8月、トークン化預金の実証に参加した43社の名簿に、3メガバンクの名前はありませんでした。9月25日、トークン化預金を中核に掲げる新しい機構の理事席に、その3メガの執行役員が就きました。3行はステーブルコインの共同発行も進めています。2つの線は、どこで交わるのでしょうか。
一般社団法人デジタル通貨イノベーション機構(DCIO)は2026年9月25日、東京都内で記者会見を開き、10月1日から本格的な活動を始めると発表した。2020年発足のデジタル通貨フォーラムを改組し、7月1日に設立した団体で、トークン化預金を中核とする決済インフラの標準化や政策提言に取り組む。
理事にはみずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJ銀行の執行役員が就き、特別顧問には3メガバンクグループの会長・社長が名を連ねた。エグゼクティブアドバイザーは前日本銀行総裁の黒田東彦氏、特別顧問には前日銀副総裁の雨宮正佳氏と前金融庁長官の井藤英樹氏も加わった。
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デジタル通貨イノベーション機構、10月に活動スタート
【編集部解説】
名簿を読むところから始めます。
8月、トークン化預金の銀行間決済を検証する金融庁支援の実証に、43社が参加したと発表されました。地方銀行、ネット銀行、商工中金が並ぶ名簿に、3メガバンクの名前はありませんでした。
それから1か月後の9月25日。デジタル通貨イノベーション機構(DCIO)の理事に、みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJ銀行の執行役員が就きました。特別顧問には、3つのグループの会長・社長が並んでいます。ゆうちょ銀行とSBI新生銀行も、8月の名簿にはなく、今回の理事席にはいます。
では、3メガはこれまでトークン化預金の議論から離れていたのでしょうか。そうではありません。3行は、DCIOの前身であるデジタル通貨フォーラムにも参加していました。8月の実証名簿にいないことは、議論から離れていたことを意味しません。そして3メガは、並行してもう一本の線も引いていました。
2025年11月7日、金融庁は決済高度化プロジェクト(PIP)の最初の支援案件を決めました。申込者はみずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行に、三菱商事、三菱UFJ信託銀行、Progmatを加えた6者。複数の銀行グループがステーブルコインを共同で発行する場合の規制対応や実務対応を検証する実証です。
3行は2026年6月10日、この共同発行ステーブルコインについて、2026年度中の実取引開始をめざすと発表しました。運営やガバナンスを検討する協議会の設置でも、基本合意しています。
3メガは、ステーブルコインの線と、トークン化預金の線の両方に席を持つことになりました。
2つの線は、似ているようで法的な性格が異なります。3メガのステーブルコインは、3行が共同委託者となり、信託銀行等を受託者とする信託の仕組みで発行を検討している、特定信託受益権型の電子決済手段です。一方、トークン化預金は銀行預金をトークンとして表現し、移転する仕組みで、利用者に対する預金としての法的性格を保ちます。
DCIOの山岡浩巳副代表理事は会見で、トークン化預金に注力してきた理由として、企業間の決済に注目してきたこと、銀行の信用仲介機能を維持したいこと、本人確認やマネーロンダリング対策のノウハウを生かせることを挙げています。
発表済みの案件では、用途と検証する仕組みにも違いがあります。3メガのステーブルコインの実証は、三菱商事の日本拠点と海外拠点のあいだのクロスボーダー決済で使えるかを確かめるものでした。DCIOが掲げるのは、物流・商流・行政・金流をつなぐ協調領域の形成です。ただ、8月の実証には、銀行間の決済にステーブルコインを使う方式も含まれています。2つの線は別々に引かれながら、交わり得るものでもあります。
そして、線はもう一本あります。
金融庁は9月15日の金融行政方針で、「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」による社会実装の検討を掲げ、DCIOの会見と同じ9月25日に、その立ち上げを公表しました。初会合は9月30日の予定です。技術・制度・監督などの論点は、2つの研究会でもあわせて検討するとしています。
PIPによる実証の支援、金融庁が設けた官民横断の検討の場、DCIOが進める民間の合意形成と標準化。役割が重なり合うこれらの動きを、実証・政策・標準化の3つの側面から追っていくと、日本のデジタルなお金が組み立てられていく過程が見えてきます。
DCIOの顔ぶれは、その3つの側面のあいだをつなぐ役割を意識したものに見えます。エグゼクティブアドバイザーに前日銀総裁の黒田東彦氏、特別顧問に前日銀副総裁の雨宮正佳氏と前金融庁長官の井藤英樹氏。勝栄二郎代表理事は設立の背景として、産業界と行政の認識をすり合わせる統合的な窓口が必要なこと、欧州で民間銀行・中央銀行・産業界が連携するコンソーシアム型の標準化が進んでいることを挙げています。
