TikTok米国事業を誰が買うのか?イーロン・マスクだけではない「買収に興味」のある米国企業と1月19日以降の見通し

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年1月19日の期限が迫る中、中国当局がTikTok(ティックトック)の米国事業売却先として、実業家イーロン・マスク氏を有力候補の一つとして検討していると報じられています。しかし、TikTokの買収に名乗りを上げているのはマスク氏だけではありません。Microsoft、Walmart、Oracleなど、多数の米国企業や投資家グループが関心を示してきました。万が一、1月19日までに売却が完了しなければ、アプリストアからの削除やアップデート停止といった施策が実行され、実質的にTikTokが米国内で利用できなくなる見込みです。

「中国当局がTikTokの売却先としてイーロン・マスク氏を検討している」とBloombergが報じたのち、TikTokの広報担当者は「完全なフィクションについてはコメントできない」とBBCニュースに語っているようです。ただ、可能性は否定できないと思われます。 TikTok says report of possible sale to Musk ‘pure fiction’

TikTok排除について

米国での経緯

TikTokは中国のByteDanceが運営する短編動画アプリで、米国内で1億7000万人を超えるユーザーを有するといわれています。ところが、国家安全保障上の懸念から、米国政府は2025年1月19日までに米国事業を売却しない場合、TikTokを全面的に禁止すると定めました。既に連邦最高裁は1月10日に法の合憲性を審理し、多くの関係者が結果を注視している状況です。

HR7521 – 外国の敵対勢力による規制対象アプリケーションからアメリカ人を保護する法律[ H.R.7521 – Protecting Americans from Foreign Adversary Controlled Applications Act ]

日本で規制対象にならないのはなぜか

一方で、日本ではTikTokに対する明確な禁止措置が取られていません。その背景としては、現時点で日本政府が安全保障上の影響を重大視していないことや、市場・経済面の影響を勘案しているとの見方があります。また、日本国内でのTikTokの利用は拡大しており、事業者とユーザー、ともに大きな混乱が起きていない状況だと考えられます。

イーロン・マスクが買収した場合

Xを展開するマスク氏にとってのメリット/デメリット

メリット:

  • 既に所有するX(旧Twitter)との連携を図ることで、ユーザーデータの解析や広告事業の強化が見込める
  • AI企業「xAI」ともシナジーを期待でき、動画や音声など大量のデータを活用することでイノベーティブなサービスを生み出す可能性

デメリット:

  • 規制当局との折衝やコンテンツポリシーの整備など、追加の負担やコストが拡大
  • TikTok特有の若年層ユーザーとのコミュニケーションやモデレーションの難しさ

ByteDanceのメリット/デメリット

メリット:

  • 大幅な資金調達に成功する可能性が高く、他地域向け事業の再投資に充当できる
  • これ以上の対立を回避し、米国内での法的リスクやブランドイメージの損失を一定程度抑えられる

デメリット:

  • 長年培ったアルゴリズムやブランド価値を手放すことによる企業イメージの低下
  • 中国政府の輸出管理規制により、アルゴリズム移転などの手続きが複雑になるリスク

「言論と表現の自由」をTikTokユーザーに適用したらどうなるか?

イーロン・マスク氏は、「言論と表現の自由」を重視する立場で知られています。TikTokにそれを適用することで、コンテンツ規制が緩和される可能性がありますが、同時に誤情報やヘイトスピーチなどの有害コンテンツの拡散リスクが高まる懸念もあります。若年層が主体のプラットフォームであるだけに、SNS上での倫理や安全面とのバランスをどのように確保するかが課題となるでしょう

イーロン・マスク以外の買い手の可能性

これまでも以下の企業やグループがTikTok買収に興味を示してきました:

Microsoft:
広告事業強化やクラウドインフラ市場でのAWSとの差を縮める狙いがあり、2021年にも買収を試みた経緯があるとされています。

Walmart:
ライブコマースの分野など小売のデジタル変革を目指し、TikTokの大量ユーザーベースを活用した新ビジネスモデルを期待。

Oracle:
既にTikTokの米国内データホスティングを担っており、クラウドやAI分野でのビジネス拡大を図る意向があるとされる。

プロジェクトリバティー・コンソーシアム:
フランク・マッコート氏とケビン・オリアリー氏が約200億ドル規模の買収提案を行っており、アルゴリズムなしでの取得も検討していると言われる。

TikTok米国事業売却への障壁

  • 規制当局の審査:
    国家安全保障上の懸念やデータプライバシー保護など厳しい基準をクリアしなければならない
  • 買収価格の大きさ:
    アルゴリズムなどコア技術の評価額が高く、交渉が難航する可能性(500億ドルになるのではと予想されています)
  • 中国政府の輸出管理:
    ハイテク関連の技術輸出を厳格に管理する中国政府の方針によって、アルゴリズムの移転などが制限されるリスク

1月19日を過ぎて、誰も買収に手を挙げなかった場合、TikTok米国事業はどうなるか?

期限内に買収がまとまらない場合、TikTokは米国内でのサービス提供を停止するか、アプリストアでの配信がブロックされることが想定されています。インストール済みアプリの即時削除は行われない見込みですが、新規ダウンロードの停止やアップデート不可により、長期的には利用者が減少し、機能不全に陥る可能性が高いでしょう。また、TikTokを運営するByteDanceは米国市場から撤退を余儀なくされる恐れがあり、グローバル戦略の大幅な修正が避けられなくなります。

トランプ新政権の対応

米国の大統領選挙後、2025年1月20日に返り咲く見込みのトランプ氏は、TikTok禁止法の施行をどの段階で、どのように執行するかが焦点となっています。すでに連邦最高裁はTikTokの主張を厳しく見ているとの観測がある一方、トランプ氏自身は就任後に「司法省による法執行を控える可能性」があるとされ、さらに「90日間の猶予期間を設けるほか、売却に向けた新たな交渉を模索する可能性」も取り沙汰されています。こうした大統領の裁量により、TikTokが米国内での業務を継続できるかどうかが左右される見通しです。

まとめ

TikTokの米国事業売却問題は、国際政治と企業戦略が複雑に絡み合う重要な局面を迎えています。中国当局がイーロン・マスク氏による買収を検討していると報じられる一方で、MicrosoftやWalmart、Oracleなど米国の有力企業や投資家グループが継続的に興味を示しているのも注目されるポイントです。

1月19日の期限までに買収先が決まらなければ、米国内でのTikTok利用は禁止される可能性が高まり、ユーザーやコンテンツ制作者、関連ビジネスに大きな影響が出るとみられます。さらに、トランプ新政権の裁量次第で状況が変化し得るため、今後の動向に目が離せません。

果たしてTikTokは米国での活動を継続できるのか。それとも全面禁止となり、別のプラットフォームへとユーザーが流出してしまうのか。企業の買収交渉や米中両国の思惑を注視しながら、近づく1月19日の結末を見守る必要があります。

Citations:[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10]

ホーム » テクノロジーと社会 » テクノロジーと社会ニュース » TikTok米国事業を誰が買うのか?イーロン・マスクだけではない「買収に興味」のある米国企業と1月19日以降の見通し