Keychron G6 HEに搭載のZGM、GitHubの中身は「まだ骨組みだけ」だった

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Googleで優先するソースとして追加するボタン

メーカーが自社製品のファームウェアを外部に開放する——そんな動きが、キーボードやマウスの業界で静かに広がっています。9月6日に本誌で取り上げたKeychronのオープンソースファームウェア「ZGM」も、その代表例のひとつでした。ただし「公開する」という宣言と、それが動く製品が実際に手元へ届くことのあいだには、しばしば見えにくい時間差があります。ZGM搭載を掲げるマウス「G6 HE」は、いま、どうなっているのでしょうか。追ってみました。


2026年7月27日に発表されたKeychronの新型ワイヤレスゲーミングマウス「G6 HE」は、独自の「MagOptic」スイッチとPAW3955センサーを搭載し、バッテリー交換式モデルの重量は46g。オープンソースファームウェア「ZGM」をプリインストールした状態で出荷するとし、価格は89.99ドル、グローバル発売は2026年9月上旬を予定するとアナウンスされた。日本では7月28日から8月31日まで、Gizmart運営の「CoSTORY」でGizmodo Japan独占の先行販売が行われ、交換式バッテリーモデルの想定通常価格は17,930円だった。本稿執筆時点(2026年9月7日)で、Keychron公式サイトの特設ページは事前登録形式のままで、通常の製品一覧への掲載は確認できない。

From: 文献リンクKeychron (@KeychronMK) on X

【編集部解説】

「プリインストール」という言葉の中身

Keychronの発表では、G6 HEは「オープンソースファームウェアZGMをプリインストールした状態で出荷する」とされています。この一文だけを読むと、「発売と同時に、誰でも中身を確認・改造できるマウスが手に入る」と考えたくなります。

ですが、実際にZGMのGitHubリポジトリ(Keychron/zgm)を覗いてみると、少し違う景色が見えてきます。

GitHubの中身を覗いてみると

本稿執筆時点(2026年9月7日)で、ZGMのリポジトリは26件のコミット、スター44件、フォーク2件という規模にとどまっています。言語構成を見ると、HTMLが54.1%、CSSが40.5%、JavaScriptが5.4%——つまり公開されているコードのほぼすべては、プロジェクト紹介サイトそのものです。マウスの内部で実際に動くはずのファームウェア本体(組み込み開発では通常C言語で書かれます)は、この時点では確認できませんでした。

リポジトリ自体のステータス欄も、この状況を率直に認めています。現在はプロジェクトの骨組みとポリシー文書、当初の方向性が中心で、ファームウェア本体やボードサポート、ビルド手順は「準備中」だと明記されており、掲載されているロードマップについても「意図した方向性であって、確定した納期を保証するものではない」と注記されています。日本語圏でも紹介されたGIGAZINEの記事(7月30日付)が、実際のファームウェアソースやビルド方法、書き込み手順はまだ準備段階で、既存のマウスにすぐ実装できる状態ではないと報じていた通りです。

さらに言うと、リポジトリの更新履歴を見る限り、最後の変更は2026年4月13日で止まっています。つまり、G6 HEとZGMが華々しく発表された7月27日よりも前の時点で、コード面の更新は止まっていることになります。

比較として、Keychronが実際に自社のワイヤレスキーボードで使っているZMK(Zephyr Mechanical Keyboard)のリポジトリにも触れておきます。こちらはC言語で書かれた実働ファームウェアで、フォーク数は4,000件を超えます。同じZephyr RTOSベースのプロジェクトでも、「すでに製品で動いているもの」と「これから製品で動かそうとしているもの」のあいだには、こうした数字の差として実績の違いが表れています。

2つの「オープン」は、別の階層にある

ここで整理しておきたいのは、「ハードウェアがオープンソースファームウェアを積んで出荷される」ことと、「そのファームウェアがオープンソースプロジェクトとして機能している」ことは、本来別の階層の話だという点です。

9月6日の記事でFramework Laptop 12を取り上げた際に触れたZMK・QMKは、すでに何年もかけてコミュニティが育ててきた実績があります。ユーザーはリポジトリを見て、実際に動くコードを読み、フォークし、ビルドし、機器に書き込むことができます。これに対して現時点のZGMは、「その状態を目指す」という意思表示と設計方針までは公開されていますが、実際に読める・書き換えられるファームウェア本体には、まだ到達していません。

G6 HEというマウスの中で実際に動いているバイナリが何を指しているのかは、本稿の時点では確認できていません。Keychronの発表通りであれば「ZGM」という名を冠した何らかのファームウェアが搭載されているはずですが、それが将来GitHubで公開される予定のコードとどこまで同一なのか、あるいは出荷用に別途用意された暫定版なのかは、外部からは判別できない状態です。

なぜこの順序で発表したのか

ZGMのリポジトリは「すべてが完成してから公開するのではなく、早い段階から方向性を見せることを選んだ」という趣旨の説明を掲げています。これは、開発の初期段階からコミュニティの技術的フィードバックを取り込もうとする、比較的誠実な姿勢と見ることもできます。QMKやZMKも、もとをたどれば小さな個人プロジェクトから育ってきました。

一方で、「オープンソース」という言葉が製品発表のタイミングでどれだけ先行して使われているかは、読者として意識しておいてよい点です。ハードウェアの発売告知とソフトウェアの完成時期のあいだに数か月単位の時間差があること自体は珍しくありませんが、その時間差の中身——「設計図はあるが実装がこれから」なのか、それとも別の理由で止まっているのか——は、GitHubを覗きに行かない限り、マーケティング上の言葉だけでは区別がつきません。

