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トリウム溶融塩炉、中国が世界初の連続運転に成功 – ウラン時代の終焉を告げる次世代原子力技術

トリウム溶融塩炉、中国が世界初の連続運転に成功 - ウラン時代の終焉を告げる次世代原子力技術 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-22 13:31 by admin

中国の科学者たちは、ゴビ砂漠に設置されたトリウム溶融塩炉の連続運転に成功し、さらに世界初となる運転中の燃料補給にも成功した。この成果は2025年4月8日に中国科学院で開催された非公開会議で、プロジェクトの主任科学者である徐洪杰(Xu Hongjie)氏によって発表された。

この実験炉は甘粛省武威市近郊のゴビ砂漠に位置し、2メガワットの熱出力を生成するように設計されている。2024年6月に全出力運転を達成し、その4ヶ月後の10月に運転中の燃料補給に成功した。

トリウム溶融塩炉は、燃料担体と冷却材の両方として溶融塩を使用し、燃料源としてトリウムを使用している。この技術は1960年代にアメリカのオークリッジ国立研究所で最初に研究されたが、その後棚上げされていた。中国は2011年に4億4400万ドル(約66億6000万円)を投資してトリウム発電プロジェクトを開始し、2018年に実験用トリウム炉の建設を開始した。

トリウムはウランよりも3〜4倍豊富に存在し、長寿命放射性廃棄物が少なく、核兵器への転用リスクも低い。中国の専門家によれば、内モンゴルの単一のトリウム鉱山だけで、中国のエネルギー需要を何万年も満たせる可能性があるという。

中国はすでに次のステップとして、2030年までに完成予定の10メガワットの実証炉の建設に着手しており、2030年代初頭までに100メガワット炉へのスケールアップを計画している。この実証炉は電気と水素の両方を生成する予定である。

この技術は大気圧で運転でき、過熱時には「凍結塩プラグ」が自動的に溶けて溶融放射性塩を二次冷却チャンバーに排出する安全機能を備えている。しかし、溶融塩の腐食性や、トリウムが親物質であるため初期にウラン235またはプルトニウム239を必要とするなどの技術的課題も残されている。

中国はこの成果により、トリウム溶融塩炉技術の商業化において世界をリードする立場にあると主張している。一方、インドもトリウム炉の開発に取り組んでおり、世界のトリウム埋蔵量の25%を保有している。インドは2050年までに電力の30%をトリウムベースの原子炉から生成することを目指している。

from:Is This the End of Uranium? In China, a Thorium Molten Salt Reactor Has Successfully Operated Non-Stop

【編集部解説】

中国のトリウム溶融塩炉プロジェクトは、原子力エネルギーの未来を変える可能性を秘めた重要な技術革新です。検索結果から確認できる情報によると、中国の実験炉TMSR-LF1は2023年10月に初臨界を達成し、2024年6月に全出力(2MWt)運転を実現しました。さらに同年10月には、トリウムを含む溶融塩で10日間の全出力運転に成功し、プロタクチニウム-233が検出されたことで核燃料の増殖に成功したことが確認されています。

この技術は1960年代にアメリカのオークリッジ国立研究所で開発された溶融塩炉実験(MSRE)に基づいていますが、当時は核兵器開発に適したウラン燃料が優先され、トリウム技術は棚上げされていました。中国科学院と上海応用物理研究所(SINAP)の科学者たちが、この機密解除された研究を再検討し、実用化に向けて前進させたのです。

トリウム溶融塩炉の最大の特徴は、従来のウラン燃料炉と比較して安全性が格段に高いことです。この炉は大気圧で運転するため、高圧による爆発リスクが大幅に低減されています。また、緊急時には「凍結塩プラグ」が自動的に溶け、溶融塩が二次冷却チャンバーに排出される受動的安全機能を備えています。これにより、福島第一原発事故のような冷却システム故障による炉心溶融のリスクが大幅に軽減されるのです。

トリウムはウランよりも地球上に3〜4倍豊富に存在し、長寿命放射性廃棄物の生成量が少なく、核兵器への転用リスクも低いという利点があります。中国はすでに次のステップとして、2025年から甘粛省武威市近郊に10メガワットの実証炉の建設を開始する予定で、2030年までの完成を目指しています。この施設は60MWの熱を生成し、10MWの電力と水素を供給する計画です。

この技術の実用化には、いくつかの課題も残されています。溶融塩の腐食性に対応するための特殊合金の開発や、トリウムが親物質であるため初期にウラン235またはプルトニウム239を必要とすることなどが挙げられます。また、廃棄物管理や規制枠組みの適応も重要な課題です。

