innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

NVIDIA、ヒューマノイドロボット開発を加速する基盤モデル「Isaac GR00T N1」を発表──人間の認知に着想した2つの思考モデル搭載

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-03-19 16:00 by admin

NVIDIAが2025年3月18日、世界初となるヒューマノイドロボット向けの基盤モデル「Isaac GR00T N1」を発表した。人間の認知プロセスを模倣した「デュアルシステムアーキテクチャ」を採用し、直感的な反応と論理的思考の両方を備えている。このオープンソースモデルにより、ロボットは物体操作から複雑なタスクまで実行可能となり、世界的な労働力不足への対応策として期待されている。

モデルの特徴

  • 人間の認知原理に着想を得た「デュアルシステムアーキテクチャ」を採用
    • 「System 1」:人間の反射や直感を模倣した「高速思考アクションモデル」
    • 「System 2」:環境や指示を分析して行動を計画する「低速思考モデル」

実行可能なタスク

  • 基本タスク:物をつかむ、片方または両方の腕でモノを動かす、アーム間でアイテムを移動させるなど
  • 複雑なタスク:複数のスキルを組み合わせた作業
  • 応用分野:マテリアルハンドリング、包装、検査など

デモンストレーション

  • GTC 2025カンファレンスで1X社のNEO Gammaヒューマノイドロボットが自律的な清掃タスクを実行
  • 1X社CEO Bernt Børnich氏:「GR00T N1モデルはロボットの推論と能力における重要な進歩」

関連技術の発表

  • Google DeepMindおよびDisney Researchと協力開発中のオープンソース物理エンジン「Newton」
  • 合成データ生成のための「NVIDIA Isaac GR00T Blueprint」

カスタマイズと性能

  • 事前トレーニング済みだが、人間のデモやシミュレーションデータで特定要件に合わせてカスタマイズ可能
  • 11時間で78万件の合成軌跡(人間のデモ約6,500時間分に相当)を生成
  • 実データのみの場合と比較して40%のパフォーマンス向上を達成

背景と展望

  • NVIDIAのCEO Jensen Huang氏:「汎用ロボット工学の時代が到来した」
  • 世界的な労働力不足(推定5,000万人以上)に対応するための取り組みの一環
  • トレーニングデータとタスク評価シナリオはHuggingFaceとGitHubからダウンロード可能

このモデルはNVIDIA AI Enterpriseソフトウェアを通じて開発者や企業に提供される。

from:Nvidia says ‘the age of generalist robotics is here’

【編集部解説】

NVIDIAが発表した「Isaac GR00T N1」は、ヒューマノイドロボット開発の新時代を告げる画期的な基盤モデルです。この発表は単なる技術革新にとどまらず、ロボット工学の民主化と汎用化への大きな一歩と言えるでしょう。

GR00T N1の特徴的な点は、人間の認知プロセスを模倣した「デュアルシステムアーキテクチャ」にあります。直感的な反応を担う「System 1」と論理的思考を担う「System 2」の組み合わせにより、ロボットは単純なタスクから複雑な作業まで柔軟に対応できるようになっています。これは人間の脳の働き方に着想を得たアプローチであり、ロボットの自然な動きと判断能力の向上につながっています。

特筆すべきは、このモデルがオープンソースとして提供されている点です。これにより、大企業だけでなく、中小規模の開発者やスタートアップも最先端のロボット技術にアクセスできるようになりました。NVIDIAはロボット開発の障壁を下げることで、イノベーションの加速を狙っていると考えられます。

GR00T N1の実用性は、GTC 2025カンファレンスでのデモンストレーションで証明されました。1X社のNEO Gammaヒューマノイドロボットが自律的に清掃タスクを実行する様子は、この技術の実用レベルの高さを示しています。1X社のCEO、Bernt Børnich氏が「最小限の追加トレーニングデータで完全に展開できた」と述べているように、導入の容易さも大きな魅力です。

また、NVIDIAはGoogle DeepMindやDisney Researchとの協力により、物理エンジン「Newton」の開発も進めています。これはロボットの動きをより自然で効率的にするための重要な要素となるでしょう。

GR00T N1の訓練データ戦略も注目に値します。インターネット規模のウェブデータや人間の動画を基盤とし、NVIDIA Omniverse platformで生成された合成データ、そして実際のロボットデータを組み合わせることで、効率的かつ効果的な学習を実現しています。実際に、わずか11時間で78万件の合成軌跡(人間のデモンストレーション約6,500時間分に相当)を生成し、実データのみの場合と比較して40%のパフォーマンス向上を達成したという結果は印象的です。

この技術がもたらす社会的影響も見逃せません。NVIDIAはGR00T N1を、世界的な労働力不足(推定5,000万人以上)に対応するための取り組みの一環と位置づけています。特に物流、包装、検査などの分野での応用が期待されており、人手不足が深刻化する産業界に新たな解決策を提供する可能性があります。

GR00T N1の登場は、ロボット技術の民主化と汎用化の新たな章を開くものです。今後、Agility Robotics、Boston Dynamics、Mentee Robotics、NEURA Roboticsなど、すでに早期アクセスを得ている主要ロボティクス企業の動向も注目されます。

NVIDIAのJensen Huang CEOが「汎用ロボット工学の時代が到来した」と述べているように、私たちは今、ロボット技術の大きな転換点に立っているのかもしれません。GR00T N1がその可能性をどこまで広げるか、今後の展開に注目していきたいと思います。

【用語解説】

基盤モデル(Foundation Model):
大量のデータで事前学習され、様々なタスクに適応可能な汎用AIモデル。日本語で言えば「土台となるモデル」であり、これを基に特定の用途向けにカスタマイズできる。

デュアルシステムアーキテクチャ:
2つの独立したシステムを組み合わせた構造。GR00T N1では「System 1」(直感的・反射的な高速思考)と「System 2」(論理的・計画的な低速思考)の2つのシステムで構成されており、人間の認知プロセスを模倣している。これは日常生活で「とっさの判断」と「じっくり考える思考」の両方を持つ人間の脳の働き方に似ている。

NVIDIA Omniverse:
3Dデザインコラボレーションと仮想世界シミュレーションのためのプラットフォーム。現実世界のシミュレーションを作成し、ロボットの訓練データを生成するのに使用される。

1X Technologies:
ノルウェーとサンフランシスコに拠点を置くロボット開発企業。家庭用ヒューマノイドロボット「NEO Gamma」を開発している。

【参考リンク】

NVIDIA公式サイト(外部)
NVIDIAの日本語公式サイト。GPU技術やAI関連の最新情報を提供している。

NVIDIA AI Enterprise(外部)
NVIDIAのAIソフトウェアスイート。GR00T N1はこのプラットフォームを通じて提供される。

1X Technologies(外部)
NEO Gammaヒューマノイドロボットを開発する企業のウェブサイト。

Hugging Face(外部)
GR00T N1のトレーニングデータとタスク評価シナリオがダウンロード可能なAIコミュニティプラットフォーム。

GitHub(外部)
GR00T N1の関連コードやデータセットが公開されているオープンソースプラットフォーム。

【関連記事】

ロボティクスニュースをinnovaTopiaでもっと読む

author avatar
アリス
プログラミングが好きなオタク
ホーム » ロボティクス » ロボティクスニュース » NVIDIA、ヒューマノイドロボット開発を加速する基盤モデル「Isaac GR00T N1」を発表──人間の認知に着想した2つの思考モデル搭載