8月の43社の記事では、全銀システムが50年以上にわたり、金融機関の違いを越えて送金できる共通の基盤を支えてきたことに触れました。トークン化預金の時代に、その共通基盤を誰がどう持つのか。DCIOが活動の柱にプラットフォーム相互の連携・相互運用と、グローバル標準化での日本代表としての役割を掲げているのは、この問いへの一つの答え方です。
もっとも、機構の輪郭が見えるのはこれからです。会員は9月25日時点で40社以上が入会を決定または検討している段階で、名前は10月以降に公表されます。理事についても、今後、地方銀行や金融インフラを担うIT系企業から迎えるとしています。8月の実証に集まった地方銀行が、この機構にどのように加わっていくのかは、見ておきたい点の一つです。
8月の名簿、9月の名簿、そして10月以降に公表される会員名簿。3つの名簿を重ねたとき、日本のデジタルなお金の地図が、ようやく一枚の絵として見えてくるはずです。
【参考記事】
「デジタル通貨フォーラム」が一般社団法人に改組、『トークン化預金』の社会実装を本格化へ(外部)
会見で示された3つの部会の構成と、トークン化預金に注力する理由や銀行間決済の方式に関する山岡副代表理事の発言を伝える記事。
トークン化預金の標準化へ──デジタル通貨イノベーション機構が始動、黒田前日銀総裁も参画(外部)
勝代表理事が挙げた設立の背景となる3つの課題意識と、欧州で進むコンソーシアム型の標準化への言及を、あわせて伝える記事である。
金融庁「FinTech実証実験ハブ」支援案件「トークン化預金の銀行間決済」の検証に43社が参加(外部)
8月の実証に参加した43社を区分付きで公表したリリース。3メガの名前がない名簿と、検証する方式の構成をあわせて確認できる。
【関連記事】
トークン化預金の銀行間決済に43社 全銀システムの隣にもう一本
本記事の起点となった8月の実証を扱った記事。43社の顔ぶれと、全銀システムの隣に引かれようとしているもう一本の線を読み解いている。
【解説】Swiftの台帳で動くのはお金ではなく約束|24時間送金が国内へ
国内のトークン化預金の実証と対比しながら、Swiftの台帳で動く約束の正体を解説した記事。銀行間の送金を別の角度から読める。
【解説】ステーブルコインは通貨を増やすのか|JPYCとPayPay残高の位置
ステーブルコインと預金の枠組みの中にあるトークンの違いを、JPYCとPayPay残高の位置から整理した記事。2つの線の比較に役立つ。
【編集部後記】
金融庁が9月25日に公表したフォーラムのページの末尾には、所管する部署の名前が記されています。資産運用・保険監督局の暗号資産・ステーブルコイン課、デジタル決済企画室です。
トークン化預金も含めたオンチェーン金融を横断的に検討する場の窓口が、ステーブルコインの名を冠した課に置かれている。預金の線とステーブルコインの線が、行政の組織図の上でこれからどう描かれていくのか。部署の名前も、小さくない手がかりになりそうです。
【用語解説】
トークン化預金
銀行預金をブロックチェーン上でトークンとして表現し、移転する仕組み。利用者に対する預金としての法的性格を保つ。
ステーブルコイン
価値の安定を目的とするデジタル資産。日本では資金決済法上の電子決済手段にあたり、預金ではない。
電子決済手段
資金決済法で定められた、ステーブルコインなどを位置づける法的な区分。発行者が償還義務を負う類型や、信託を用いる類型がある。
特定信託受益権
電子決済手段の類型の一つで、信託の仕組みを用いて発行されるもの。3メガが検討するステーブルコインはこの型にあたる。
決済高度化プロジェクト(PIP)
金融庁のFinTech実証実験ハブの中に、2025年11月に設けられた決済分野の支援枠。ブロックチェーンを使った決済の実証を支援する。
オンチェーン金融
ブロックチェーン上で資金決済や資産の移転を行い、商流・物流のデータと連動させる金融の仕組み。骨太の方針2026で推進が明記された。
全銀システム
全国銀行資金決済ネットワークが運営する、国内の銀行間の振込を処理する共同システム。1973年に稼働した。
相互運用
異なるシステムやプラットフォームのあいだで、データや価値を受け渡せる状態。
【参考リンク】
一般社団法人デジタル通貨イノベーション機構(DCIO)(外部)
トークン化預金を中核とする決済インフラの整備と標準化を掲げる一般社団法人の公式サイト。2026年10月1日に本格的な活動を始める。
金融庁「FinTech実証実験ハブ・決済高度化プロジェクト(PIP)」支援決定案件について(外部)
3メガなど6者によるステーブルコイン共同発行の実証を、PIPの最初の支援案件として決定した2025年11月の公表ページ。
金融庁「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」について(外部)
金融庁が2026年9月25日に立ち上げを公表したフォーラムのページ。趣旨と、オンチェーン金融イニシアティブの別紙資料を掲載している。


