なお、記事冒頭で触れた「グローバル発売時期そのものが本稿執筆時点で確認できない」という状況と、ここで見たZGMの開発状況を、同じ理由による遅れとして安易に結びつけることは避けたいと思います。ハードウェアの供給・物流上の事情と、オープンソースプロジェクトとしての体制構築は、本来別々の変数です。両者が同じ時期に「予定より手前で止まっている」ように見えるのは事実ですが、それが同一の原因によるものかどうかを判断できる材料は、現時点では手元にありません。

今後の見立て

G6 HEの実機が市場に出回り、実際にファームウェアの中身を確認できるユーザーやレビュアーが現れれば、ここで整理した「言葉と実態のズレ」がどの程度のものだったのかがはっきりします。ZGMのリポジトリに実際のコード(Zephyrアプリケーションの骨格やボードサポート)が追加され始めるタイミングも、追跡する価値のある指標です。ロードマップ通り2027年第1四半期へ向かうのか、それとも現状の体制のまま停滞するのか、判断するにはまだ材料が足りません。

【関連記事】

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ZGMの技術的背景(Zephyr RTOSとの関係、Framework Laptop 12のZMK採用との並行性)については、前日公開のこちらの記事で詳しく扱っています。本記事ではその続きとして、G6 HEとZGMの「その後」に焦点を当てています。

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【編集部後記】

「オープンソース」という言葉は、聞くだけでなんとなく安心してしまいがちです。ですが今回のように、宣言と実装のあいだにグラデーションがあることも珍しくありません。名前だけを追うのではなく、GitHubのコミット履歴のような地味な場所にこそ、実態を確かめる手がかりがあるのかもしれません。G6 HEが実際に手元に届いたとき、そのファームウェアが何をどこまで開いているのか——私たちも、実機とリポジトリの両方を追いかけながら確かめていきたいと思います。

【用語解説】

MagOptic switch
光学式と磁気式のセンシングを組み合わせたKeychron独自のスイッチ機構。クリック感を保ちながら、磁気式ならではのアクチュエーションポイント調整を実現。

Zephyr RTOS
組み込み機器向けのオープンソースリアルタイムOS。省リソース環境向けの設計で、ZMKやZGMなど複数のファームウェアプロジェクトの基盤。

ZMK(Zephyr Mechanical Keyboard)
Zephyr RTOSを基盤としたオープンソースのキーボードファームウェア。MITライセンスで公開、ワイヤレス対応に強み。

QMK(Quantum Mechanical Keyboard)
メカニカルキーボード向けの老舗オープンソースファームウェア。2015年ごろの発足から現在3,000機種超に対応。

GPL-3.0
GNU General Public License version 3。ソースコードの改変・再配布を認める一方、派生物にも同条件の継承(コピーレフト)を求めるライセンス。

PixArt PAW3955
台湾PixArt社製の光学センサー。ゲーミングマウス向けに高DPI・高追従性を実現するチップとして採用例が多い。

【参考リンク】

Keychron公式サイト「G6 HE」特設ページ(外部)
製品スペックと事前登録の受付状況。本稿執筆時点でも最新の一次情報源。

ZGM公式サイト(zgm.gg)(外部)
プロジェクトの狙いとアーキテクチャ概要を紹介する専用サイト。

ZGM GitHubリポジトリ(外部)
開発の進捗・ロードマップ・READMEのステータス記載を直接確認できる場所。

ZGM Contributing Guide(外部)
早期段階からの技術的フィードバックや貢献の方法を説明。

Keychron公式X(@KeychronMK)(外部)
発売スケジュールや仕様変更など最新告知の一次情報源。

CoSTORY「Keychron G6 HE UltraLight」プロジェクトページ(外部)
日本先行クラウドファンディングの詳細(募集期間は終了済み)。

QMK公式サイト(外部)
キーボード向けオープンソースファームウェアの老舗プロジェクト。ZGMが目指す姿の参照点のひとつ。

ZMK公式サイト(外部)
Zephyr RTOSを基盤とするキーボードファームウェア。ZGMと同じ技術基盤を持つ先行事例。

【参考動画】

Keychronによるバッテリー交換機構の紹介ショート動画。実機レビューはまだなく、公式ティザーにとどまる。

【参考記事】

Keychron has announced ‘ZGM,’… — GIGAZINE(外部)
ZGM発表の経緯と、GitHubリポジトリが初期段階でありすぐに実装できる状態ではないという指摘。

Keychron bets open-source mouse firmware can unseat Logitech — northeasttimes(外部)
「Still scaffolding, not shipping code」の見出しでリポジトリの現状を整理。

Keychron is building an open-source gaming mouse firmware called ZGM — TweakTown(外部)
リポジトリが「scaffolding and policy files」段階にあると説明。

Keychron ZGM: Open-Source Gaming Mouse Firmware Is Here — ByteIota(外部)
GPL-3.0・Zephyr RTOS採用の背景と、QMKの前例(2015年発足、現在3,000機種超対応)を紹介。

Keychron G6 HE: 46 grams, a swappable battery and open source firmware — kaytomas.com(外部)
日本先行発売の価格詳細とハードウェア仕様、ZGMプリインストールの位置づけを整理。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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