Last Updated on 2025-05-27 14:09 by admin
ETHチューリッヒとNASAの研究により、地球の自転が気候変動の影響で変化していることが確認された。2000年以降、1日の長さが100年あたり1.33ミリ秒ずつ延長しており、これは前世紀のどの時期よりも速いペースである。
主要因はグリーンランドと南極の氷床融解で、溶けた水が赤道付近に移動することで地球の慣性モーメントが増加し、フィギュアスケーターが腕を広げると回転が遅くなるのと同じ原理で自転が減速している。
2022年6月に地球は史上最速の自転を記録したが、2023年から再び減速に転じ、2025年3月には2019年以降最大となる1.63ミリ秒の日長延長が予測されている。
研究では物理学に基づくニューラルネットワークを使用して1900年からの地球の回転軸移動を追跡し、高排出シナリオ(RCP8.5)では2100年までに回転軸が27メートル移動する可能性があることが判明した。この変化により、GPS衛星システムや金融取引、通信ネットワークなどの精密技術への影響が懸念されている。
References:
Forget the Whole 24-Hour Days: Scientists Confirm the Unthinkable!
【編集部解説】
最新の研究結果により、地球の自転変化は従来考えられていたよりもはるかに複雑で、気候変動が予想以上に大きな影響を与えていることが明らかになりました。
今回、ETHチューリッヒの研究チームが物理学に基づくニューラルネットワークという最先端のAI技術を使用して解析した結果、1900年以降の地球回転軸の動きを高精度で追跡することに成功しています。この技術により、地球表面、マントル、コアの複雑な相互作用を正確にモデル化できるようになりました。
最も注目すべきは、気候変動による影響が数十億年間地球の自転を支配してきた月の潮汐力を上回る可能性があることです。グリーンランドと南極の氷床融解により、極地から赤道付近への大規模な質量移動が発生しており、これが地球の慣性モーメントを増加させています。
地球の自転は一方向的な変化ではありません。2022年6月には史上最速の自転を記録し、史上最短の日を経験しましたが、2023年から再び減速に転じています。この急激な変化は、地球内部のコアの動きと表面の気候変動の複合的な影響によるものです。
技術社会への深刻な影響
わずか数ミリ秒の変化でも、現代の高精度技術システムには重大な影響を与えます。GPS衛星システムは協定世界時(UTC)に依存しており、金融取引や通信ネットワークも同様です。これまで「うるう秒」の追加のみが行われてきましたが、地球の自転加速により史上初の「負のうるう秒」(1秒の削除)が2028年から2029年頃に必要になる可能性があります。
高排出シナリオ(RCP8.5)では、2100年までに地球の回転軸が1900年の位置から27メートル移動する可能性があり、低排出シナリオ(RCP2.6)でも12メートルの移動が予測されています。この軸移動により、地球表面に最大2.8センチメートルの垂直変形が生じ、重力場にも変化が生じる可能性があります。
この現象は、人類の活動が地球システム全体に与える影響の大きさを示す象徴的な事例です。わずか100年程度の工業活動により、数十億年続いてきた天体力学的プロセスに匹敵する変化を引き起こしている事実は、地球規模での責任の重さを物語っています。
【用語解説】
極運動(Polar Motion):
地球の回転軸が地表に対して移動する現象で、通常は100年間で約10メートル移動する。気候変動により、この移動速度が加速している。
慣性モーメント:
回転する物体の質量分布を表す物理量。地球の質量が極地から赤道付近に移動すると慣性モーメントが増加し、角運動量保存の法則により自転速度が減少する。
RCP(Representative Concentration Pathway):
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が使用する温室効果ガス濃度シナリオ。RCP2.6は低排出、RCP8.5は高排出シナリオを表す。
物理学に基づくニューラルネットワーク:
物理法則を組み込んだ機械学習アルゴリズム。従来のAIと異なり、物理的制約を考慮することで、より正確で信頼性の高い予測が可能になる。
【参考リンク】
ETHチューリッヒ(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)(外部)
アインシュタインの母校として知られる世界トップクラスの工科大学。宇宙測地学分野で地球回転研究の最前線を担う。
NASA ジェット推進研究所(JPL)(外部)
カリフォルニア工科大学が運営するNASAの研究機関。地球観測衛星データを活用した地球システム研究を実施。
国際地球回転・基準系事業(IERS)(外部)
地球の回転と基準座標系を監視する国際機関。うるう秒の決定と地球回転パラメータの提供を担当。
【参考動画】
【編集部後記】
私たちの日常生活で当たり前の24時間という概念が、実は気候変動によって変化しているという事実をどう受け止められますか。スマートフォンのGPSから金融取引まで、現代社会のあらゆるシステムが精密な時間に依存している中で、この微細な変化が将来どのような影響をもたらすのか、一緒に考えてみませんか。また、人類の活動が地球の回転という根本的な物理現象にまで影響を与えているという事実について、皆さんはどのような感想をお持ちでしょうか。