オリィ研究所「OriHime」|東京都が分身ロボットで遠隔就労を支援、案内業務のパイロット募集

分身ロボットがあれば、通勤できない人にも仕事は届くのでしょうか。東京しごと財団で始まるOriHimeの案内業務から、遠隔就労を支える採用、研修、通信環境、現場運用の条件と、技術だけでは雇用が生まれない理由を読み解きます。


株式会社オリィ研究所は、東京都が実施する「分身ロボットを活用した新たな働き方の支援」の運営を受託した。公益財団法人東京しごと財団に分身ロボット「OriHime」を設置し、自宅などから遠隔操作して来訪者の案内業務を担う重度障害のある人などを募集する。

PR TIMESの発表では募集人数は4名程度とされ、応募期間は2026年7月23日から8月11日まで。選考と研修を経て、2026年10月から業務を開始する予定だ。応募者には東京都内での在住・入所・入院、一般就労への意欲、パソコンの基本操作と通信環境などの条件が求められる。

From: 文献リンクオリィ研究所、東京都の分身ロボットを活用した新たな働き方の支援事業を受託 分身ロボットを遠隔で操作し案内業務を行うパイロットの募集を開始

【編集部解説】

分身ロボットが変えるのは、仕事の場所だけではない

今回の取り組みで重要なのは、「OriHime」というロボットを導入したことだけではありません。東京都は以前から、都庁展望室などにOriHimeを設置し、外出が難しい重度障害のある人などが在宅で案内業務を行う事業を実施してきました。今回の発表では、設置場所が就労支援を担う東京しごと財団となり、来訪者への案内業務を担当するパイロットを新たに募集します。遠隔操作の技術を見せる段階から、就労支援の現場に業務として組み込む段階へ進めようとする動きと捉えられます。

一般的なテレワークでも、通勤せずに仕事へ参加することはできます。それでもOriHimeを使う意味は、離れた場所にいる人が映像や音声だけで会議へ参加するのではなく、来訪者の方向へ顔を向け、首や腕の動きを使いながら、その場の案内役として振る舞える点にあります。画面越しの応対ではなく、施設内に置かれた身体の代わりを操作することで、現地で人と接する業務にも遠隔から参加できる可能性が生まれます。

遠隔就労は、通勤の負担を軽減する有効な選択肢です。障害者職業総合センターが障害のある2,000人を対象に行った調査のうち、現在の勤務先でテレワーク経験がある470人では、「通勤の負担軽減」が74.7%で最多でした。一方、必要な職場の配慮では「障害特性に合わせた業務上のコミュニケーション」が42.1%で最も多くなっています。働く場所を自宅へ移せば問題がすべて解決するわけではなく、連絡方法や頻度、体調に応じた業務設計も必要になることが示されています。

今回の募集要件にも、その現実が表れています。応募者には、パソコンの基本操作に加え、インターネット回線、カメラ、マイクを使用できる通信環境が求められます。また、任期中に安定して業務へ従事できる見込みがあること、自身の障害特性を理解して相手に伝えられること、他者との円滑なコミュニケーションが見込めることも条件です。OriHimeは移動の制約を小さくできますが、機器や通信環境の準備、体調管理、職場との意思疎通まで自動的に担うものではありません。

この点は、分身ロボットによる就労を広げるうえで見落とせません。遠隔操作できる機体を置くだけでは、仕事として定着しないからです。採用前に本人の希望や特性を確認し、操作や接客の研修を行い、勤務中の連絡方法や、案内できない質問を受けた場合の引き継ぎ手順も整える必要があります。公式募集ページでは、現地フォロースタッフの常駐も示されています。

また、雇用形態はパート・アルバイト、時給は1,250円、勤務時間は週3~10時間程度、契約期間は2027年3月31日までとされています。勤務前研修や定期面談、集合研修も予定されており、ロボットの操作だけでなく、働き続けるための支援を組み込んだ設計です。一方、パソコンなどの機器貸与の有無や、事業終了後の就労支援については、公開情報からは確認できません。

今回予定されているのは、PR TIMESの発表では4名程度による案内業務です。人数や業務範囲は限定されていますが、就労支援機関を訪れる人が、分身ロボットを介して働く当事者と日常的に接する点には意味があります。遠隔就労を展示や短期間の実証として見せるのではなく、2027年3月末までの一定期間にわたり、来訪者対応という実務の一部として経験してもらえるからです。

