Last Updated on 2025-04-11 10:26 by admin
かつてパソコンが単体では限定的な価値しか持たなかったように、量子通信技術も現在は孤立したデバイスの段階にある。初期のパソコンがネットワーク化されて社会に大きな影響を与えたように、量子通信もネットワークを構築することで、その潜在的な可能性を徐々に解き明かしつつある。現在研究段階にある量子通信は、金融、政府、科学研究の分野で革新的な通信セキュリティと計算能力の可能性を秘めている。しかし、長距離通信の安定性、量子状態の維持、膨大なインフラ投資など、克服すべき技術的課題は数多く存在する。グローバル量子インターネットの実現は10〜20年先の展望と考えられており、研究者たちは着実に技術的難問に取り組んでいる。パソコン黎明期のネットワーク進化が示したように、量子通信もネットワーク効果と継続的な技術革新によって、将来的に社会に新たな可能性をもたらす道を切り開いていくものと期待されている。
イギリスのブリストル大学とケンブリッジ大学の研究チームは、イギリス初の長距離超安全通信を量子ネットワークで実現した。このネットワークは、量子鍵配送(QKD)とエンタングルメントを組み合わせ、標準の光ファイバーアーキテクチャを使用しつつ、量子現象を活用して超安全なデータ転送を可能にした。ブリストルとケンブリッジ間の410キロメートルを超える距離で、量子セキュアなビデオ通話や医療データの転送を行った。この技術は、将来のサイバー攻撃からも安全であり、量子コンピューターが現代の暗号法を破る可能性に対しても耐性がある。
from:https://phys.org/news/2025-04-uk-distance-ultra-communication-quantum.html
【編集部解説】
量子ネットワークのセキュリティと安全性
この技術は、将来のサイバー攻撃からも安全であり、量子コンピューターが現代の暗号法を破る可能性に対しても耐性があります。量子鍵配送は、物理法則を利用して暗号化キーを生成し、不正アクセスを検知可能にするため、従来の暗号技術よりも高いセキュリティを提供します。また、エンタングルメントを用いることで、粒子間の相関関係を利用してデータの完全性を保証します。
技術的課題と展望
量子ネットワークには、信号の不安定さやスケーラビリティの問題など、技術的な課題があります。しかし、イギリスの研究は、これらの課題を克服するための重要なステップであり、将来的には大規模な量子インターネットの基盤を築く可能性があります。この成果は、医療や金融などの分野で高度なセキュリティが求められるデータ通信に大きな影響を与えるでしょう。
国際的な影響
この技術は、国際的な量子通信の標準化にも影響を与える可能性があります。イギリスは、量子技術の規制や標準化においても積極的に取り組んでおり、将来的にはグローバルな量子通信インフラの形成に寄与することが期待されています。また、量子ネットワークの実用化は、サイバー攻撃に対する新たな防御策としても注目されています。
【編集部追記】
量子鍵配送(QKD)は、量子力学を利用して非常に安全な暗号鍵を生成する技術です。この技術は、量子ビットが複製できないという特性を活用しています。
量子ビットの複製不可能性
量子ビットは、ハイゼンベルグの不確定性原理により、測定するまでその状態が確定しません。測定すると、その瞬間に状態が確定しますが、測定前にその状態を知ることはできません。さらに、量子ビットを複製しようとすると、その状態が崩壊し、元の情報が失われます。これは、量子ビットをコピーすることは不可能であることを示しています。
便利な性質と不便
量子ビットの複製不可能性は、量子鍵配送に大きな利点をもたらしますが、同時に不便さも伴います。例えば、量子ビットを複製できなければ、データをバックアップすることができません。さらに、量子通信は光ファイバーを通じて行われるため、信号が減衰しやすく、長距離の通信には技術的な課題があります。
このように、量子鍵配送は非常に安全ですが、技術的な制約もあります。将来的には、これらの課題を克服することで、より広範な応用が期待されています。
【用語解説】
量子鍵配送(QKD): 量子力学を利用して安全な暗号鍵を生成し、通信のセキュリティを確保する技術。第三者が鍵を傍受すると、その異常が検知できるため、非常に安全です。
エンタングルメント: 量子系の相関関係で、離れた場所にある粒子が同時に同じ状態を保つ現象。量子コンピュータや量子通信に利用されます。
量子インターネット: 量子情報を安全に伝送するためのネットワーク。エンタングルメントや量子鍵配送を活用して、従来のインターネットよりも高いセキュリティを提供します。
【参考リンク】
今回の研究成果は、光ファイバ通信会議で2025/3にアメリカで発表されたものです。