【解説】衛星コンステレーション100基超|日本だけ再訪間隔が非公表

[最終更新]

Googleで優先するソースとして追加するボタン

防衛省の衛星コンステレーションを100基以上に増強する検討が報じられました。ただ、いま契約が動いている事業の必要機数も、目標とする再訪間隔も、公表資料では伏せられています。韓国は30分間隔、米NROは年40万回と数字で語ります。同じ物差しに日本を置いたとき、その位置が見えません。


防衛省は2026年8月31日、令和9年度概算要求の概要を公表した。宇宙は重視9項目の一つに位置づけられ、宇宙領域把握(SDA)衛星2号機、戦術AI衛星の研究、次期防衛通信衛星などが並んだ。三文書改定に左右される事業は事項要求とされている。防衛装備庁には衛星開発室(仮称)を新設する。

画像取得を担う「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」は2026年2月19日に契約が締結された。三菱電機、スカパーJSAT、三井物産が設立したSPC「トライサット・コンステレーション」が受注し、Synspective、QPS研究所、アクセルスペース、三井物産エアロスペースを含む7社が参画する。契約金額は約2,831億円(税込)、事業期間は2031年3月31日まで。防衛省の業務要求水準書には再訪頻度の要求があるが、具体的な時間も必要機数も公開されていない。

読売新聞は2026年9月6日朝刊で、政府が100基以上への増強を検討し、年内に改定する安保3文書に方向性を明記すると報じた。政府・与党関係者の話としたもので、公式発表はない。

衛星を多数配置する動きは各国に広がるが、用途ごとに必要な性能指標は異なる。韓国は2025年11月、425事業で計画した5基目を打ち上げ、光学・赤外線1基とSAR4基が軌道上にそろった。米Space Development Agencyは、データ伝送126基と追尾28基からなるTranche 1を計画し、2026年7月16日時点で63基を軌道へ投入した。National Reconnaissance Officeは、過去数年間に200基を超える衛星を打ち上げ、その多くが増殖型アーキテクチャを構成すると説明している。EUは2026年8月7日、通信衛星網IRIS²を348基へ拡大する実施協定に署名した。インドでは現地報道によると、SBS-3で52基を2029年末までに整備する計画が進む。

数えるべきは基数ではない

「100基超」という数字は強い。ただ、この数字だけでは何が変わるのかがわかりません。画像取得を担う衛星を増やす目的の一つは、同じ場所を何分おきに見られるかという再訪間隔を縮めることです。基数はその手段ですが、抗たん性や同時多点観測、観測範囲の広さも同時に左右します。

各国が語っている物差し

それでも再訪間隔が一つの物差しになるのは、各国がこの軸で自らの計画を説明しているからです。NROは広報を通じて、増殖型アーキテクチャの目的は再訪頻度を上げ、カバー範囲を広げ、桁違いの量のデータを届けることだと述べています。スコルジー長官の説明はさらに具体的で、持続的な監視を得るには高高度へ上げて大口径にするか、多数を配置して常にどれかが上空を通るようにするかのどちらかだ、と設計上の選択として語っています。2025年だけで40万回を超える収集を行い、再訪時間を短縮したというのが同庁の報告です。

韓国とインドは、公式発表というより関係者の説明として数字が出ています。韓国では軍関係筋が、5基体制の再訪は約2時間間隔で、後続の小型衛星群を加えれば30分間隔になると説明しました。インドについても、現地報道が関係筋の話として、SBS-3の目的に再訪間隔の短縮と解像度の向上を挙げています。

日本が出していない数字

日本の業務要求水準書にも再訪頻度の要求はあります。ただ、具体的な時間も必要機数も伏せられている。運用上の理由があるのは理解できます。ただ、そうであるなら、報じられた「100基超」がどの程度の再訪間隔を意味するのかも、公開情報からは検算できないことになります。基数の報道だけが独り歩きする構造が、ここにあります。

計画の数字と、軌道上の数字

各国を並べると、計画された基数と実際に飛んでいる基数の開きも見えてきます。米SDAのTranche 1は、データ伝送を担う126基と、ミサイル追尾を担う28基の計154基(ほかにミサイル防衛の実証機4基)という計画です。2026年7月16日時点で軌道上にあるのは63基。先に投入された42基をめぐって熱設計、地上局との接続、推進系や軌道上昇の問題が見つかり、その後の打ち上げは数か月にわたって止まりました。

止まった数か月が示したもの

この中断を経てSDAが変えたのは、目標ではなく進め方でした。残るTranche 1について、月1回程度という日程の順守よりも、機体の準備状況を優先する方針へ切り替えています。サンドゥー長官は、3週間の打ち上げ延期で4か月の軌道上チェックの遅れを避けられるなら延期を選ぶ、と説明しました。少なくとも今回のSDAでは、ロケットの確保だけでなく、機体側の準備と軌道投入後の点検が日程を左右しています。

