Last Updated on 2025-04-22 10:59 by admin
中国と欧州の研究チームが、水星の内部に最大18キロメートル(11マイル)の厚さのダイヤモンド層が存在する可能性があるという研究結果を発表しました。この研究は中国のHPSTAR(高圧科学技術先端研究センター)のヤンハオ・リン博士が率いるチームによって行われ、2024年6月14日に学術誌「Nature Communications」に掲載されました。
研究チームは、NASAの水星探査機MESSENGER(メッセンジャー)のデータと実験室での高圧実験、熱力学モデルを組み合わせて分析を行いました。水星の表面には黒鉛(炭素の同素体)が散在しており、これは過去に水星が炭素豊富なマグマの海を持っていたことを示しています。このマグマの海が冷えるにつれ、軽い炭素物質は上方に浮き、より密度の高い炭素は惑星の深部へと沈みました。
研究によると、水星のコア・マントル境界(CMB)では、圧力が5.575ギガパスカル(GPa)、温度が約3,600°F(約1,982°C)に達し、これらの条件下で炭素がダイヤモンドに変換される可能性があります。また、水星に含まれる硫黄がマグマの融点を下げ、ダイヤモンド形成を促進することも明らかになりました。
このダイヤモンド層は水星の表面から約300マイル(約483キロメートル)下に位置すると推定され、その厚さは15〜18キロメートル(9.3〜11.1マイル)と見積もられています。研究チームは、このダイヤモンド層が水星の強い磁場の謎を解く鍵となる可能性があると指摘しています。ダイヤモンドの高い熱伝導率により、コアからマントルへの効果的な熱伝達が可能となり、水星の磁気ダイナモを維持するのに必要な温度勾配が保たれるというのです。
現在、欧州宇宙機関(ESA)と日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同ミッションであるBepiColombo(ベピコロンボ)が水星に向かっており、2026年11月に軌道に入る予定です。このミッションにより、水星の表面の炭素やダイヤモンドの存在を特定・定量化し、コア・マントル境界の深さをより正確に推定することが可能になると期待されています。
from:NASA Discovers 10-Mile-Thick Diamond Layer Beneath Mercury’s Surface
【編集部解説】
水星の内部にダイヤモンド層が存在する可能性についての研究は、2024年6月14日にNature Communicationsに掲載されたものです。この研究成果が最近になって広く報じられるようになったことで注目を集めています。
研究の主導者はヤンハオ・リン博士で、中国のHPSTAR(高圧科学技術先端研究センター)の研究者です。この研究はNASAのMESSENGER(メッセンジャー)探査機のデータを活用していますが、NASAが直接発見したわけではない点に注意が必要です。
水星のダイヤモンド層の厚さについては、最大18キロメートル(約11マイル)と推定されており、これは東京から横浜までの距離に相当します。この規模のダイヤモンド層が実際に存在するとすれば、太陽系内でも極めて特異な地質構造といえるでしょう。
このダイヤモンド層が形成された理由として、水星が太陽に最も近い惑星であるため、太陽系形成初期の段階で炭素を多く取り込んだことが挙げられています。地球や火星、金星などの他の岩石惑星は、地質学的プロセスを通じて表面の炭素の多くを失ったり、炭酸塩として固定したりしましたが、水星はその炭素を保持し続けたと考えられています。
特に興味深いのは、このダイヤモンド層が水星の磁場維持に関わっている可能性です。水星はその小ささにもかかわらず、比較的強い磁場を持っています。ダイヤモンドの高い熱伝導率がコアからマントルへの熱伝達を促進し、磁気ダイナモを維持するのに必要な温度勾配を保っているという仮説は、惑星の磁場形成理論に新たな視点をもたらしています。
研究チームの分析によると、水星のマグマの海が冷却する過程で、ダイヤモンドが形成される際に約358Kの温度低下が起こり、これによってダイヤモンド結晶が沈み、蓄積していったと考えられています。また、液体の外核から炭素が過飽和状態になると、ダイヤモンドが形成され、コア・マントル境界に浮上するというプロセスも提案されています。
この発見は、系外惑星の研究にも大きな影響を与える可能性があります。特に恒星に近い位置を周回する岩石惑星の内部構造や磁場の有無を予測する上で、水星のモデルが参考になるかもしれません。
現在、欧州宇宙機関(ESA)と日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同ミッションであるBepiColombo(ベピコロンボ)が水星に向かっています。最新の情報では2026年11月に軌道に入る予定とされており、このミッションにより、水星の内部構造についてより詳細なデータが得られ、ダイヤモンド層の存在を確認できる可能性があります。
なお、この研究はまだ仮説の段階であり、直接的な証拠を得るのは容易ではありません。ダイヤモンド層が深く、比較的薄いため、将来の水星ミッションでこれを確認するには高度な観測技術が必要となるでしょう。
【用語解説】
ダイヤモンド層(Diamond Layer):
高圧・高温の条件下で炭素原子が規則正しく配列した結晶構造。水星の場合、コア・マントル境界付近に形成されていると考えられている層で、厚さは最大18km(11マイル)と推定されている。
コア・マントル境界(CMB: Core-Mantle Boundary):
惑星の金属製の核(コア)と岩石質のマントルの境界領域。水星では地表から約300マイル(約483km)の深さに位置すると考えられている。
黒鉛(グラファイト):
炭素の同素体の一つで、層状構造を持つ。水星の表面に広く分布していることがMESSENGER探査機によって確認されている。
磁気ダイナモ:
惑星の内部で液体金属の対流が起こることで生じる自己持続的な磁場生成メカニズム。地球の磁場もこの原理で生成されている。水星のような小さな惑星で強い磁場が維持されている理由は長年の謎だった。
ギガパスカル(GPa):
圧力の単位。1GPaは約9,869気圧に相当する。水星のコア・マントル境界では5.575GPa以上の圧力がかかっていると推定されている。
【参考リンク】
MESSENGER(メッセンジャー)(外部)
NASAが2004年に打ち上げ、2011年から2015年まで水星を周回観測した探査機
BepiColombo(ベピコロンボ)(外部)
ESAとJAXAの共同ミッション。2018年打ち上げ、2026年11月に水星到着予定
HPSTAR(高圧科学技術先端研究センター)(外部)
中国の研究機関で、ヤンハオ・リン博士が所属し水星ダイヤモンド層研究を主導
【参考動画】
【編集部後記】
水星の内部にダイヤモンド層が存在する可能性、いかがでしたか?宇宙の不思議は私たちの想像をはるかに超えています。皆さんは、もし水星のダイヤモンド層が確認されたら、どんな研究や応用が進むと思いますか?あるいは、地球以外の惑星の内部構造に興味はありますか?SNSでぜひ皆さんの考えをシェアしてください。2026年に水星軌道に到着予定のBepiColomboミッションの成果が楽しみですね。