NASAのパーカー・ソーラー・プローブ、2024年クリスマスイブに史上初の太陽大気圏突入へ
【主要事実】
- 実施機関:NASA(アメリカ航空宇宙局)
- 探査機:パーカー・ソーラー・プローブ
- 打ち上げ日:2018年8月12日
- 最接近予定日時:2024年12月24日
- 太陽表面からの最接近距離:約380万マイル(610万km)
【探査機の仕様】
- 総重量:1メートルトン未満
- 科学機器重量:約50kg
- 最高速度:時速43万マイル(約69万km/h、光速の約0.17%)
- 想定最高温度:約2,500度華氏(1,371度)
【技術的特徴】
- 熱シールド材質:チタン-ジルコニウム-モリブデン合金(融点約2,349度)
- 特殊配線:サファイア結晶チューブとニオブ線を使用
- 観測機器:ファラデーカップ(太陽風の粒子測定装置)を搭載
【歴史的意義】
- 生存している科学者の名を冠した初のNASA探査機
- 命名の由来:ユージン・パーカー博士(1927年生まれ、太陽風の存在を1950年代に理論的に予測)
- 太陽風の発見:1962年、マリナー2号による実証
【ミッションの目的】
- 太陽風の発生源の特定
- 太陽コロナの直接観測
- 太陽大気の物理特性の解明
from:A Spacecraft Is About to Fly Into the Sun’s Atmosphere for the First Time
【編集部解説】
パーカー・ソーラー・プローブが切り開く太陽研究の新時代
パーカー・ソーラー・プローブの太陽最接近は、人類の太陽研究における画期的な瞬間となります。2024年12月24日午前6時53分(米東部時間)に予定されているこの接近は、人類が作った機器として史上最も太陽に近づく快挙となります。
太陽の謎の一つである「コロナ加熱問題」の解明に向けて、重要な手がかりが得られる可能性があります。太陽表面の温度が約6,000度であるのに対し、なぜかその外側のコロナは100万度以上にも達するという物理法則に反する現象の解明が期待されています。
探査機には革新的な熱シールド技術が搭載されており、約2,500度の極限環境下でも内部の観測機器を常温に保つことができます。この技術的breakthrough(技術的突破)により、これまで観測できなかった太陽大気の直接観測が可能となりました。
特筆すべきは、11月に実施されたヴィーナスとの最後のフライバイです。この重力アシストによって、探査機は最終軌道に投入されました。これにより、太陽活動が最も活発な「太陽極大期」のタイミングでの観測が可能となります。
最新の研究では、太陽の磁場に見られるS字型の構造(スイッチバック)が、コロナ加熱の直接的な原因ではないことが判明しています。このように、パーカー・ソーラー・プローブは既存の理論を検証し、新たな発見をもたらしています。
この探査ミッションの成果は、宇宙天気予報の精度向上にも貢献すると期待されています。太陽風が地球の衛星や宇宙飛行士に与える影響をより正確に予測できるようになれば、将来の宇宙活動の安全性向上につながります。
ただし、このミッションにはリスクも伴います。探査機が最接近時に太陽の影響で制御不能になる可能性があり、NASAは12月27日まで探査機との交信ができない状態となります。
長期的な視点では、このミッションで得られるデータは、将来の宇宙探査や太陽エネルギー利用技術の発展に大きく貢献する可能性があります。人類が太陽をより深く理解することは、持続可能なエネルギー源の開発にも新たな知見をもたらすかもしれません。