日本の時間軸

インドのSBS-3も、初号機を2026年4月にとする説明があった一方、Aero India 2025の場では最初の一群が2027〜28年になるとの見方が語られていました。今日時点で、初号機の打ち上げは確認できていません。日本の場合、実施方針は2026年4月から2028年3月までを「段階的運用」、2028年3月末から2031年3月末までを「本格的運用」と定めています。所要の衛星機数による整備・運用は、後者に位置づけられています。報じられた100基級はさらにその先、2031年度以降の次期計画にあたります。

誰が持つのか、という設計

日本の衛星コンステレーションはPFIです。民間企業が衛星を保有・運用し、防衛省の撮像指示は他の利用者の要求より優先される。この「撮像優先権」が制度の中心にあります。

これは日本独自の工夫ではなく、各国が同じ問題に別の答えを出している領域です。インドは52基のうち31基を民間企業が担うと報じられています。EUのIRIS²は官民パートナーシップで、Eutelsat、Hispasat、SESの連合が担う。NROは政府保有ですが、250社を超える主契約企業と5,000社の下請けを抱える一方、Starshieldの製造と打ち上げが実質的にSpaceXへ集中している状態を複数の観測筋が指摘しています。多数化は安全保障の話であると同時に、産業政策と依存構造の話でもあります。

Synspective、QPS研究所、アクセルスペースという国内の小型衛星スタートアップが基幹事業に組み込まれた意味は、この文脈で読むと大きい。防衛省がアンカーテナンシー型で先端技術・サービスを率先導入し、需要を牽引すると概算要求が明記したことも、同じ線上にあります。

増やしたあとに来るもの

概算要求には「戦術AI衛星の研究」が事項要求で載りました。衛星上でAIが情報を統合処理し、スタンド・オフ・ミサイルなどと双方向で通信する技術の実証です。

衛星が増え、撮像や収集の頻度が上がれば、処理すべきデータも増えます。人が見て判断する速度は変わらないので、衛星上や地上システムでの自動処理の比重が増していく。NROが増殖型アーキテクチャでAIと機械学習を用い、適応的なタスキングや自律運用、衛星間の協調を進めていると説明しているのは、同じ問題への先行した答えです。地上システムへの投資として、自動化、タスキングの最適化、処理速度と容量の向上を挙げている点も見逃せません。

太平洋という理由

なぜ今なのか。概算要求は「太平洋・シーレーン防衛」を9つの重視項目の一つに掲げ、理由として具体的な数字を挙げています。中国空母の太平洋進出は2022年の2回から2025年に5回へ、艦載機の発着艦は約320回から約1,460回へ増えました。北大東島には警戒監視態勢の構築に向けた施設整備が計上されています。

警戒管制レーダーを置ける場所は限られます。広大な海域を見るには、衛星に加えて艦艇、航空機、滞空型無人機を組み合わせることになる。概算要求がMQ-9Bを17機、2,922億円+事項要求で計上しているのも、衛星コンステレーションと同じ課題への別の手当てです。読売が報じた「太平洋側の防衛体制強化」という記述は、公表資料の側からも輪郭が取れる部分です。

残る問い

100基超も、関連経費を現行の2倍以上にという調整も、現時点では政府が公表したものではありません。年内に改定される三文書と、その後に編成される令和9年度予算で、どこまでが数字として姿を現すのか。

何をどれだけ持つかを示すことは、抑止に寄与し得ます。一方で、運用上の秘匿にも理由がある。どこまで示し、どこから伏せるのか。三文書の記述は、その折り合いの位置を示すものになるはずです。

【関連記事】

衛星コンステレーション計画|防衛省が2800億円投資
防衛省が2025年度予算案に2832億円を計上した段階で、光学衛星とSAR衛星を組み合わせる整備構想の概要を伝えた記事。

【解説】防衛省のAIオーケストレーター|中核4事業は金額なし
同じ令和9年度概算要求を、AI分野の中核事業が事項要求とされた点から読み解いた解説記事。三文書改定との関係を扱っている。

【編集部後記】

業務要求水準書を読んでいて、目に留まった条項があります。国産衛星だけでは所要を満たすコンステレーションの整備が難しくなり、国が認めた場合には、海外衛星の利用も認める、と。

自前の目を持つための事業に、自前で足りないときの道が最初から書き込まれています。弱さの記述ではなく、運用を止めないための設計なのだと読みました。100基という数字よりも、こうした一文のほうが計画の輪郭をよく伝えるように思います。


