光の速度制御に革新的進展 | 量子物質で時速61kmまで減速に成功、量子コンピューティングの未来を拓く

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研究チームが、光の速度を時速61キロメートルまで減速させることに成功した。この成果は、ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)と呼ばれる特殊な量子状態を利用して実現された。

主な要点

  • 通常の光速:真空中で秒速299,792,458メートル(約10億8000万キロメートル/時)
  • 減速後の速度:時速61キロメートル(秒速17メートル)
  • 使用技術:電磁誘導透明化(EIT)
  • 実験方法:ナトリウム原子を絶対零度(-273.15℃)近くまで冷却

from:Physicists “Slow Down Light” to Just 61 Kilometers per Hour Using Ultracold Quantum Matter

【編集部解説】

この技術の本質は、光をほぼ静止状態まで制御できるということにあります。1999年にハーバード大学のレーネ・ハウ教授らが初めて実証して以来、この分野の研究は着実に進展を遂げてきました。

特筆すべきは、この実験で使用されているボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)という特殊な状態です。これは、原子を絶対零度近く(約-273.15℃)まで冷却することで生まれる第5の物質状態です。

従来の光の制御技術と比較すると、このBECを用いた方法は桁違いの制御性を持っています。通常、光がガラスや水を通過する際の減速は微々たるものですが、BECを使用することで、光を人間が歩く速度にまで減速させることができるのです。

この技術の応用可能性は非常に広範です。特に注目すべきは量子コンピューティングへの応用です。現在の電子ベースのコンピュータとは異なり、光を使用した量子コンピュータは、情報処理速度と安全性の両面で大きな進展をもたらす可能性があります。

また、この技術は量子センサーの開発にも重要な意味を持ちます。光の速度を制御することで、外部環境のわずかな変化も検出できる超高感度センサーの開発が可能になります。

興味深いことに、EPFLの研究者たちは室温でも同様の効果を実現できる可能性を示唆しています。これが実現すれば、実用化への大きな一歩となるでしょう。

ただし、課題もあります。現状では、光を完全に停止させた状態を長時間維持することは困難です。また、情報の損失なく光を保存し、再放出するためには、さらなる技術的革新が必要とされています。

この技術は、私たちの「光」に対する理解を根本から変えつつあります。光の速度は不変であるという常識を覆し、光を自在にコントロールできる可能性を示唆しているのです。

将来的には、この技術を応用した光量子メモリや量子中継器の開発が進み、量子インターネットの実現にも貢献する可能性があります。これは、現在のインターネットよりも桁違いに安全で高速な通信を可能にするかもしれません。

【用語解説】

  • ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)
    極低温(絶対零度近く)で原子が集団として量子的な性質を示す特殊な状態です。
  • 電磁誘起透明化(EIT)
    通常は光を吸収する物質が、特定の条件下で突然透明になる現象です。
  • 量子センシング
    量子の性質を利用して、従来の計測器では検出できないような微細な変化を捉える技術です。

【参考リンク】

  1. 理化学研究所 量子凝縮体研究チーム(外部)
    量子凝縮体の基礎研究から応用まで、幅広い研究を行っている日本の研究機関です。
  2. 日本大学量子科学研究所(外部)
    光と原子の量子力学的な相互作用に関する研究を行っている研究室です。

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