トリウム溶融塩炉技術が実用化されれば、エネルギー供給の安定性向上、二酸化炭素排出量の削減、そして原子力発電の安全性向上に大きく貢献する可能性があります。特に中国は2060年までのカーボンニュートラル達成を目指しており、この技術はその重要な一翼を担うことになるでしょう。

また、この技術は電力生成だけでなく、高温を利用した水素製造や、船舶推進システムへの応用も検討されています。特に海運業界の脱炭素化に向けて、トリウム動力船の開発は大きな可能性を秘めています。

世界各国もトリウム技術に注目しており、インドは固体燃料トリウムシステムの開発に力を入れ、アメリカはTerraPowerなどの民間企業を通じて研究を進め、デンマークのSeaborg Technologiesは浮体式溶融塩炉を開発中です。しかし、実際に運用段階に達しているのは現時点で中国のみとなっています。

中国の成功は、長期的な科学的コミットメントと戦略的ビジョンの重要性を示すものであり、クリーンで安全、持続可能なエネルギーへの強力なシフトを象徴しています。この技術革新は、世界のエネルギー構造転換において重要な役割を果たす可能性を秘めているのです。

日本への影響と今後の展望
日本にとって、中国のトリウム溶融塩炉の成功は重要な意味を持ちます。福島第一原発事故以降、原子力発電の安全性に対する懸念が高まる中、本質的に安全性の高いトリウム溶融塩炉技術は、日本のエネルギー政策においても検討に値する選択肢となるでしょう。

日本は資源に乏しい国であり、エネルギー安全保障の観点からも多様なエネルギー源の確保が重要です。トリウムは比較的豊富に存在する資源であり、長期的なエネルギー供給の安定化に貢献する可能性があります。

また、日本の高い技術力と原子力分野での知見を活かせば、トリウム溶融塩炉技術の開発において国際的な協力関係を構築することも可能でしょう。特に材料科学や制御システムなど、日本が強みを持つ分野での貢献が期待されます。

今後、世界的なカーボンニュートラルへの動きが加速する中、トリウム溶融塩炉技術は従来の原子力発電の課題を克服する可能性を秘めた技術として、さらなる注目を集めることになるでしょう。

【用語解説】

トリウム溶融塩炉(MSR: Molten Salt Reactor)
ウランではなくトリウムを燃料とし、燃料を固体ではなく溶融塩という液体状態で使用する原子炉。従来の原子炉と比べて安全性が高く、核兵器への転用リスクが低いとされている。

溶融塩
高温で溶かした塩の液体状態。トリウム溶融塩炉では、フッ化リチウム(LiF)とフッ化ベリリウム(BeF2)の混合物(FLiBe)にトリウムとウランのフッ化物を溶かして燃料として使用する。

トリウム
自然界に存在する放射性元素で、ウランよりも3〜4倍豊富に存在する。そのまま核分裂はしないが、中性子を吸収するとウラン233に変換され、これが核分裂を起こす。

親物質と核分裂性物質
親物質(トリウム232など)は直接核分裂しないが、中性子を吸収して核分裂性物質(ウラン233など)に変換される物質。核分裂性物質は中性子を吸収すると核分裂を起こすことができる。

ハステロイ-N
ニッケル、モリブデン、クロム、鉄などを含む特殊合金。高温の溶融塩に対する耐食性があり、トリウム溶融塩炉の炉容器や配管材料として使用される。

凍結塩プラグ
溶融塩炉の安全機構の一つ。炉の底部に設置された人為的に冷却されている塩の栓で、冷却が停止すると溶けて溶融塩を安全な貯蔵タンクに排出する仕組み。

【参考リンク】

上海応用物理研究所(SINAP)(外部)中国科学院傘下の研究機関で、中国のトリウム溶融塩炉開発を主導している。

株式会社トリウムテックソリューション外部)
日本でトリウム溶融塩炉の実現を目指す企業。故古川和男博士が設計した「FUJI」炉の開発を継承している。

テレストリアル・エナジー(外部)
カナダの企業で、溶融塩炉技術の商業化を目指している。小型モジュール炉「IMSR」を開発中。

フリーベ・エナジー(外部)
アメリカの企業で、液体フッ化物トリウム炉(LFTR)の開発に取り組んでいる。

【参考動画】

【編集部後記】

トリウム溶融塩炉技術、皆さんはどう思われますか?従来の原子力発電のイメージを覆す可能性を秘めたこの技術は、エネルギー問題の新たな解決策となるかもしれません。日本のエネルギー政策においても選択肢の一つとなり得るでしょうか。安全性や資源の豊富さという利点と、技術的課題のバランスをどう評価するか、ぜひ皆さんのご意見をSNSでお聞かせください。エネルギーの未来を共に考えていきましょう。

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TaTsu
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