Last Updated on 2025-03-21 10:57 by admin
ソフトバンクグループがArmベースのサーバー向けチップ設計会社Ampere Computingを65億ドル(約9,750億円)で買収することを2025年3月20日に発表した。この買収により、Ampereの主要投資家であるオラクルとカーライル・グループは保有株式を売却する。
Ampere Computingは、Armアーキテクチャをベースにしたサーバーグレードのプロセッサを専門に設計している企業で、2023年に96〜192コアを搭載した「Ultra」モデルを発表。2024年にはAIワークロード向けに512コアを搭載する「AmpereOne Aurora」を発表している。
Google、Microsoft、Oracle、Alibaba、Tencentなどの大手テクノロジー企業が既にAmpereのチップを自社のワークロードやクラウドサービス提供に採用している。
ソフトバンクグループCEOの孫正義氏は、「人工超知能の未来には画期的な計算能力が必要」と述べ、Ampereの半導体と高性能コンピューティングにおける専門知識が、AIイノベーションのビジョン加速に貢献すると期待を示した。
買収後はAmpereがソフトバンクグループのエコシステム内の企業や投資先と協業することが期待されている。ソフトバンクグループは韓国/日本のウェブ大手LY Corp、日本の通信事業、さらにはビジョンファンドを通じてByteDance(TikTok運営会社)や多数のEコマース企業に投資しており、これらの企業がAmpereのプロセッサを採用すれば、多くのワークロードがIntelやAMDなどのx86アーキテクチャからArmアーキテクチャへシフトする可能性がある。
なお、ソフトバンクグループは2016年に約3.3兆円でArmを買収し、2023年9月に同社をナスダックに再上場させている。Armも独自にサーバープロセッサ事業を展開しており、Metaが顧客として参加したと報じられているが、今後ソフトバンクグループがArmとAmpereの2つのサーバープロセッサビジネスをどのように運営するかは明らかにされていない。
from:SoftBank buys server-grade Arm silicon designer Ampere Computing
【編集部解説】
ソフトバンクグループによるAmpere Computingの買収は、AIとコンピューティング分野における大きな転換点となる可能性があります。この65億ドル(約9,750億円)規模の買収は、ソフトバンクグループのAIへの強いコミットメントを示すものです。
Ampereは、Armアーキテクチャをベースにしたサーバー向けチップの設計に特化した企業です。この買収により、ソフトバンクグループはAIインフラストラクチャ市場での競争力を大幅に強化することができるでしょう。
特筆すべきは、AmpereのチップがGoogle Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloudなど、主要クラウドプロバイダーに採用されていることです。これは、Ampereの技術力の高さを示すとともに、ソフトバンクグループがクラウドコンピューティング市場に強力な足がかりを得たことを意味します。
この買収の背景には、AIワークロードの急増があります。Ampereの512コアを搭載する「AmpereOne Aurora」チップは、まさにこのニーズに応えるものです。ソフトバンクグループは、この高性能チップを活用してAI分野でのイノベーションを加速させようとしています。
しかし、この買収にはポテンシャルなリスクも存在します。ソフトバンクグループは既にArmの最大株主であり、今回のAmpere買収により、半導体業界での影響力がさらに強まります。これは、市場の競争環境に影響を与える可能性があり、規制当局の注目を集める可能性があります。
長期的な視点では、この買収はAIインフラストラクチャの発展を加速させる可能性があります。ソフトバンクグループの豊富な資金力とAmpereの技術力が組み合わさることで、より高性能で効率的なAIチップの開発が進むかもしれません。
また、この買収はx86アーキテクチャに依存してきたサーバー市場に大きな変化をもたらす可能性があります。Armベースのチップが主流になれば、データセンターの省エネ化や運用コストの削減にもつながるでしょう。
一方で、技術の集中化による懸念も無視できません。イノベーションの多様性が失われる可能性や、特定の企業への依存度が高まるリスクについても、業界全体で議論していく必要があるでしょう。
最後に、この買収はソフトバンクグループのAI戦略の一環であることを忘れてはいけません。同社はAI分野で積極的な投資を続けています。Ampereの買収は、これらの取り組みをさらに強化するものと言えるでしょう。
今後、ソフトバンクグループがAmpereの技術をどのように活用し、AI市場でどのような展開を見せるのか、注目していく必要があります。
【用語解説】
Armアーキテクチャ:
スマートフォンやタブレットなどの省電力デバイスで主に使われるCPUの設計方式。x86(Intel、AMD)と比較して省電力性に優れており、近年はサーバー市場にも進出している。
ハイパースケーラー:
Google、Microsoft、Amazonなど、巨大なデータセンターを運営し、急速に拡張可能なクラウドサービスを提供する企業のこと。
x86アーキテクチャ:
IntelやAMDが開発したCPUアーキテクチャで、従来からPC市場やサーバー市場で主流となっている。
メニーコアCPU:
多数のCPUコアを搭載したプロセッサ。Ampereの場合、最大192コアを搭載している。
テープアウト:
半導体設計が完了し、製造のために設計データを半導体製造工場に送ること。
Ampere Computing:
2018年に元Intel社長のRenée James氏によって設立された半導体設計企業。Armアーキテクチャをベースにしたサーバー向けプロセッサを開発している。
ソフトバンクグループ:
孫正義氏が率いる日本の投資持株会社。通信事業のほか、AIや半導体分野に積極的に投資している。
Arm Holdings:
ソフトバンクグループが筆頭株主の半導体IP企業。スマートフォンの99%で使用されているプロセッサアーキテクチャを設計している。
【参考リンク】
ソフトバンクグループ(外部)
ソフトバンクグループの公式サイト。企業情報や投資先、プレスリリースなどを掲載している。
Ampere Computing(外部)
Ampere Computingの公式サイト。同社の製品やテクノロジーに関する情報を提供している。
Arm(外部)
Armの公式サイト。Armアーキテクチャやプロセッサ製品に関する情報を提供している。
【編集部後記】
読者のみなさん、Armベースのサーバープロセッサが今後のAI時代をどう変えていくのか、興味はありませんか?ソフトバンクグループによるAmpere買収は、日本企業が世界のAIインフラに影響力を持つ大きな一歩かもしれません。みなさんの周りでも、クラウドサービスやAIアプリケーションを利用する機会は増えていると思います。これらのサービスを支えるプロセッサ技術の進化が、私たちの生活やビジネスにどのような変化をもたらすのか、一緒に注目していきましょう。
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