、ソーシャルメディアへの「感情的な過度の愛着」がうつ病や不安、自殺念慮で治療を受けている若者のメンタルヘルス症状の重症度と関連していることが明らかになりました。この研究では、うつ病や自殺傾向のある若者の40%が「ソーシャルメディアを使用していないときに動揺したり、不満や失望の感情を抱いたりする」という問題のあるソーシャルメディア利用を報告しています。
一方で、ソーシャルメディアの肯定的な側面も無視できません。Johns Hopkins Medicineの専門家によれば、ソーシャルメディアは多くの10代の若者にとって、自己表現の場や困難な時期を乗り越えるためのコミュニティを提供しています。特に、メンタルヘルスケアの開始、性的アイデンティティの肯定、社会的サポートの提供、ストレスに対する緩衝効果といった助けを求める行動を促進する側面があります。
この調査結果を単純な「ソーシャルメディア悪玉論」として捉えるのではなく、デジタル時代における人間の心理と社会関係の複雑な変容として理解すべきだと考えています。テクノロジーそのものが問題なのではなく、その使用方法やコンテキスト、個人の脆弱性要因との相互作用が重要なのです。
今後の課題としては、UT Southwestern Medical Centerの研究者たちが取り組んでいるような、若者のソーシャルメディア依存を軽減するための介入ツールの開発が重要でしょう。例えば、家族でソーシャルメディアの使用制限について話し合い、特定のガイドラインに同意する「家族ソーシャルメディア計画」は、メンタルヘルスへの影響が生じる前にスクリーンタイムを管理するのに役立つかもしれません。
【用語解説】
Pew Research Center(ピュー・リサーチ・センター):
アメリカの非営利シンクタンクで、世論調査や社会調査を行う機関。政治的に中立な立場で、アメリカや世界の社会問題、世論、人口動態などに関する情報を提供している。1990年に設立され、2004年に現在の名称となった。
第三者効果:
メディアの影響は自分よりも他者に強く現れると考える心理的傾向。本調査では10代の若者が「ソーシャルメディアは他の人には悪影響だが、自分には大きな影響はない」と考える傾向に見られる。
デジタルウェルビーイング:
デジタル技術やインターネットの使用が心身の健康や幸福感に与える影響を考慮した概念。テクノロジーの使用と健康のバランスを取ることを目指す。
ソーシャルメディア規制法:
若者のソーシャルメディア利用を制限または規制するための法律。2024年にユタ州で成立した法律では、16歳未満の若者がソーシャルメディアアカウントを作成する際に親の同意を義務付け、夜間のアクセス制限などを含む。
【参考リンク】
Pew Research Center(外部)
アメリカの非営利シンクタンクで、社会問題や世論調査に関する信頼性の高いデータを提供している。
McLean Hospital(マクリーン病院)(外部)
ハーバード大学医学部の精神医学教育病院で、ソーシャルメディアとメンタルヘルスに関する研究も行っている。
UT Southwestern Medical Center(外部)
テキサス州ダラスにある医療センターで、若者のメンタルヘルスやソーシャルメディア依存に関する研究を行っている。
Johns Hopkins Medicine(外部)
アメリカの有名医療機関で、ソーシャルメディアの適切な使用とメンタルヘルスに関する研究を行っている。
厚生労働省 e-ヘルスネット(外部)
日本の厚生労働省が運営する健康情報サイトで、インターネット依存やデジタルデバイスの健康への影響に関する情報も提供している。
【参考動画】
Vivek Murthy公衆衛生局長官がソーシャルメディアの若者のメンタルヘルスへの影響について警告している動画。
Pew Research Centerの調査結果に基づき、10代のソーシャルメディア利用とその影響について解説している。