Last Updated on 2025-03-31 13:36 by admin
欧州宇宙機関(ESA)の火星探査ミッション「ExoMars」のローバー「ロザリンド・フランクリン」の着陸システム開発契約が、Airbus UKに1億5000万ポンド(約2億8500万ドル)で授与された。
当初2022年に打ち上げ予定だったこのミッションは、ロシアのウクライナ侵攻によりESAとロスコスモスの協力が停止され、大幅に遅延していた。新たな計画では、NASAが打ち上げサービスを提供し、2028年10月から12月の間に打ち上げ、2030年に火星到着を目指す。
イギリスのスティーブニッジに拠点を置くエアバスチームは、タレス・アレニア・スペース(TAS)からの契約の下、着陸構造、最終制動推力を提供する大型推進システム、着陸時にランダーが安定するための着陸装置などのシステムを担当する。ランダーには2つのランプが装備され、ローバーが火星表面に安全に移動できるようになる。
このローバーは火星表面を最大2メートル掘削する能力を持ち、生命の痕跡を探査する重要なミッションを担っている。デイム・マギー・アデリン=プーコック博士は、この掘削能力により放射線から保護された地下深くで生命の痕跡を探すことができ、「宇宙に私たちは一人ぼっちなのか?」という疑問に答える手がかりになる可能性があると述べている。
この契約はESAによって授与され、英国宇宙機関を通じて英国政府によって資金提供されている。2025年3月29日に発表されたこの契約は、2018年と2020年からすでに遅延していたExoMarsミッションの再始動を意味する。
from:Brits to build ExoMars landing gear after Russia sent packing
【編集部解説】
火星探査の歴史において画期的なミッションとなる予定だった「ExoMars」ローバーが、国際情勢の変化により大きな転換点を迎えています。当初ロシアとの協力で進められていたこのプロジェクトは、2022年のウクライナ侵攻により協力関係が断絶。しかし、欧州宇宙機関(ESA)は諦めることなく、新たなパートナーとしてNASAを迎え入れ、計画を再構築しました。
特筆すべきは、このローバーの掘削能力です。「ロザリンド・フランクリン」は最大2メートルの深さまで掘削可能で、これはNASAの火星ローバーにはない特徴となっています。火星表面は強い放射線にさらされているため、生命の痕跡が残っているとすれば地下深くである可能性が高いとされています。
このミッションは、単に火星の科学的探査にとどまらず、国際宇宙開発における協力体制の再構築という側面も持っています。ExoMarsプロジェクトは当初2010-2011年頃にNASAとの協力で始まりましたが、予算問題でNASAが撤退。その後ロシアとの協力に移行し約10年間進められてきましたが、ウクライナ侵攻により再び協力関係が断絶。そして現在は再びNASAとの協力に戻るという複雑な経緯をたどっています。
技術面では、Airbus UKはスティーブニッジの施設で着陸構造、最終制動推力を提供する大型推進システム、着陸時の安定を確保する着陸装置などを開発します。ランダーには2つのランプが装備され、ローバーが最もリスクの少ないルートで火星表面に移動できるようになります。
また、記事が指摘するように、2028年の打ち上げ日は野心的なスケジュールであり、現在の米国政権の欧州に対する姿勢を考えると、NASAへの依存にはリスクも伴います。しかし、このような国際情勢の変化にも関わらず、火星探査という人類共通の目標に向けた取り組みが続いていることは注目に値します。
2030年、ロザリンド・フランクリンローバーが火星の地下から何を発見するのか、今から大きな期待が寄せられています。このミッションは「宇宙に私たちは一人ぼっちなのか?」という人類の根源的な問いに答える一歩となるかもしれません。
【用語解説】
ExoMars(エクソマーズ):
欧州宇宙機関(ESA)が主導する火星探査ミッションのこと。当初はロシアとの共同プロジェクトだったが、現在はNASAとの協力に移行している。
ロザリンド・フランクリン:
このローバーの名前の由来となった科学者。DNAの二重らせん構造の発見に重要な貢献をしたイギリスの科学者で、X線結晶構造解析の手法でDNAの構造を初めて明らかにした人物である。彼女の業績が正当に評価されるまでに時間がかかったように、このローバーも多くの困難を乗り越えて、ようやく火星への旅立ちに向けて前進している。
ESA(欧州宇宙機関):
1975年に設立された欧州22カ国が参加する宇宙開発・研究機関。本部はフランスにあり、主な射場としてフランス領ギアナのギアナ宇宙センターを使用している。
Airbus UK:
エアバス社の英国子会社。英国の航空宇宙産業において最大の民間企業であり、今回ExoMarsの着陸システム開発を担当する。スティーブニッジに主要な開発拠点を持つ。
タレス・アレニア・スペース(TAS):
欧州の主要な宇宙機器メーカー。今回のミッションでは火星進入・降下・着陸モジュール(EDLM)と既存の車両の維持を担当する。
2メートル掘削能力:
このローバーの最大の特徴。これまでの火星ローバーが表面付近のサンプル採取に限られていたのに対し、地下深くまで掘削できる。これは家庭用の電動ドリルと比較すると、一般的な壁の厚さを超えて建物の構造部分まで掘り進めるようなものだ。
【参考リンク】
欧州宇宙機関(ESA)公式サイト(外部)
欧州の宇宙開発を担う機関の公式サイト。ExoMarsミッションを含む様々な宇宙プロジェクトの情報を提供している。
Airbus UK公式サイト(外部)ExoMarsの着陸システムを開発するAirbus UKの公式サイト。英国における航空宇宙産業の活動を紹介している。
ExoMarsプログラム公式ページ(外部)
ESAによるExoMarsミッションの詳細情報を提供するページ。ミッションの目的や技術的詳細を解説している。
【参考動画】
【編集部後記】
テクノロジーの最前線に関心をお持ちの皆様、火星探査は人類の宇宙進出における重要なステップの一つです。「ロザリンド・フランクリン」ローバーが2030年に火星に到着すれば、私たちは火星の地下深くに眠る秘密に初めて触れることになります。皆さんは宇宙探査と国際政治の関係性、生命の起源に関する根源的な問い、あるいは長期的な宇宙開発の展望について、どのようなことを考えますか?日本の宇宙開発においても、国際協力の重要性が増しています。宇宙開発の未来について、ぜひ皆さんのご意見をSNSでお聞かせください。