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虫の目をもつFlyeye望遠鏡 – 地球防衛の新時代|ESA小惑星自動検出システムが本格稼働

虫の目をもつFlyeye望遠鏡 - 地球防衛の新時代|ESA小惑星自動検出システムが本格稼働 - innovaTopia - (イノベトピア)

欧州宇宙機関(ESA)は地球近傍小惑星の自動検出を行うFlyeye望遠鏡の「ファーストライト」を発表した。この望遠鏡は昆虫の複眼構造にインスパイアされ、1メートルの主鏡で集めた光を16の光学チャンネルに分割し、満月の200倍以上の範囲を1回の露光で撮影する。

2025年5月の試験運用(ファーストライト)で小惑星(139289) 2001 KR1、小惑星2025 KQ、彗星 C/2023 A3を観測。このうち小惑星2025 KQは発見から2日後に撮影するなど、複数の天体観測に成功した。

現在はイタリア宇宙機関(ASI)のマテーラ宇宙測地センターに設置されているが、間もなくシチリア島のモンテ・ムファラに移設される。検出した地球近傍天体データをESAの地球近傍天体調整センター(NEOCC)で検証後、小惑星センターに提出する計画である。

ESAは将来的に北半球と南半球に広がる最大4台のフライアイ望遠鏡のネットワークが連携して、自動天体調査の速度と完全性をさらに向上させるとしています。

From: 文献リンクESA’s Bug-Eyed Robot Telescope Just Spotted Its First Asteroid — And It Could Save the Planet

【編集部解説】

このFlyeye望遠鏡が画期的なのは、従来の望遠鏡が「針の穴から覗く」ような狭い視野で天体を観測していたのに対し、昆虫の複眼構造を模倣することで一度に45平方度(満月の200倍)という広範囲を監視できる点です。これまで地球近傍小惑星の発見は偶然性に依存する部分が大きく、発見から衝突まで数日しかないケースも想定されていました。

技術的な革新性は、1メートルの主鏡で集めた光をプリズムで16のチャンネルに分割し、それぞれに4K×4K CCDカメラを配置した光学システムにあります。この設計により、従来なら数週間かかる天域を一晩でカバーできるようになり、地球防衛における「時間」という最も重要な要素を大幅に改善します。

現在の地球近傍天体監視ネットワークには、NASA資金のATLAS望遠鏡、Zwicky Transient Facility、建設中のVera Rubin望遠鏡などが存在しますが、これらは主に北半球に集中しています。ESAが計画する4台のFlyeyeネットワークは南半球もカバーし、天候に左右されない冗長性を提供する点で戦略的価値があります。

このシステムの社会的インパクトは計り知れません。Flyeyeの稼働により地球近傍天体の発見数が急激に増加することが予想されます。2013年のチェリャビンスク隕石のような事例では、事前警告があれば被害を大幅に軽減できたでしょう。

長期的視点では、このプロジェクトは宇宙資源開発の基盤技術としても機能します。小惑星の詳細な軌道情報は、将来の資源採掘ミッションにおける重要なデータベースとなり、宇宙経済の発展に寄与することが期待されています。

【用語解説】

地球近傍天体(NEO:Near-Earth Object)
地球の軌道に接近する軌道を持つ小惑星や彗星の総称。

ファーストライト
新しい望遠鏡が初めて天体からの光を捉えて撮影に成功することを指す天文学用語。

惑星防衛
地球に衝突する可能性のある小惑星や彗星を早期発見し、必要に応じて軌道変更や破壊などの対策を講じる取り組み。ESAやNASAが主導している。

【参考リンク】

欧州宇宙機関(ESA)(外部)
欧州23カ国が参加する宇宙機関。宇宙科学、地球観測、惑星防衛などの分野で活動

OHB Italia(外部)
ドイツOHB SEグループの子会社で、Flyeye望遠鏡の開発・製造を担当

ESA地球近傍天体調整センター(NEOCC)(外部)
地球近傍天体の監視と評価を行う機関。Flyeye観測データを検証し提出

小惑星センター(Minor Planet Center)(外部)
国際天文学連合下で運営される世界の小惑星観測データを収集・配布する機関

【参考動画】

【参考記事】

ESA’s new asteroid hunter opens its eye to the sky(外部)
ESA公式発表。Flyeye望遠鏡のファーストライト達成と技術仕様を詳述

ESA’s new asteroid hunter opens its eye to the sky – Phys.org(外部)
科学メディアによる報道。望遠鏡の光学設計詳細とOHB技術責任者コメント

Flyeye Telescope Opens Eye to Hunt Dangerous Asteroids(外部)
Science Blogによる詳細記事。初期観測結果とグローバルネットワーク構想

About NEOCC – NEO – European Space Agency(外部)
ESA地球近傍天体調整センター公式説明。組織の役割とAegisソフトウェアシステム

Flyeye: ESA’s bug-eyed asteroid hunters(外部)
ESA公式技術解説。昆虫複眼からの設計思想とモンテ・ムファラ設置計画

【編集部後記】

地球を守る「虫の目」の誕生を、皆さんはどう受け止められましたか? 2013年のチェリャビンスク隕石落下から12年、ついに人類は本格的な早期警報システムを手に入れました。私たちは、増え続ける宇宙からの「訪問者」情報とどう向き合うべきでしょうか?また、将来的にはこれらの小惑星が貴重な資源として注目される可能性もあります。皆さんは、この「脅威の監視システム」が「宝の山の地図」に変わる未来をどう想像されますか?

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TaTsu
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