Last Updated on 2025-06-29 07:07 by admin
米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は2025年6月25日、上院銀行委員会での半年に一度の金融政策報告において、AIが米国経済と労働市場に重大な変化をもたらすと発言した。
パウエル議長は現時点でのAIの経済への影響は「おそらくそれほど大きくない」としながらも、「経済と労働力に本当に重大な変化をもたらす巨大な能力」を持つと述べた。
英国の通信大手BTは2023年に2030年までに労働力の42%にあたる約55,000人を削減する計画を発表し、AIがさらに大幅な削減を可能にすると発表した。Anthropic CEOのダリオ・アモデイ氏は、AIが今後5年間でエントリーレベルのホワイトカラー職の半分を排除し、労働力全体の20%を排除する可能性があると警告した。
Salesforce CEOのマーク・ベニオフ氏は2025年6月26日のBloombergインタビューで、AIが現在同社の業務の30~50%を担当していると明かし、エンジニアリング、コーディング、サポート機能で30~50%の生産性向上を実現していると述べた。パウエル議長はFRBには金利政策以外にAI関連の社会問題や労働市場問題に対処するツールがないと認めた。
From: Fed chair Powell says AI is coming for your job
【編集部解説】
パウエルFRB議長の発言は、これまで慎重な姿勢を保ってきた金融政策当局が、ついにAIの労働市場への影響を公式に認めた重要な転換点と言えます。特に注目すべきは、議長が「技術の実装には時間がかかる」としながらも、AIの「巨大な能力」を明確に認めた点です。
実際の企業動向を見ると、変化は既に始まっています。BTの事例は特に象徴的で、同社は2023年に55,000人削減計画を発表しましたが、CEO アリソン・カークビー氏は「AIの進歩により、さらに大幅な削減が可能になるかもしれない」と述べています。
Anthropic CEOダリオ・アモデイ氏の「5年以内にホワイトカラー職の半分が消失する」という予測も、もはや極端な見方ではありません。同社の対話型AI「Claude」は既に多くの企業で導入が進んでおり、特に文書作成、データ分析、顧客対応などの分野で人間の業務を代替し始めています。
Salesforceの30-50%という数字は、AI導入の現実的な影響を示す重要な指標です。同社はCRM(顧客関係管理)分野の世界最大手であり、その業務効率化の実例は他の企業にとって重要な参考事例となるでしょう。
しかし、この変化は必ずしも悲観的な側面ばかりではありません。AIによる生産性向上は新たな価値創造を可能にし、人間はより創造的で戦略的な業務に集中できるようになる可能性があります。問題は、その移行期間をいかに円滑に管理するかという点にあります。
パウエル議長が「FRBには金利以外のツールがない」と率直に認めたことは、この問題が金融政策の範疇を超えていることを示しています。労働力の再教育、社会保障制度の見直し、新たな雇用創出策など、包括的な政策対応が急務となっているのです。
【用語解説】
FRB(連邦準備制度理事会)
米国の中央銀行制度の最高意思決定機関。日本の日本銀行に相当し、金融政策の策定や銀行監督を行う。議長を含む7名の理事で構成される。
FOMC(連邦公開市場委員会)
FRBの金融政策決定機関。FRB理事7名と地区連邦準備銀行総裁5名で構成され、政策金利であるフェデラルファンド金利の目標を設定する。
CRM(顧客関係管理)
Customer Relationship Managementの略。企業が顧客との関係を管理・分析し、営業活動やマーケティング活動を効率化するためのシステムや手法。
Claude
Anthropic社が開発した対話型AIチャットボット。ChatGPTと同様に、入力された質問に対して適切な回答を生成する大規模言語モデル。
【参考リンク】
Anthropic公式サイト(外部)
AI安全性と研究に特化した企業で、対話型AI「Claude」を開発している
Salesforce公式サイト(日本語)(外部)
世界最大手のCRMプロバイダー。クラウドベースの顧客管理サービスを提供
BTグループ公式サイト(外部)
英国最大手の通信事業者。170カ国以上で通信サービスを展開している
連邦準備制度理事会(FRB)公式サイト(外部)
米国の中央銀行制度の最高意思決定機関。金融政策の策定を担当している
【参考記事】
情報BOX:パウエル米FRB議長の議会証言要旨(外部)
パウエル議長が2025年6月25日に上院銀行委員会で行った証言の要旨
FRBのパウエル議長の議会証言(下院金融サービス委員会)(外部)
野村総合研究所による議会証言の詳細分析。AI等による生産性上昇について解説
【編集部後記】
パウエル議長の発言は、私たちが想像していたよりも早くAIによる労働市場の変化が現実になりつつあることを示しています。Salesforceの30-50%という数字や、BTの大規模削減計画を見ると、もはや「いつか来る未来」ではなく「今起きている現実」として捉える必要がありそうです。
皆さんは現在のお仕事で、どの程度AIが活用されているでしょうか。また、5年後の自分の働き方をどのように描いていますか。この変化の波をチャンスと捉えるか、脅威と感じるかは、私たち一人ひとりの準備と視点次第かもしれません。ぜひSNSで、皆さんの率直な想いをお聞かせください。