Alibaba Cloud、東京に5拠点目を開設|Model StudioとQwen3.7-Plusが日本リージョンで利用可能に

Alibaba Cloudが東京に5つ目のデータセンターを開設し、同時にAI開発プラットフォーム「Model Studio」の日本リージョン提供を開始しました。インフラとモデルサービスを同時に展開するこの動きは、これまでの段階的なアプローチとは異なります。日本の開発者や企業にとって、Alibaba CloudのQwenシリーズモデルが国内エンドポイントから使えるようになることは何を意味するのでしょうか。


Alibaba Cloudは2026年6月18日、東京に日本5つ目のデータセンターを開設したと発表した。同社は2026年3月に4つ目の施設を開設したばかりであり、今回の拡充により日本リージョンは5拠点体制となった。グローバルネットワークは32リージョン・105アベイラビリティゾーンに達する。新施設は小売、ゲーム、エンターテインメント、製造業向けのクラウド・AIサービスを提供し、エラスティックコンピューティングやストレージ、データベースなどエンタープライズグレードのサービス一式を備える。

あわせて、AIネイティブデータベースサービス(Data Agent for Analytics、Meta、DAS、DataBridgeなど)と、エンタープライズ向けAI開発プラットフォーム「Model Studio」の日本リージョンでの提供を開始した。Model Studioでは、マルチモーダルエージェントモデル「Qwen3.7-Plus」や、動画生成モデル「HappyHorse」(近日提供予定)、マルチモーダルモデル「Qwen3.5-Omni」(近日提供予定)を利用できる。

From: 文献リンクAlibaba Cloud Expands AI Infrastructure in Japan with Launch of Fifth Data Center and New Model Service Platform

【編集部解説】

Alibaba Cloudは2026年3月に日本4拠点目のデータセンターを開設した際、AIプラットフォーム「Model Studio」の日本展開を「2026年下半期」に予定していると発表していました。今回、5拠点目の開設と同時にその実現を見たことになります。インフラとモデル提供を一体として日本市場に打ち込むこの動きは、「データセンターを建てながらサービスは後から」という段階的アプローチではなく、インフラとサービスを連動させて展開する姿勢を示しています。

Model Studioは、テキスト・画像・動画・音声といった複数のモダリティにわたるAI機能をAPIで提供する一元的な開発プラットフォームです。開発者はQwenシリーズのモデルに加え、サードパーティのLLMにも同一の環境からアクセスできます。注目すべきは、日本リージョンでのModel Studio提供が、これまで公式ドキュメントに記載されていたリージョン(シンガポール・米国バージニア・北京・香港・フランクフルト)に日本が新たに加わると発表されたことです。データの保存場所とエンドポイントが日本国内になることで、データ所在地(データレジデンシー)の要件を持つ日本企業が、これまでより現実的な選択肢としてAlibaba Cloudを検討できるようになります。

今回日本で利用可能になる主なモデルのうち、Qwen3.7-Plusは「マルチモーダルインタラクティブ型ハイブリッドエージェント」と位置づけられています。テキスト、画像、動画を入力として受け取り、GUI操作(画面の読み取りとクリック座標の生成)とCLI操作の両方を単一のエージェントループで扱える設計です。ブラウザ自動化や業務ワークフローの自動化を構築したい開発者にとって、「画面を見て操作する」能力を持つモデルが日本のエンドポイントから利用できるようになることの意味は小さくありません。

一方、今回の発表には慎重に読むべき点もあります。HappyHorse(動画生成)とQwen3.5-Omni(マルチモーダル)の2モデルは、日本のModel Studioでは「近日提供予定」とされており、現時点では利用できません。また、AIネイティブデータベースサービス群(Data Agent for Analytics、DAS、DataBridgeなど)についても、実際の導入コストや既存システムとの接続条件は個別に確認が必要です。「サービスが使える」ことと「すぐに業務に導入できる」ことは別の話であり、発表の熱量とは距離を置いて評価することが求められます。

