中国・寧波市の病院で、Alibaba傘下の研究者が開発したAIツール「PANDA(pancreatic cancer detection with artificial intelligence)」の臨床試験が実施されている。このシステムは通常の低線量CT画像をスキャンし、約24症例の膵臓がんを検出した。そのうち14例は早期段階だった。膵臓がんの5年生存率は約10%である。
2023年のNature Medicine誌の研究では、PANDAがCTスキャンの93%で膵臓病変を正確に検出したことが示された。寧波では約1,400件の警告を発したが、医師は約300件のみが追加検査に値すると判断した。カリフォルニア大学サンディエゴ校の外科医は、訓練を受けた放射線科医であれば同様の検出が可能だと指摘し、専門医が少ない病院での有用性を示唆した。
FDAは2025年4月にPANDAに「breakthrough device」ステータスを付与し、規制審査を迅速化した。
From:
AI Tool in China Catching Early Pancreatic Cancer
【編集部解説】
膵臓がんは「サイレントキラー」と呼ばれるほど早期発見が困難な疾患です。標準的な画像診断でさえ小さな膵臓腫瘍の最大40%を見逃しており、高リスク患者を積極的にスクリーニングしている場合でも発見が遅れるケースが報告されています。これは腫瘍の画像上の特徴が微妙であることや、膵臓そのものへの注意が不十分であることが原因とされています。
PANDAの技術的な革新性は、通常の非造影CT画像から膵臓がんを検出できる点にあります。造影剤を使わない通常のCTスキャンは放射線量が少なく、他の目的で撮影されることが多いため、このデータを活用できれば「偶然のスクリーニング」が可能になります。3,208人の膵臓がん患者のCTスキャンで訓練されたこのディープラーニングモデルは、放射線科医よりも34.1%高い感度を示しました。
ただし、偽陽性(誤警報)の問題は看過できません。元記事では約1,400件の警告のうち約300件のみが追加検査に値すると判断されたと報告されています。これは約78%が偽陽性だったことを意味します。膵臓がんの一般人口における発症率は10万人あたり約12人と極めて低いため、99%の特異度を持つ検査でも約990人が実際にはがんを持たないまま不安と追加検査を経験することになります。
一方で、Alibabaの研究者は偽陽性率について「健康な個人1,000人の検査において、偽陽性はわずか1件」と主張しており、これは99.9%の特異度を意味します。元記事の寧波での実績との乖離は、実際の臨床環境での運用と研究環境での性能の違いを示唆している可能性があります。
FDAが2025年4月に付与した「Breakthrough Device(画期的医療機器)」指定は、生命を脅かす疾患に対する効果的な治療または診断を提供するデバイスに与えられる特別なステータスです。この指定により、PANDAは優先的な審査を受け、FDA担当者との対話的なガイダンスや、臨床試験デザインの合理化といった恩恵を受けられます。これは完全な承認ではありませんが、市場投入への重要な一歩となっています。
早期段階で発見された膵臓がんの5年生存率は80%以上に達する一方、進行した状態で発見された場合の5年生存率は約10%に留まります。この生存率の劇的な差が、AI支援による早期発見の重要性を物語っています。特に放射線科医などの専門医が不足している地域や病院では、PANDAのようなAIツールが診断能力の格差を埋める可能性を秘めています。
中国ではすでに70,000人以上がこのシステムでスクリーニングを受けており、ある75歳の女性患者ではわずか1ミリメートルの悪性腫瘍が極めて早期の段階で発見されました。こうした実例は、AIが医療における「ラストマイル」の障壁を克服する可能性を示唆しています。
ただし、寧波の病院ではすでに新たな課題に直面しています。フォローアップが必要な全患者に連絡するための十分なスタッフがおらず、大量のデータを処理するための旧式なハードウェアでは対応しきれない状況です。Dr. ZhuがコンピューターでPANDAにアクセスしようとした際、システムがフリーズすることも何度かあったといいます。技術的な進歩と医療インフラの整備のバランスが、今後の課題となるでしょう。
【用語解説】
PANDA (Pancreatic Cancer Detection with Artificial Intelligence)
Alibaba傘下の研究者が開発した膵臓がん検出用AIシステムである。通常の非造影CT画像から膵臓病変を検出する深層学習モデルを使用している。
Breakthrough Device(画期的医療機器)
FDAが生命を脅かす疾患に対して効果的な治療または診断を提供する可能性のある医療機器に付与する特別指定である。優先的な審査、FDA担当者との対話的ガイダンス、臨床試験デザインの合理化などの恩恵を受けられる。
非造影CT
造影剤を使用しない通常のCTスキャンである。放射線量が少なく、他の診断目的で撮影されることが多い。PANDAはこの通常のCT画像から膵臓がんを検出できる点が革新的とされる。
偽陽性
疾患がないにもかかわらず検査で陽性と判定されることである。患者の不安を煽り、不必要な追加検査や医療費の増大につながる可能性がある。
感度と特異度
感度は実際に疾患がある人を正しく検出できる割合、特異度は疾患がない人を正しく陰性と判定できる割合である。PANDAは放射線科医より34.1%高い感度を示したとされる。
寧波市
中国浙江省に位置する東部沿岸の都市である。PANDAの臨床試験が実施されている病院がある。
【参考リンク】
Nature Medicine – Large-scale pancreatic cancer detection via non-contrast CT and deep learning(外部)
2023年11月に発表されたPANDAシステムの性能を評価した査読付き論文。CTスキャンの93%で膵臓病変を正確に検出。
Alibaba Cloud – AI-Powered Cancer Detection Tool(外部)
Alibabaが開発したPANDAの公式情報。Fortune誌の2024年Change the Worldリストに選出された実績を紹介。
FDA – Breakthrough Devices Program(外部)
FDAの画期的医療機器プログラムの公式説明ページ。指定基準、申請プロセス、企業が受けられる支援内容を詳述。
【参考記事】
Challenges of early detection of pancreatic cancer – PMC (NIH)(外部)
膵臓がん早期発見の医学的課題をまとめた2025年10月の論文。早期発見時の5年生存率が80%以上と示す。
Early Detection of Pancreatic Cancer: Opportunities and Challenges – PMC (NIH)(外部)
膵臓がんスクリーニングにおける偽陽性の問題を統計的に分析。99%の特異度でも約990人が偽陽性となる可能性。
Advancing multi-disease detection with AI imaging at Alibaba DAMO Academy – AI for Good(外部)
Alibabaの研究者による公式発表。中国で70,000人以上がスクリーニング、健康な個人の偽陽性は1,000人に1件と主張。
Alibaba’s Damo Panda AI Earns FDA Breakthrough for Early Pancreatic Cancer Detection – LinkedIn(外部)
FDAの画期的医療機器指定の意義とPANDAの技術的詳細を解説。99.9%の特異度、市場投入への道筋を説明。
【編集部後記】
実は当メディアでは2025年4月にもPANDAのFDA承認を報じています。あれから約9ヶ月、寧波での実運用で24症例、そのうち14例が早期段階で発見されたという成果は、AI医療の着実な前進を物語っています。確かに偽陽性の課題は残りますが、わずか1ミリの腫瘍を見逃さない精度は、従来では救えなかった命を救う可能性を秘めています。
特に専門医が不足する地域では、PANDAのような技術が診断の「底上げ」を実現できるはず。研究室から実際の病院へ、技術が社会実装される過程には必ず試行錯誤が伴います。その歩みを見守りながら、皆さんと一緒にAI医療の未来を考えていきたいです。
































