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UCSF開発のBCI技術:四肢麻痺患者が思考だけでロボットアームを自在に操作

UCSF開発のBCI技術:四肢麻痺患者が思考だけでロボットアームを自在に操作 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-03-18 10:42 by admin

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究チームは、脳-コンピューターインターフェース(BCI)を四肢麻痺の参加者に埋め込み、ロボットアームとハンドの制御を可能にする研究成果を学術誌「Cell」に発表した。この研究は2025年初頭に公開されたものである。

研究では、麻痺した参加者が単純な動きを想像している際の脳活動を追跡し、脳のパターンが日々わずかに変化しながらも基本的には安定していることを発見した。研究チームは「一般化可能な決定境界を持つメタ表現構造」と呼ばれる脳活動の深い構造を特定し、これが長期的な神経義肢制御を可能にしていることを明らかにした。

特筆すべきは、参加者がAIや自動化の助けなしに神経義肢を完全に自発的に制御できたことである。研究者らは今後の課題として、長期的な安定性と再調整に必要な時間のバランスを取ることや、ビジョンベースの支援の追加による機能向上を挙げている。

同様のBCI技術開発を進める企業としては、イーロン・マスクのNeuralinkがある。Neuralinkは2023年11月、ワイヤレスBCI(N1インプラント)を使用して支援ロボットアームを制御するための新しい実現可能性研究「CONVOY」の承認を得たことを発表している。同社の「PRIME」(Precise Robotically Implanted Brain-Computer Interface)研究では、動きを計画する脳の領域に小さなインプラントを配置し、神経活動を解釈してコンピューターやスマートフォンの操作を支援する技術の開発を進めている。

from:Study: Brain-computer interface allows paralyzed man to control robotic arm

【編集部解説】

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究チームが開発した脳-コンピューターインターフェース(BCI)技術は、四肢麻痺の方に新たな可能性をもたらす画期的な進展です。この研究は学術誌「Cell」に発表され、BCIを用いて麻痺した方がロボットアームを思考だけで操作できることを実証しました。

特筆すべきは、このBCIシステムが長期間にわたって安定して機能し続けたことです。これは従来のBCI技術と比較して大きな進歩といえるでしょう。多くのBCIシステムは日々の再調整が必要でしたが、UCSFの研究チームは脳の適応性と可塑性を深く理解することで、長期間安定して機能するシステムの開発に成功しました。

研究チームが発見した「メタ表現構造」という脳の深層パターンは、脳科学の観点からも非常に興味深い発見です。脳が日々わずかに変化しながらも基本的な構造を維持し、新しい状況に適応していく様子は、人間の学習能力の本質に迫るものといえます。

この技術の実用面では、参加者はロボットアームを通じて複雑な動作を行うことができました。研究チームはこのシステムの実用化に向けて確かな手応えを感じているようです。

しかし、BCIに関する誤解や誇張された情報も少なくありません。検索結果が示すように、BCIは「思考制御」や「脳制御」といった表現で過大に宣伝されることがあります。実際には、ユーザーは事前に設計されたBCIパラダイムに従って特定の精神活動を行う必要があり、その制御範囲は限定的です。また、広範な訓練と適応が必要となる点も忘れてはなりません。

Neuralinkのような企業も同様の技術開発を進めていますが、2023年11月に発表された「CONVOY」研究は、まだ実現可能性を検証する段階にあります。イーロン・マスクが率いるNeuralinkは、すでに少なくとも2人の患者にN1脳インプラントを埋め込み、PCの操作に成功していますが、ロボットアームの制御はこれからの課題です。

この技術が実用化されれば、四肢麻痺の方々の自立支援に大きく貢献するでしょう。自分で食事をしたり、水を飲んだりといった基本的な行動が可能になれば、生活の質は劇的に向上します。さらに将来的には、より複雑な動作や日常生活のさまざまな場面での応用も期待できます。

一方で、BCIの倫理的側面にも目を向ける必要があります。脳データのプライバシー保護や、技術の公平なアクセス、長期的な脳への影響など、検討すべき課題は少なくありません。また、技術の発展に伴い、規制や法整備も追いついていく必要があるでしょう。

【用語解説】

BCI(Brain-Computer Interface)
脳とコンピューターを直接つなぐインターフェース技術。脳の電気信号を検知し、コンピューターや外部デバイスへ送信して制御する。思考だけで機械を操作することを可能にする技術である。

四肢麻痺(テトラプレジア)
脊椎の頸部領域の損傷により、両腕と両脚の四肢すべてに麻痺や感覚・機能の喪失が生じる状態。事故や疾患によって引き起こされることが多い。

ECoGグリッド
脳の表面に直接配置される電極のグリッド。侵襲的BCIで使用され、脳の電気活動をより正確に記録できる。

メタ表現構造
脳内の情報処理において、基本的な表現パターンを維持しながら柔軟に適応できる高次の構造。本研究では、長期的なBCI制御を可能にする脳の深層パターンを指す。

神経義肢
失われた身体機能を補うために、脳の信号を直接読み取り、外部デバイスを制御する技術。本研究ではロボットアームがこれに当たる。

神経可塑性:​
脳が経験や学習によってその構造や機能を変化させる能力。

【参考リンク】

  • カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)(外部)
    医学・生命科学分野で世界トップレベルの研究を行う大学院大学。本研究を実施した機関。
  • Neuralink(外部)
    イーロン・マスクが設立したBCI開発企業。脳インプラントによる神経義肢制御の研究を進めている。
  • Cell(学術誌)(外部)
    本研究が掲載された生命科学分野の権威ある学術誌。最先端の生物学・医学研究を発表している。

【参考動画】

【編集部後記】

テクノロジーの進化が、私たちの「できること」の限界を押し広げる瞬間を目の当たりにしています。「思考だけで機械を操作する」—これはSFの世界から現実へと着実に近づいています。皆さんは、この技術が広く普及した未来をどう想像しますか?医療現場での活用はもちろん、日常生活や仕事の場面でも革命を起こす可能性を秘めています。人間とテクノロジーの境界が曖昧になっていく中で、私たちの「身体」や「能力」の概念はどう変わっていくのでしょうか。ぜひSNSで皆さんの考えをお聞かせください。

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TaTsu
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