設計思想という観点から見ると、Alibaba CloudのModel Studioは「モデルを選んで使う場」というよりも、エージェント開発のためのCLIと複数モデルへのアクセスを束ねた実行環境として設計されているように見えます。これはOpenAIのResponses APIやAnthropicのAPI提供と競合するポジションであり、「安価に使えるGUIエージェント向けモデルと日本国内データ保存を組み合わせたい」という要件を持つ開発者・企業に向けた明確な訴求と言えます。ただし、エコシステムの成熟度(日本語ドキュメントの充実度、サポート体制、パートナー事例の数)については、発表時点では判断材料が限られています。

【用語解説】

Model Studio(モデルスタジオ)
Alibaba Cloudが提供する企業向けAI開発プラットフォーム。Qwenシリーズのモデルや外部LLMにAPI経由でアクセスでき、テキスト・画像・動画・音声など複数モダリティのAI機能を一元的に利用できる。AIエージェント開発向けのCLI(コマンドラインインターフェース)も備える。

データレジデンシー
データの保存・処理が行われる地理的場所のこと。個人情報保護法や各国の規制により、データを国外に持ち出せない要件を持つ企業・業種では、データセンターの所在地がクラウド選定の重要条件になる。

アベイラビリティゾーン(AZ)
クラウドプロバイダーが同一リージョン内に設ける独立した物理施設の単位。電源・ネットワーク・冷却設備が分離されており、一方に障害が発生しても他方で業務を継続できる。

エージェンティックAI(Agentic AI)
人間の指示を受けて自律的にタスクを計画・実行するAIシステム。単一の質問に答えるだけでなく、複数のツールやAPIを組み合わせて連続的な処理を行う能力を持つ。

GUIグラウンディング
AIモデルが画面上のボタンやリンクなどUI要素を認識し、操作対象の座標を特定する能力。ブラウザ自動化や画面操作エージェントの基盤技術。

マルチモーダルモデル
テキスト・画像・動画・音声など複数の情報形式を入力として処理できるAIモデル。単一モダリティのモデルと比べ、実世界のより複雑なタスクに対応できる。

【参考リンク】

Alibaba Cloud 日本語公式サイト(外部)
Alibaba Cloudの日本語公式サイト。日本リージョンで提供されるクラウドサービスの詳細、料金体系、導入事例、サポート情報を確認できる。

Alibaba Cloud Model Studio 公式ドキュメント(外部)
Model Studioの機能概要、対応リージョン、利用可能なモデル一覧、API仕様を掲載した公式ドキュメント。日本リージョンでの利用条件は最新情報を要確認。

Qwen 公式ブログ(外部)
Alibabaが開発するQwenシリーズの公式情報源。モデルのアーキテクチャ、ベンチマーク結果、新モデルのリリースノートを随時掲載。Qwen3.7-Plusの詳細もここで確認できる。

【参考記事】

Qwen3.7-Plus: Multimodal Agent Intelligence|Qwen公式ブログ(外部)
Qwen3.7-Plusの公式紹介記事。GUI・CLIを横断するハイブリッドエージェントとしての設計思想、ビジョン言語能力の詳細、ベンチマーク結果を解説。

Alibaba Cloud Unveils New Datacenter and AI services in Japan to Support Growing Demand|Alibaba Cloud(外部)
2026年3月のAlibaba Cloud公式プレスリリース。日本4拠点目のデータセンター開設時に、Model Studioの日本展開を「2026年下半期」と予告した発表。今回の5拠点目との対比で参照すべき一次資料。

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【編集部後記】

Model Studioが日本リージョンで使えるようになった事実は、日本の開発者にとって「試す理由」が生まれたことを意味します。ただ、私たちが本当に問うべきは「使えるか」ではなく「何のために使うか」かもしれません。エージェント時代のインフラ選択は、単なるコスト比較ではなく、データをどこに置き、誰に管理を委ねるかという問いと切り離せないからです。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。