川崎重工、院内配送ロボット「FORRO」が神戸の病院で本格稼働

30年稼働し続けた院内物流設備が、ロボットへとバトンを渡す瞬間が訪れました。
「運ぶ」をロボットに委ねることで、医療従事者が本来の仕事に向き合える環境が、神戸から動き始めています。


神戸市立西神戸医療センターと川崎重工業株式会社は、屋内配送ロボット「FORRO(フォーロ)」3台を導入し、2026年4月1日より運用を開始した。

同センターは1994年8月の開院以来、院内物流専用の配送設備を使用してきたが、導入から30年以上が経過し老朽化が課題となっていた。FORROはエレベーターを使った垂直移動に対応し、地下1階から10階の全フロアで検体や薬剤の配送を担う。

川崎重工が「ヒトは、ヒトにしかできないことを。」をコンセプトに開発したサービスロボットであり、看護師・薬剤師・検査技師などの業務負担軽減を目的としている。

From: 文献リンク神戸市立西神戸医療センターで屋内配送ロボット「FORRO(フォーロ)」の運用を開始|川崎重工業株式会社

【編集部解説】

今回の発表は、単なる「便利なロボット導入」のニュースではありません。日本の医療が直面する構造的な危機に対し、ロボティクスが具体的な答えを示し始めた瞬間として、非常に重要な意味を持ちます。

開院から30年以上が経過した院内物流設備の老朽化という課題は、西神戸医療センター固有の問題ではありません。高度経済成長期からバブル期にかけて整備された医療インフラが、今まさに一斉に更新時期を迎えています。そこに人口減少と少子高齢化が重なることで、「設備も人も同時に足りない」という二重の危機が起きているのです。

厚生労働省の推計によれば、2025年に必要とされる看護師の数は188万人から202万人とされているのに対し、供給見込みは175万人から182万人にとどまるとされており、最大で約27万人の看護師が不足するとされています。さらに長期的には、パーソル総合研究所「労働市場の未来推計 2030」によると、医療・福祉に関わる業界では2030年に約187万人の人材不足が出るのではないかと予測されています。FORROが担う「配送・搬送」は医療の本質的な治療行為ではありませんが、看護師や薬剤師の時間を奪い続けてきた業務のひとつでもあります。

FORROの技術的な特徴として特筆すべきは、LTEとセンサーを用いて通信・ナビゲーションを行うため、特別なWi-Fiやマーカーを必要とせず、導入コストと時間を削減できる点にあります。既存インフラへの改修を最小限に抑えられるため、老朽化した病院設備であっても導入しやすい設計思想といえます。また、エレベーターで人とロボットが同乗できる機能を含む自律走行能力が評価され、機械工業デザイン賞IDEAにおいて日本ロボット工業会賞を受賞しています。

導入効果の面では、藤田医科大学病院での実績として、FORROの1台あたりの稼働で平日昼間に3名の看護補助者を他業務へ回せること、また深夜帯の看護師による配送業務の代替効果や、臨床検査部門の毎朝の検体回収業務への代替効果などが確認されています。単純な数字以上に、「深夜帯や早朝など人手が手薄な時間帯でも安定稼働できる」という特性が、現場にとってより大きな価値を生んでいます。

一方で、潜在的なリスクについても冷静に見ておく必要があります。医療現場は検体の取り違えや薬剤の誤配送が直接患者の生命に関わる環境です。ロボットへの依存度が高まるほど、システム障害や通信トラブル発生時のバックアッププランが重要になります。また、配送業務を担ってきた人材の役割変化についても、単なる「省力化」ではなく、専門性の高い業務へのリソース再配分として丁寧に設計される必要があるでしょう。

より大きな文脈で見れば、川崎重工はFORROを単独のプロダクトではなく、医療ロボティクス・エコシステムの一部として位置付けています。同社はFORROに加え、手術支援ロボット「hinotori™」、自律型サービスロボット「Nyokkey」、屋内外測位情報ソリューション「mapxus Driven by Kawasaki™」を組み合わせ、AIおよびリモート技術と統合した病院向けのワンストップソリューションの構築を目指しています。個々のロボットが「点」として機能するフェーズから、複数のシステムが連携して「面」として機能するフェーズへ、今まさに移行が始まっているといえます。

今後の普及において鍵を握るのは「標準化」です。国内では、ロボットが施設内を円滑に移動するための環境整備や、特にエレベーターとの連携仕様の標準化が進められており、こうした取り組みが導入コストや期間の低減につながることが期待されます。

「ヒトは、ヒトにしかできないことを。」というコンセプトが医療現場に根付くとき、看護師や薬剤師が担う仕事の「意味」そのものが変わります。これは単なる自動化ではなく、人間の専門性を問い直すプロセスでもあります。

【用語解説】

LTE
Long Term Evolutionの略。4G世代の携帯通信規格。FORROはこのLTEと各種センサーを組み合わせてナビゲーションを行うため、病院側による特別なWi-Fi設備やフロアマーカーの設置が不要となる。

【参考リンク】

川崎重工業株式会社(外部)
航空・鉄道・船舶・エネルギー・ロボティクスなど幅広い領域を手がける重工業メーカー。医療分野ではFORROやhinotori™などを展開している。

屋内配送ロボット「FORRO」公式サイト(外部)
川崎重工業が提供するFORROの公式情報サイト。製品仕様、導入事例、問い合わせ窓口などを掲載している。

【参考記事】

Kawasaki Heavy Industries Q1-2025 Earnings Call(Alpha Spread)(外部)
川崎重工業の決算説明会資料。「1台で配送スタッフ3人分の業務量を処理できる」など、FORROの具体的な導入効果に言及している。

The Fujita Medical University Hospital Introduces FORRO(Futunn)(外部)
藤田医科大学病院へのFORRO導入を報じた記事。累計配送実績8,500件以上、看護補助者3名分の業務代替効果などの数値を掲載。

Asanogawa General Hospital Deploys FORRO in Hokuriku Region(IBTimes JP)(外部)
2026年4月、北陸地方初の医療機関へのFORRO導入を報じた英語記事。深夜・早朝帯の物流代替効果を紹介している。

Indoor Delivery Service Robot ‘FORRO’ Wins ‘Good Design Award’(Futunn)(外部)
FORROの2024年度グッドデザイン賞受賞を報じた記事。名称の由来「Changing FORwarding RObot」についても記載されている。

Kawasaki Establishes First Overseas R&D Innovation Centre(Cyprus Shipping News)(外部)
川崎重工業のフランス拠点設立を報じた記事。FORRO・hinotori™・Nyokkey・mapxusを統合した医療エコシステム構想が示されている。

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【編集部後記】

「ヒトは、ヒトにしかできないことを。」というコンセプトは、医療現場だけの話ではないかもしれません。あなたの職場や日常にも、ロボットや自動化に委ねられそうな仕事はあるでしょうか。

そしてそこで生まれた時間を、自分はどう使いたいと思いますか?ぜひ、そんな視点でこのニュースを眺めてみてください。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。