Yuga Labsは、メタバースプロジェクトOthersideの開発を支えてきたUnreal Engineベースのクリエイタープラットフォームおよび関連技術を、Improbableから取得したと12月27日に発表した。
同時に、Improbableの高同時接続技術について、Otherside向けの永続ライセンスを取得した。技術の取得に加え、Improbableで働いてきたエンジニアや開発者の多くが、2026年初頭にYuga Labsへ参加する予定だ。今回の買収により、Yuga Labsはプラットフォームとチームを完全に社内に取り込み、暗号資産分野のクリエイタープラットフォーム構築を加速させる。
このプラットフォームでは、大規模マルチプレイヤー、組み合わせ可能で配信可能な世界やゲーム、体験の構築が可能となる。
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Garga.eth (Greg Solano) on X
【編集部解説】
今回の買収は、Yuga Labsにとって単なる技術の取得以上の意味を持つ戦略的な転換点です。Othersideの開発を外部パートナーとの協働から完全な内製化へと移行することで、Web3メタバースの基盤構築における主導権を握る構えとなっています。
Improbableの「高同時接続技術」とは、数千人規模のユーザーが同じ仮想空間で同時にインタラクションできる技術基盤を指します。従来のオンラインゲームやメタバースでは、サーバーの処理能力やネットワークの制約により、同時接続数に厳しい制限がありました。Improbableは、かつてSpatialOSとして開発し、現在はMorpheus(Project Morpheus)として進化させてきた分散システム技術により、分散システム技術を活用することで、従来のオンラインゲームを大きく上回る同時接続規模を実現しており、数千人から1万人規模の同時接続を想定した設計が行われています。
Othersideでは、2025年2月に開催されたシューターデモ「Project Dragon」において、2,100人以上のプレイヤーが単一サーバーで同時プレイするデモを実施し、当時としては業界最大級の同時接続規模を記録しました。この技術こそが、今回Yuga Labsが永続ライセンスとして確保した核心部分です。
技術とチームの内製化がもたらす最大の利点は、開発速度の向上です。複数企業間での調整や意思決定のプロセスが不要になることで、ユーザーフィードバックへの即応や、新機能の迅速な実装が可能になります。特に、Improbableで長年Othersideの開発に携わってきたエンジニアたちが2026年の新年にYugaに参加することで、プラットフォームのアーキテクチャを熟知した人材が社内に揃うことになります。
一方で、この動きは暗号資産業界における技術の「垂直統合」というトレンドを象徴しています。CoinbaseがBaseブロックチェーンに全力投資したように、主要プレイヤーは自社のインフラを完全に制御下に置くことで、競争優位性を確立しようとしています。これは、プラットフォームとしての長期的な持続可能性を高める反面、Web3が本来目指してきた「分散化」の理念とは相反する側面も持ちます。
今回の買収により、Yuga LabsはDecentralandやThe Sandboxといった競合メタバースプロジェクトに対して、技術的な優位性を確立する可能性があります。大規模イベント、リアルタイムのマルチプレイヤー体験、複雑な経済圏の構築といった要素を、パフォーマンスを犠牲にすることなく実現できる基盤を手に入れたからです。
クリエイターエコシステムの視点では、2025年中頃にローンチされたOtherside Development Kit(ODK)が、今後さらに強化される見込みです。約1,000種類のアセットと29のバイオームを活用した世界構築ツールに加え、AIによる対話型の環境生成機能も提供されており、技術的な障壁を下げることで多様なクリエイターの参入を促しています。
ただし、いくつかの潜在的なリスクも存在します。Improbableの技術は確かに高性能ですが、過去にSpatialOSを採用したゲームの多くが商業的な成功を収められず、開発中止や閉鎖に追い込まれた経緯があります。技術の優秀さと市場での成功は別問題であり、Yuga Labsには技術基盤の上に魅力的なコンテンツと持続可能な経済モデルを構築する責任があります。
また、メタバース市場全体の成長予測は楽観的ですが、現実のユーザー獲得と収益化には依然として課題が残ります。報道によれば、複数の市場調査会社は、メタバース市場が今後10年で大幅に成長すると予測していますが、具体的な規模や時期については見解が分かれています。
