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キイトルーダ・オプジーボが早期がん治療で大幅進歩、ASCO 2025で再発リスク最大68%減を実証

キイトルーダ・オプジーボが早期がん治療で大幅進歩、ASCO 2025で再発リスク最大68%減を実証 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-03 07:33 by admin

2025年6月1日にシカゴで開催されたASCO(米国臨床腫瘍学会)年次総会において、メルクのキイトルーダ、ブリストル・マイヤーズ スクイブのオプジーボ、アストラゼネカのイムフィンジ、ロシュのテセントリクなどのチェックポイント阻害薬が早期がんでの有効性を示した。

ブリストル・マイヤーズのNIVOPOSTOP試験では、頭頸部がん術後のオプジーボ投与により疾患再発リスクが24%減少した。メルクのKEYNOTE-689試験では術前術後のキイトルーダ投与で27%の再発リスク減少を示し、FDAは6月23日までに承認可否を決定予定である。

ロシュのATOMIC試験では、DNA修復不全を持つステージ3結腸がん患者において、テセントリクと化学療法の併用により3年無病生存率が86.4%となり、化学療法単独の76.6%と比較して疾患再発リスクが50%減少した。

リジェネロンのリブタヨは皮膚扁平上皮がんで疾患再発・死亡リスクを68%減少させた。

From: 文献リンクAs life-saving checkpoint drugs move to earlier cancers, researchers debate how best to use them

【編集部解説】

今回のASCO 2025で発表された一連の研究結果は、がん治療における重要なパラダイムシフトを示しています。これまでチェックポイント阻害薬は主に転移がんや進行がんの「延命治療」として使用されてきましたが、今回の結果により「根治を目指す治療」としての位置づけが確立されつつあります。

技術的な革新性と治療効果の向上

特に注目すべきは、DNA修復不全(dMMR)という特定のバイオマーカーを持つ患者群での劇的な効果です。ATOMIC試験では疾患再発リスクが50%減少という結果が示されており、これは従来の化学療法単独では達成困難な数値といえます。このようなバイオマーカー主導の精密医療アプローチは、今後の早期がん治療の標準となる可能性が高いでしょう。

市場への影響と医療経済学的インパクト

製薬業界にとって、この動きは新たな巨大市場の創出を意味します。現在チェックポイント阻害薬市場は年間約600億ドル規模ですが、早期がん領域への適応拡大により、この市場は今後5年間で大幅な成長が見込まれます。特にメルクのキイトルーダはチェックポイント阻害薬市場において主要な薬剤の一つであり、早期がん適応の承認により更なる成長が期待されます。

治療戦略の複雑化と医師の判断負荷

一方で、術前・術後・両方という複数の投与タイミングオプションの存在は、臨床現場に新たな課題をもたらしています。例えば、KEYNOTE-689試験では術前術後両方のキイトルーダ投与でEFSの有意な改善が示され、NIVOPOSTOP試験では術後のニボルマブ併用でDFSの有意な改善が示された。これらの結果は有望であるものの、異なる試験デザインや患者集団であるため直接比較は難しく、最適な投与タイミングやレジメンの選択は今後の重要な検討課題です。

規制当局の対応と承認プロセスの変化

FDAが、周術期における併用療法の評価において、個々の治療要素(術前療法、術後療法など)がどの程度有効性に貢献しているかをより明確にすることを重視していることは、今後の臨床試験デザインに大きな影響を与えるでしょう。これにより、より精密で複雑な試験設計が求められ、開発コストの増加と承認までの期間に影響を与える可能性があります。

患者にとってのメリットとリスク

患者側の視点では、根治の可能性が高まる一方で、免疫関連副作用のリスクも考慮する必要があります。特に自己免疫疾患の既往がある患者では慎重な適応判断が求められます。また、治療費の増加も重要な課題となるでしょう。

今後の展望と技術発展の方向性

この分野の発展により、将来的にはAIを活用したバイオマーカー解析や、個別化された投与スケジュールの最適化が進むと予想されます。また、他のがん種への適応拡大や、新たなバイオマーカーの発見により、より多くの患者が恩恵を受けられる可能性があります。

【用語解説】

チェックポイント阻害薬
免疫細胞のT細胞が活性化することを制御・抑制する仕組みを阻害する薬剤。がん細胞が免疫細胞から攻撃されないよう利用している免疫制御機能をブロックし、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにする。PD-1、PD-L1、CTLA-4などのタンパク質を標的とする。

DNA修復不全(dMMR)
DNAミスマッチ修復機能が低下している状態。MLH1、MSH2、MSH6、PMS2の4つのタンパク質のうちいずれか1つでも発現が消失する場合に判定される。チェックポイント阻害薬が特に有効とされるバイオマーカー。

術前術後療法(周術期療法)
手術前(術前)と手術後(術後)の両方で薬物治療を行う治療戦略。術前治療で腫瘍を縮小させ、術後治療で残存がん細胞を排除することで根治を目指す。

無イベント生存期間(EFS)
がんの再発、進行、死亡のいずれも起こらない期間。治療効果を評価する重要な指標の一つ。

無病生存期間(DFS)
がんの再発が認められない期間。根治を目指す早期がん治療において重要な評価項目。

ASCO(米国臨床腫瘍学会)
1964年に設立された世界最大のがん専門医学会。毎年開催される年次総会は世界中から4万人以上の専門家が参加する、がん研究・治療における最重要イベント。

【参考リンク】

メルク(Merck)(外部)
キイトルーダを開発・販売する米国の大手製薬会社。130年以上の歴史を持つ研究開発型バイオ医薬品企業

ブリストル・マイヤーズ スクイブ(外部)
オプジーボを開発・販売する米国の多国籍製薬会社。

アストラゼネカ(外部)
イムフィンジを開発・販売する英国系多国籍製薬会社。個別化医療ソリューションを推進

ロシュ(Roche)(外部)
テセントリクを開発・販売するスイスの多国籍製薬・診断薬会社。個別化医療を推進

リジェネロン(外部)
リブタヨを開発・販売する米国のバイオテクノロジー企業。重篤な疾患の治療薬開発に特化

ASCO(米国臨床腫瘍学会)(外部)
世界最大のがん専門医学会の公式サイト。最新のがん研究成果と治療ガイドラインを提供

【参考記事】

Biomarker-driven precision oncology in early-stage cancers(外部)
早期がんにおけるバイオマーカー主導の精密医療に関するLancet Oncologyの論文

【編集部後記】

今回のチェックポイント阻害薬の早期がん治療への展開は、がん治療の未来を大きく変える可能性があります。皆さんは、こうした新しい治療法にどのような期待や不安を感じますか?また、免疫療法が自分や家族の健康にどのように影響するか、考えたことはありますか?私たちinnovaTopia編集部も皆さんと一緒に、最新の医療技術について考え、学んでいきたいと思っています。

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TaTsu
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