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NASA、地球を取り巻く「両極性電場」を発見 – 重力と並ぶ第三の力場が大気進化の謎を解明

NASA、地球を取り巻く「両極性電場」を発見 - 重力と並ぶ第三の力場が大気進化の謎を解明 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-03-28 11:34 by admin

NASAは地球を取り巻く「両極性電場(ambipolar electric field)」と呼ばれる惑星規模の電場の存在を確認した。この発見は、NASAのEnduranceミッションによるもので、Nature誌に掲載された研究によると、この電場は重力や磁力と同様に地球の挙動に不可欠である可能性がある。

この電場は1960年代から科学者たちを悩ませてきた謎、すなわち地球の上層大気から粒子が超音速で宇宙に流出する「極風(polar wind)」現象の原因を説明するものである。Enduranceミッションの主任研究員であるGlyn Collinson博士によれば、科学者たちは長年この現象の背後に弱い電場があると疑っていたが、検出する技術がなかった。

ブレークスルーは2022年5月11日に訪れた。NASAはノルウェーのスヴァールバル諸島から観測ロケットを打ち上げ、19分間の弾道飛行中に最高高度477マイル(768 km)に達し、0.55ボルトの一定の電位を記録した。これは腕時計の電池とほぼ同じ電力だが、上部電離圏の超希薄な空気中では、この微小な電圧は水素イオンを宇宙に持ち上げるのに十分であり、重力の10.6倍の力で克服する。

Enduranceは高高度でイオン密度が271%増加したことを記録し、この電場が大気の脱出に重要な役割を果たしていることを確認した。この電場は「電気コンベアベルト」のように機能し、帯電粒子を地球の重力の影響から着実に宇宙へ移動させている。地質学的な時間スケールでは、この緩やかな脱出が大気の組成を変える可能性がある。

科学者たちは、この両極性電場が何百万年、あるいは何十億年もの間作用し、地球の大気を形作ってきたと考えている。また、大気を持つ他の惑星、特に火星や金星にも同様の電場が存在する可能性が高く、これらの惑星の大気損失や生命の可能性を評価する上で重要な知見となる。

from:NASA Just Found an Invisible Force Surrounding Earth—and It’s as Crucial as Gravity

【編集部解説】

NASAのEnduranceミッションによって確認された「両極性電場(ambipolar electric field)」は、地球科学における画期的な発見です。この電場は、重力や磁場と並ぶ地球の基本的な力場として位置づけられており、長年の仮説が実証されたことになります。

この発見の重要性は、単に新しい現象が確認されただけではありません。1960年代から科学者たちを悩ませてきた「極風(polar wind)」と呼ばれる現象—地球の極地上空で大気粒子が超音速で宇宙に流出する現象—のメカニズムを説明する鍵となったのです。

この両極性電場は、上層大気(電離層)において原子が電子とイオンに分離する高度約250km付近で形成されます。その強さはわずか0.55ボルトと、腕時計の電池程度の電圧ですが、超希薄な上層大気では、この微弱な電場が水素イオンを重力の10.6倍の力で宇宙へ押し出す効果を生み出しています。

この発見は、技術的な壁を乗り越えた成果でもあります。NASAは2022年5月11日にノルウェーのスヴァールバル諸島から観測ロケットを打ち上げました。北極に近いこの場所は、極風を直接観測できる重要な位置にあります。

19分間の飛行で最高高度768kmに達したEnduranceは、広範囲にわたって電位の変化を測定し、長年仮説にとどまっていた両極性電場の存在を実証しました。これは、センサー技術の進化と科学者たちの粘り強い取り組みがあってこそ実現した成果と言えるでしょう。

この発見が示唆するのは、地球の大気が「電気コンベアベルト」のようなシステムによって、緩やかに宇宙へ流出し続けているという事実です。Enduranceの観測では、高高度でのイオン密度が271%増加していることが確認され、この電場が大気の脱出に重要な役割を果たしていることが裏付けられました。