Yuga Labsが目指す「クリエイタープラットフォーム」というビジョンは、NFTコレクションのブランド価値を超えて、永続的な仮想経済圏を構築しようとする試みです。この買収は、その実現に向けた重要な一歩となるでしょう。今後、Othersideが真にオープンで持続可能なクリエイター主導の経済圏となるか、それとも単なる企業主導のプラットフォームに留まるかが、Web3メタバースの未来を占う試金石となります。
【用語解説】
高同時接続技術
数千人から数万人規模のユーザーが、同じ仮想空間で同時にインタラクションできるようにする技術。従来のオンラインゲームやメタバースでは、サーバーの処理能力やネットワークの制約により同時接続数に制限があったが、Improbableの技術は分散システムを活用することで、従来のオンラインゲームを大きく上回る同時接続規模を実現することを目的として設計されている。
Web3
ブロックチェーン技術を基盤とした次世代のインターネット概念。中央集権的なプラットフォームに依存せず、ユーザーがデータや資産の所有権を持ち、分散型のネットワーク上で相互作用する仕組みを指す。
メタバース
仮想空間上に構築された、永続的で共有可能な3D環境。ユーザーはアバターを通じて他者と交流し、経済活動や創作活動を行うことができる。
NFT(Non-Fungible Token)
ブロックチェーン上で発行される代替不可能なトークン。デジタルアートや仮想土地、ゲームアイテムなどの所有権を証明する手段として使用される。
垂直統合
企業が自社の製品やサービスの生産から流通までを一貫して管理する戦略。技術分野では、インフラからアプリケーション層まで自社で制御することで、競争優位性を確立する手法を指す。
バイオーム
ゲームやメタバースにおいて、特定の環境特性を持つ地域や生態系を表す単位。Othersideでは29種類のバイオームが提供され、それぞれ異なる視覚的特徴やアセットを持つ。
Morpheus(Project Morpheus)
Improbableが開発した、大規模マルチプレイヤー環境を実現するための技術プラットフォーム。SpatialOSの進化版であり、10,000人以上の同時接続をサポートする能力を持つ。
【参考リンク】
Yuga Labs(外部)
Bored Ape Yacht ClubやOthersideを開発するWeb3企業。NFTからメタバースまで展開する主要プレイヤー。
Otherside(外部)
Yuga Labs開発のブロックチェーンメタバース。NFTホルダーが参加し、クリエイターが世界を構築できる。
Improbable(外部)
メタバース技術とWeb3インフラを開発する英国企業。大規模仮想世界構築技術を提供。2012年設立。
Unreal Engine(外部)
Epic Games開発の3Dゲームエンジン。高品質グラフィックスが特徴。Othersideの基盤技術として採用。
Coinbase(外部)
米国拠点の暗号資産取引所。独自Layer 2ブロックチェーン「Base」を展開しWeb3構築に注力。
Decentraland(外部)
Ethereum上の分散型仮想世界プラットフォーム。仮想土地を所有し独自コンテンツを作成可能。
The Sandbox(外部)
ボクセルベースのメタバースプラットフォーム。仮想土地でゲームや体験を作成・収益化できる。
【参考記事】
Yuga Labs Goes All In on Otherside: Metaverse Power Grab(外部)
Improbableからの技術買収と高同時接続技術の永続ライセンス取得について詳細に報じる記事。
Yuga Labs Acquires Improbable’s Unreal Engine Platform(外部)
買収による開発加速とProject Dragonでの2,100人同時プレイ記録について解説する記事。
Yuga Labs Acquires Otherside Creator Platform(外部)
ImprobableのCEOコメントを含め、2026年の開発チーム移籍計画を報告する記事。
Yuga Labs’ Strategic Acquisition and Web3 Gaming Implications(外部)
メタバース市場規模予測とUnreal Engine 5技術の活用について分析する記事。
【編集部後記】
今回のYuga Labsの決断を見て、私たちは一つの問いに立ち返ります。メタバースは本当に「誰もが参加できる分散型の世界」なのでしょうか。技術を内製化し、開発速度を上げることは企業にとって合理的な選択です。
しかし同時に、それはWeb3が本来目指していた「オープンで分散的な未来」とは異なる道かもしれません。みなさんは、このような技術の集約化と分散化のバランスについて、どのようにお考えでしょうか。今後もこうした技術の光と影を共に見つめていきたいと思います。
































