超高エネルギー宇宙線の起源、深宇宙ではなく天の川銀河内のダークマター消滅か?新理論が宇宙物理学に革命をもたらす可能性

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ロシアの天体物理学者が発表した新研究によると、これまで検出された最も高エネルギーの宇宙線は、従来考えられていた遠い宇宙の激しい天体現象からではなく、私たちの天の川銀河内で「スカラロン」と呼ばれるダークマター粒子が互いに消滅することで生成されている可能性がある。

この研究は2025年初頭にarXivにプレプリントとして発表された。

超高エネルギー宇宙線(UHECRs)は、10¹⁸電子ボルト(eV)以上のエネルギーを持つ粒子で、これは大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で生成される粒子の約1億倍のエネルギーに相当する。従来の理論では、このような高エネルギー粒子は爆発する恒星や中性子星の衝突、超巨大ブラックホールなどから発生すると考えられてきた。

しかし、これらの粒子が数十億光年離れた場所から来ているとすれば、宇宙マイクロ波背景放射や銀河磁場との相互作用により徐々に減速するはずだが、実際には強力なまま地球に到達している。この謎を説明するため、新研究はこれらの宇宙線の発生源が私たちの銀河内にあるという仮説を提案している。

スカラロンは宇宙の初期に形成された可能性のある理論上の超重ダークマター粒子で、互いに衝突して消滅すると膨大なエネルギーを放出する。この仮説が正しければ、宇宙の質量の約85%を占めるとされるダークマターの性質を理解する重要な手がかりとなる可能性がある。

ただし、超高エネルギー宇宙線が巨大な星形成雲や銀河内の極端な磁場によって生成されるという競合する理論も存在している。

from:The Most Extreme Cosmic Rays Ever Detected May Be Coming from Right Next Door—Not Deep Space

【編集部解説】

皆さんは宇宙線について考えたことがありますか?私たちの頭上を常に通過している高エネルギー粒子ですが、その中でも特に謎に包まれているのが「超高エネルギー宇宙線」です。今回の研究は、この謎めいた現象に新たな視点を提供しています。

従来の天文学では、最も高エネルギーの宇宙線は遠い宇宙の激しい現象(超新星爆発や中性子星の衝突、活動銀河核など)から飛来すると考えられてきました。しかし、この常識に挑戦する新しい理論が登場したのです。

この研究の興味深い点は、「答えは遠くにあるのではなく、私たちのすぐそばにある」という発想の転換にあります。超高エネルギー宇宙線が私たちの天の川銀河内で生成されているという仮説は、長年の謎を解く鍵となる可能性があります。

特に注目すべきは、この理論がダークマターという物理学最大の謎の一つに光を当てる可能性があることです。宇宙の質量の約85%を占めるとされるダークマターは、その存在は重力効果から推測されるものの、直接観測することができていません。もし「スカラロン」と呼ばれるダークマター粒子が実際に存在し、それらの相互作用が超高エネルギー宇宙線を生み出しているとすれば、これはダークマターの性質を理解する重要な手がかりとなります。

スカラロン仮説の特筆すべき点は、アインシュタインの一般相対性理論の修正を必要とすることです。これは「f(R)重力理論」と呼ばれる修正重力理論の枠組みに基づいており、重力の働き方に関する私たちの基本的な理解を変える可能性があります。一般相対性理論は100年以上にわたって多くのテストに合格してきましたが、ダークマターやダークエネルギーといった謎を完全に説明できていないため、このような修正理論が提案されています。

一方、競合する理論も詳しく見ていく価値があります。例えば、巨大な星形成雲内の衝撃波や、銀河内の極端に強い磁場による粒子加速メカニズムも、超高エネルギー宇宙線を説明する可能性があります。これらの理論は既存の物理学の枠組み内で説明できるため、科学的には「より単純な説明」として優先される傾向があります。

しかし、この研究はまだ仮説段階であることに注意が必要です。検索結果によると、この論文はarXivにプレプリントとして発表されたもので、まだピアレビュー(専門家による査読)を経ていない可能性があります。科学の世界では、新しい理論は厳格な検証プロセスを経て初めて広く受け入れられます。

また、2023年12月に発表された別の研究では、銀河中心の超巨大ブラックホールに関連する強力な相対論的ジェットによる粒子加速が、10¹⁵ eV以上のエネルギーを持つ宇宙線スペクトルを説明できる可能性が示されています。

さらに、2024年4月の研究では、超高エネルギー宇宙線の発生源がガンマ線で観測されにくい可能性が指摘されており、これは宇宙線の起源に関する研究がまだ発展途上であることを示しています。

このような最先端の研究が示すのは、宇宙の謎を解明するためには従来の常識にとらわれない発想が重要だということです。スカラロン仮説が正しいかどうかはまだ分かりませんが、この研究は私たちの宇宙観を広げ、新たな可能性を探る重要な一歩と言えるでしょう。

テクノロジーの進化により、今後はより精密な宇宙線観測が可能になり、これらの理論の検証が進むことが期待されます。特に、超高エネルギー宇宙線の到来方向の詳細な分析や、ダークマター分布モデルとの整合性の検証が重要になるでしょう。

私たちinnovaTopiaは、このような宇宙の根本的な謎に挑む研究を今後も注目していきます。宇宙の真理を探求する科学の旅は、テクノロジーの進化とともにますます加速していくことでしょう。

【用語解説】

  • 超高エネルギー宇宙線(UHECRs):
    10¹⁸電子ボルト(eV)以上のエネルギーを持つ宇宙線。これは大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で生成される粒子の約1億倍のエネルギーに相当します。身近な例えでいうと、テニスボール1個分のエネルギーが原子1個に集中したようなものです
  • 電子ボルト(eV):
    エネルギーの単位で、1eVは電子が1ボルトの電位差で加速されたときに得るエネルギー。1eVは約1.602×10⁻¹⁹ジュールに相当します。
  • ダークマター:
    宇宙の質量の約85%を占めると考えられている物質で、光を放出・吸収しないため直接観測できません。その存在は銀河の回転速度など重力効果から推測されています。見えないけれど存在を感じる「透明人間」のようなものと例えられます。
  • スカラロン:
    修正重力理論(f(R)重力理論)から導かれる理論上の粒子で、ダークマターの候補の一つ。記事では、これらの粒子が互いに消滅することで超高エネルギー宇宙線が生成される可能性が示唆されています。
  • f(R)重力理論:
    アインシュタインの一般相対性理論を拡張した理論で、重力場の方程式にリッチスカラーRの関数f(R)を導入します。この修正により、ダークマターやダークエネルギーを説明しようとする試みです。
  • 宇宙マイクロ波背景放射:
    ビッグバンの名残として宇宙全体に広がる電磁波。超高エネルギー宇宙線は、この放射と相互作用してエネルギーを失うはずですが、実際にはそうなっていないという謎があります。
  • arXiv:
    物理学、数学、コンピュータサイエンスなどの分野の論文のプレプリント(査読前論文)を公開するオンラインリポジトリ。研究者が査読プロセスを待たずに最新の研究成果を共有できる場所です。

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