この現象は、太陽の熱や爆発的な活動がなくても常に起こっており、地質学的な時間スケールでは大気の組成に影響を与えてきた可能性があります。特に水素のような軽い元素の流出に大きく関わっていると考えられています。

この発見の影響は地球だけにとどまりません。研究チームのリーダーであるGlyn Collinson博士は「大気を持つ惑星なら、両極性電場を持つはずです」と述べています。つまり、火星や金星といった他の惑星でも同様の電場が存在し、それらの大気進化に影響を与えている可能性が高いのです。

これは惑星の大気安定性や生命の可能性を評価する上で重要な視点となります。なぜなら、大気の長期的な維持は生命の存続に不可欠だからです。火星のように、かつては豊かな大気を持っていたと考えられる惑星が、どのようにして大気を失ったのかを理解する手がかりになるかもしれません。

この発見は、精密な測定技術の進化と理論物理学の融合がもたらした成果です。わずか0.55ボルトという微弱な電場を検出するためには、超高感度のセンサー技術が必要でした。

今後、この発見を基にさらに研究が進めば、地球大気の長期的な変化予測や、他の惑星の大気状態の理解が深まる可能性があります。また、惑星の大気保持能力の評価は、将来の惑星探査や居住可能性の研究にも重要な指針となるでしょう。

この両極性電場による大気流出は、地球の歴史を通じて大気組成に影響を与えてきた可能性があります。特に水素のような軽い元素は、この電場の影響を強く受けて宇宙に流出しやすいと考えられています。

しかし、この現象は急激な大気損失を引き起こすものではなく、地質学的な時間スケールでゆっくりと進行するプロセスです。そのため、短期的な気候変動や環境への影響は限定的と考えられます。むしろ、この発見は地球の大気がどのように進化してきたかを理解する上で重要な知見となります。

科学の進歩は時に予想外の発見をもたらします。地球を取り巻く「第三の力場」の発見は、私たちの住む惑星についての理解をさらに深め、宇宙における地球の特異性と普遍性を考える新たな視点を提供してくれるのです。

【用語解説】

両極性電場(ambipolar electric field):
地球の上層大気に存在する惑星規模の電場。電離層で原子が電子とイオンに分離する際に生じる。電子とイオンの分離を防ぎ、一部のイオンを宇宙へ押し出す力を生み出す。

極風(polar wind):
地球の極地上空で大気粒子が超音速で宇宙に流出する現象。両極性電場によって駆動される。

電離層(ionosphere):
地球の上層大気の一部で、太陽からの放射線によって原子がイオン化している層。高度約60kmから1000kmに広がる。

Enduranceミッション:
NASAが両極性電場を測定するために実施した観測ロケットミッション。2022年5月11日にノルウェーのスヴァールバル諸島から打ち上げられた。

Glyn Collinson博士:
NASAゴダード宇宙飛行センターの科学者で、Enduranceミッションの主任研究員。

【参考リンク】

NASA(アメリカ航空宇宙局)(外部)
アメリカの宇宙開発を担当する政府機関。Enduranceミッションを実施し、両極性電場の発見を発表した。

NASA Goddard Space Flight Center(外部)
NASAの主要な研究所の一つで、Enduranceミッションを主導した機関。地球科学や宇宙物理学の研究を行っている。

Nature(科学ジャーナル)(外部)
両極性電場の発見に関する研究論文が掲載された世界的に権威のある科学雑誌。

【編集部後記】

読者のみなさん、地球を取り巻く「目に見えない力」の発見、どう感じられましたか?私たちの住む星には、まだまだ解明されていない謎がたくさんあります。この発見は、宇宙や地球科学の分野でどのような新しい扉を開くのでしょうか?身近な自然現象を観察する中で、何か不思議に思うことはありませんか?そんな疑問が、次の大発見につながるかもしれません。みなさんも、日常の中に潜む科学の種を探してみませんか?

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