Last Updated on 2025-06-10 19:32 by admin
中国国家航天局(CNSA)は2025年5月29日、四川省西昌衛星発射センターから長征3Bロケットで天問2号を打ち上げた。天問2号は宇宙から初の画像を地球に送信し、現在地球から300万キロメートル以上離れた位置を飛行している。
同機は地球の準衛星である小惑星469219カモオアレワ(2016 HO3)に向かっており、2026年7月までに到着すると予想されており、到着後は小惑星の詳細な調査を開始する予定である。
カモオアレワは直径40〜100メートルの小惑星で、月から飛散した破片の可能性が指摘されており、調査には、表面の特徴の測定、組成の分析、そして月との関連性の可能性の調査などが含まれている。
天問2号は数ヶ月間カモオアレワを周回して表面を調査しサンプルを採取、サンプルは2027年末に地球に帰還する予定である。その後、天問2号は地球の重力を利用したスイングバイで軌道を変更し、火星と木星の間にある主帯彗星311P/PANSTARRSに向かい、2035年頃に到着予定である。これは中国初の小惑星サンプルリターンミッションである。
彗星は太陽系で最も原始的な天体の一つと考えられているため、彗星を間近で観測することで、初期の太陽系や地球上の水と有機分子の起源に関する貴重な知見をもたらすと考えられる。
From: China’s Tianwen 2 Captures First Image in Space—On Its Journey to Earth’s Mysterious ‘Quasi-Moon’
【編集部解説】
天問2号の技術的意義について詳しく見てみましょう。この探査機は太陽電気推進システムを採用しており、従来の化学推進に比べて燃料効率が格段に向上しています。これにより10年間という長期ミッションが可能になり、複数の天体を連続して探査する「マルチターゲット」戦略を実現できます。
カモオアレワという小惑星の選択には深い科学的意図があります。この天体は地球との共軌道関係にあり、月の破片である可能性が高いとされています。もしこの仮説が正しければ、月面に着陸することなく月の物質を分析できる画期的な機会となるでしょう。
サンプル採取技術にも注目すべき点があります。天問2号は「アンカー・アンド・アタッチ」方式を世界で初めて小惑星に適用します。これまでのOSIRIS-RExやはやぶさ2が採用した「タッチ・アンド・ゴー」方式とは異なり、より確実なサンプル採取が期待されます。
この成功は中国の宇宙開発戦略に大きな影響を与えるでしょう。アメリカ、日本に続く第3の小惑星サンプルリターン国となることで、深宇宙探査における技術的優位性を示すことができます。特に2035年の彗星探査まで含めた長期計画は、中国の宇宙技術の成熟度を物語っています。
一方で、宇宙資源開発への応用可能性も見逃せません。小惑星には貴重な鉱物資源が豊富に含まれており、将来的な宇宙マイニング技術の基盤となる可能性があります。ただし、現段階では純粋に科学的探査が目的であり、商業利用には技術的・経済的課題が山積しています。
国際的な宇宙探査競争の文脈では、この成功により中国の存在感がさらに高まることは確実です。月の裏側サンプル採取に続く快挙として、宇宙開発における多極化が一層進展するでしょう。
【用語解説】
準衛星(quasi-satellite)
地球の周りを回っているように見えるが、実際には太陽の周りを地球と似た軌道で公転している小天体。真の衛星ではないが、地球との相対的な位置関係が長期間維持される特殊な軌道を持つ。
太陽電気推進(Solar Electric Propulsion)
太陽光パネルで発電した電力を使ってイオンを加速し推力を得る推進システム。化学推進に比べて燃料効率が高く、長期間のミッションに適している。
アンカー・アンド・アタッチ方式
小惑星表面にアンカーで固定してからサンプルを採取する手法。従来のタッチ・アンド・ゴー方式(接触後すぐに離脱)とは異なり、より確実なサンプル採取が可能とされる。
スイングバイ(重力アシスト)
惑星の重力を利用して宇宙船の軌道や速度を変更する航法技術。燃料を節約しながら目標天体への軌道変更を行える。
主帯彗星(Main-belt comet)
火星と木星の間の小惑星帯に位置しながら、彗星のような尾を持つ天体。小惑星と彗星の中間的な性質を示す。
【参考リンク】
中国国家航天局(CNSA)公式サイト(外部)
中国の宇宙開発を統括する政府機関。天問シリーズをはじめとする中国の宇宙探査ミッションの最新情報と公式発表を提供している。
【参考動画】
【参考記事】
中国「天問2号」の打ち上げ成功、2つの小天体を探査 – アストロアーツ(外部)
天問2号ミッションの包括的な概要。打ち上げ成功の詳細と10年間にわたるミッション計画について専門的な解説を提供している。
小惑星探査機「天問2号」打ち上げ 近地球小惑星のサンプル採取へ – sorae(外部)
打ち上げ当日の詳細な報告と技術的特徴の解説。カモオアレワと311P/PANSTARRSの科学的意義について詳述している。
中国「天問2号」打ち上げ、特異な二つの天体の初探査目指す – CNN(外部)
国際的な視点からの天問2号ミッション報道。アメリカの専門家による評価と国際的な宇宙探査競争の文脈での位置づけを提供。
【編集部後記】
中国の天問2号が撮影した初の宇宙画像は、私たちに新たな疑問を投げかけています。もしカモオアレワが本当に月の破片だとしたら、数十億年前の巨大衝突の痕跡を直接手に取ることができるかもしれません。みなさんは、月を見上げるたびに「あの表面の一部が、今も地球の近くを漂っているかもしれない」と想像したことはありますか?2027年に地球に届くサンプルが、私たちの太陽系に対する理解をどう変えるのか、一緒に見守っていきませんか?
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