Last Updated on 2025-05-12 11:27 by admin
2025年5月10日(現地時間、日本時間同日)、バチカン市国で新教皇レオ14世(ロバート・プレヴォスト)が、教皇として初めて枢機卿団に向けた公式演説を行った。レオ14世は、人工知能(AI)の発展が現代社会における最も重要な課題の一つであると強調し、AIが人間の尊厳や正義、労働の権利に新たな挑戦をもたらしていると述べた。
教皇名「レオ」を選んだ理由について、19世紀の産業革命期に社会問題に取り組んだレオ13世への敬意を表したものであり、当時の「レールム・ノヴァールム」回勅が現代のAI時代にも通じる社会教説であることを示唆した。
前教皇フランシスコもAIの倫理的リスクについて繰り返し警鐘を鳴らしており、バチカンは2025年1月にAIの倫理的ガイドラインを発表している。レオ14世は今後、AIの発展が社会と人間に与える影響に積極的に対応し、倫理的ガバナンスの重要性を訴えていく姿勢を明らかにした。
References:
Pope Leo XIV names AI one of the reasons for his papal name | The Verge
Pope Leo XIV identifies AI as a main challenge for humanity | AP News
Pope Leo signals he will closely follow Francis and says AI represents challenge for humanity | CNN
Pope Leo identifies AI as main challenge in first meeting with cardinals | Al Jazeera
【編集部解説】
今回のニュースは、カトリック教会の最高指導者である教皇が、AIという現代社会の最先端技術に対して明確なメッセージを発した点に大きな意義があります。教皇レオ14世がAIを教皇名の由来の一つに挙げたことは、単なる象徴的な選択ではなく、AIがもたらす社会的・倫理的課題に対して教会が積極的に関与していく姿勢の表明といえるでしょう。
歴史的に見ても、カトリック教会は産業革命やバイオテクノロジーなど、社会を大きく変える技術に対して倫理的な観点からメッセージを発してきました。レオ13世による「レールム・ノヴァールム」回勅は、労働者の権利や社会正義の重要性を訴え、現代の社会教説の礎となりました。
今回のレオ14世の発言は、こうした伝統を現代のAI時代に引き継ぐものです。前教皇フランシスコもAIの倫理的リスクや社会的影響について繰り返し言及してきましたが、レオ14世はさらに一歩踏み込み、AIが人間の尊厳や労働の在り方に与える影響を「現代の最重要課題」として位置づけています。
これは、宗教界が単なる精神的支柱にとどまらず、テクノロジーの発展と人間社会の調和に積極的に関与する姿勢を示すものです。AI技術の進歩は医療や教育、産業など多くの分野で恩恵をもたらす一方で、偽情報の拡散や雇用の喪失、アルゴリズムによる差別など新たなリスクも生み出しています。
バチカンが2025年1月に発表したAI倫理ガイドラインや、Microsoft・IBMなどと連携した「Rome Call for AI Ethics」は、技術が持つリスクに対して国際的な倫理基準を整備しようとする試みです。日本を含む世界各国の政策や企業活動にも、今後大きな影響を与える可能性があります。
今後は、宗教界・産業界・学界が連携し、グローバルなAI倫理のスタンダードを形成していく動きが加速するでしょう。教皇レオ14世の発信は、AI時代における人間中心の社会づくりに向けた重要な一歩であり、技術と倫理の対話がますます求められる時代の到来を象徴しています。
【用語解説】
レールム・ノヴァールム:
1891年に教皇レオ13世が発表したカトリック教会初の社会回勅。産業革命による社会変化の中で、労働者の権利や社会正義の重要性を訴え、現代カトリック社会教説の礎となった。
回勅(エンチクリカ):
カトリック教会の教皇が信徒や聖職者に向けて発表する公式文書。信仰や倫理、社会問題など幅広いテーマを扱い、教会の公式見解を示す。
Rome Call for AI Ethics(ローマAI倫理宣言):
2020年にバチカン主導で発表されたAI倫理ガイドライン。透明性、公平性、説明責任、人間中心主義などを原則とし、MicrosoftやIBMなども賛同している。
レオ13世:
1878年から1903年まで在位したローマ教皇。社会問題に積極的に取り組み、レールム・ノヴァールムを発表したことで知られる。
レオ14世(ロバート・プレヴォスト):
2025年に選出されたカトリック教会の新教皇。AI時代の倫理的課題に積極的に取り組む姿勢を示している。
【参考リンク】
バチカン(Vatican)(外部)
イタリア・ローマ市内にある世界最小の独立国家であり、カトリック教会の総本山。教皇が統治し、世界中のカトリック信徒に宗教的・倫理的指導を行っている。
Rome Call for AI Ethics(外部)
バチカンが主導し、AIの倫理的利用に関する国際ガイドラインをまとめた公式ページ。透明性や公平性などの原則を紹介している。