【用語解説】

衛星コンステレーション
多数の小型人工衛星を軌道上に配置し、一体的に運用する仕組み。1基あたりの性能は控えめでも、数を並べることで観測の間隔や範囲、抗たん性を確保する。

再訪間隔(再訪頻度)
同じ地点の上空に、次に衛星が来るまでの時間。短いほど目標の動きを追いやすい。多数配置による最も直接的な効果の一つとされる。

宇宙領域把握(SDA)
Space Domain Awareness。他国の衛星やデブリなど、宇宙空間の物体と脅威の状況を把握する活動。防衛省の「SDA衛星」はこちらを指す。

Space Development Agency(SDA)
米国防総省の組織。宇宙領域把握と同じ略称だが別物で、低軌道の多層衛星網PWSAを構築する。日本語では宇宙開発局と訳されることが多い。

増殖型アーキテクチャ
米NROが2024年から展開する、小型偵察衛星を多数配置する構想。少数の高性能衛星に依存しない体制を目指す。

事項要求
概算要求の時点で金額を示さず、項目だけを立てておく方式。予算編成の過程で内容と額を詰める。三文書改定の結論を待つ事業がこれにあたる。

PFI/BOO方式
民間資金を活用した公共事業の手法。BOO(Build-Own-Operate)は、民間が自ら整備し、所有し、運用する形式。事業終了後も国へ譲渡しない。

撮像優先権
事業者が保有・運用する衛星に対し、防衛省の撮像指示がほかの利用者の要求より優先される権利。

段階的運用/本格的運用
本事業の運用区分。2026年4月から2028年3月までが段階的運用、2028年3月末から2031年3月末までが本格的運用で、所要の衛星機数による整備・運用は後者に位置づけられている。

戦術AI衛星
衛星上でAIが他の衛星からの情報を統合処理し、各種装備品と双方向の戦術通信を行う衛星。令和9年度概算要求では事項要求。

SAR(合成開口レーダー)
電波を照射し、反射波から地表の像を得るセンサー。夜間や雲の下でも観測できる。

三文書
国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画。2022年12月策定で、2026年中の改定が検討されている。

【参考リンク】

防衛省「防衛力の変革に向けた予算 令和9年度概算要求の概要」(外部)
2026年8月31日公表。宇宙を重視9項目の一つに掲げ、SDA衛星2号機や戦術AI衛星の研究を計上。改定待ちの事業は事項要求とした。

防衛省「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」(外部)
実施方針、業務要求水準書、事業者選定の各資料が公開されている事業の公式ページ。段階的運用と本格的運用の期間区分もここで確認できる。

株式会社アクセルスペース「防衛省の『衛星コンステレーションの整備・運営等事業』を受注」(外部)
本事業の受注を伝える公式発表。契約金額283,117百万円、事業期間2026年2月19日から2031年3月31日という条件を記載している。

三菱電機「特別目的会社『トライサット』が防衛省の衛星コンステレーション事業を受注」(外部)
特別目的会社トライサット・コンステレーションの設立と、三菱電機を代表企業とする参画7社の構成を伝える公式発表。2026年2月20日付。

Space Development Agency(外部)
米国防総省の宇宙開発局。低軌道に多層の衛星網を築くPWSAを担い、Tranche 1の打ち上げ状況と軌道上の機数を随時公表している。

European Commission「The European Union is accelerating and reinforcing IRIS²」(外部)
IRIS²を348基へ拡大し、うち66基を防衛・安全保障向けに充てると発表。初打ち上げも2029年へ前倒しすると伝えている。

【参考記事】

Space Development Agency Successfully Completes Third Launch of Tranche 1 Satellites(外部)
Tranche 1がデータ伝送126基と追尾28基の計154基で構成され、2026年7月16日時点の軌道上は63基と発表している。

SDA resumes satellite launch campaign following months-long pause, tech issues(外部)
先行して投入された42基で見つかった不具合と、打ち上げ日程の順守よりも機体の準備状況を優先する方針への転換を報じている。

NRO says proliferated satellite architecture exceeding expectations, delivering enhanced intelligence capabilities(外部)
NRO副長官の講演をもとに、増殖型アーキテクチャが2025年だけで40万回を超える収集を行い、再訪時間を短縮したとする説明を伝えている。

Korea to Launch 19 Small Reconnaissance Satellites by 2026(外部)
軍関係筋の話として、5基体制での約2時間間隔が、後続の小型衛星群を加えることで30分間隔へ縮まるとの見通しを伝えている。

S. Korea nears completion of five-satellite network to monitor North Korea(外部)
425事業の5基目の打ち上げにより、光学・赤外線1基とSAR4基が軌道上にそろった経緯と、事業のこれまでの歩みを伝えている。

Googleで優先するソースとして追加するボタン
投稿者アバター
山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

おすすめ記事