ただし、案内業務が成立したことだけで、重度障害のある人の職業選択が大きく広がったとは言えません。今後問われるのは、接客だけでなく、相談対応、事務、研修、調査、情報発信などへ業務を広げられるか、参加者が事業終了後も経験を次の就労につなげられるかという点です。また、企業や自治体が導入する際に、誰が機器の管理と就労支援を担い、その費用をどのように負担するかも普及を左右します。

分身ロボットは、通勤できない人を仕事の現場へつなぐ入口になります。しかし、雇用を生み出すのはロボット単体ではなく、その先に用意される仕事、研修、配慮、支援者、評価の仕組みです。東京しごと財団で始まる今回の取り組みは、技術の実証というよりも、遠隔就労を継続可能な制度と業務へ変えていくための運用モデルとして見る必要があります。

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OriHimeを通じて、障害や病気などで移動が難しい人が自宅から東京の観光案内を行う取り組みを紹介。現地での接客へ遠隔から参加する事例。

【編集部後記】

福祉領域におけるテクノロジーの社会実装として、今回の取り組みには大いに興味があります。重要なのは、分身ロボットの性能だけではなく、実際の仕事や支援体制と結びつけられている点です。移動が難しい人にも、接客や案内といった仕事への参加経路が開かれます。一方で、研修や現場支援、継続的な雇用まで設計されなければ、一時的な実証で終わりかねません。
今回の事業が、福祉とテクノロジーを日常の働き方へ落とし込むモデルになるのか、今後の展開を注視したいです。


【用語解説】

分身ロボット:
離れた場所にいる人がインターネット経由で操作し、音声や身ぶりを通じて現地の人とコミュニケーションを取るロボット。操作者自身の代わりとして、接客、案内、交流などに利用される。

OriHime:
オリィ研究所が開発する遠隔操作型の分身ロボット。操作者の声を現地へ届け、首や腕の動きによって感情や反応を表現できる。AIが自律的に応対するロボットではなく、人が操作する仕組み。

OriHimeパイロット:
OriHimeを遠隔操作し、接客や案内などの業務を担当する人の呼称。自宅、病院、施設などから勤務先に設置されたOriHimeへ接続して働く形態。

テレプレゼンス:
通信機器やロボットを通じて、遠隔地にいながら現地に存在しているように交流や作業を行う技術・体験。映像会議に加え、現地の身体として操作できる機器を含む概念。

合理的配慮:
事業主に過重な負担を及ぼさない範囲で、障害特性や状況に応じて必要な措置を講じること。連絡手段、勤務時間、機器、支援方法などの調整を含む。

【参考リンク】

株式会社オリィ研究所(外部)
分身ロボット「OriHime」や意思伝達装置などを開発し、移動が困難な人の社会参加と遠隔就労を支援する企業の公式サイト。

分身ロボット「OriHime」(外部)
OriHimeの機能、活用方法、導入事例などを掲載する公式製品サイト。AIによる自律応答ではなく、人が遠隔操作する設計。

公益財団法人東京しごと財団(外部)
東京都民の雇用・就業支援や、企業の人材確保、障害者・高齢者などの就業支援に取り組む公益財団法人の公式サイト。

TOKYO障害者雇用支援ポータル(外部)
東京都による障害者雇用の情報サイト。企業、求職者、支援機関に向けた制度、事例、イベントなどを掲載。

【参考動画】

【参考記事】

オリィ研究所、東京都の分身ロボットを活用した新たな働き方の支援事業を受託|オリィ研究所(外部)
事業の受託、募集期間、応募条件、業務開始時期などを発表したオリィ研究所の公式リリース。

分身ロボットを活用した新たな働き方の支援|オリィ研究所・東京都(外部)
業務内容、雇用形態、時給、勤務時間、契約期間、研修、定期面談、現地支援などを掲載した2026年度の募集特設ページ。

分身ロボットを活用した新たな働き方の支援事業シンポジウム|東京都(外部)
分身ロボットを使った働き方について、パイロット、企業、研究者による講演や事例紹介を掲載した東京都の公式ページ。

テレワークに関する障害者のニーズ等実態調査|障害者職業総合センター(外部)
障害のある2,000人への調査と当事者・企業への聞き取りから、通勤負担、コミュニケーション、職場の配慮を整理した報告書。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。