Last Updated on 2025-05-31 14:53 by admin
世界気象機関(WMO)は2025年5月26日、2025年から2029年の地球平均気温が産業革命前(1850年から1900年の平均)を1.5度上回る5年平均となる確率が70パーセントであると発表した。各年の世界地表付近気温は産業革命前より1.2度から1.9度高くなると予測される。
2025年から2029年の間に少なくとも1年が2024年(現在の史上最高記録)を上回る確率は80パーセント、1.5度を超える年が発生する確率は86パーセントである。2度の温暖化を超える年が発生する確率は1パーセントとされる。英国気象庁のアダム・スケイフは「衝撃的だ」と述べ、メイヌース大学のピーター・ソーンは2、3年以内に1.5度超過の確率が100パーセントになると予測した。
北極の温暖化は世界平均を大幅に上回り、バレンツ海、ベーリング海、オホーツク海の海氷減少が続く。降水パターンではサヘル、北ヨーロッパ、アラスカ、北シベリアが平均より湿潤となり、アマゾニアは乾燥する。
インペリアル・カレッジ・ロンドンのフリーデリケ・オットーは「2025年に化石燃料に依存することは完全に狂気の沙汰だ」と述べた。
From: We’ve Passed a Climate Tipping Point (And No One Wants to Talk About It)
【編集部解説】
今回のWMOの発表は、気候変動の議論において極めて重要な転換点を示しています。パリ協定で設定された1.5度という数値は、単なる政治的な目標ではありません。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の研究によると、1.5度と2度の間には質的な違いがあり、極端気象の頻度や強度、海面上昇、生態系への影響が大幅に異なることが明らかになっています。
注目すべきは、「1.5度突破」の定義が複雑である点です。WMOの報告では、5年平均での1.5度超過確率が70%とされていますが、長期的な温暖化(数十年平均)は依然として1.5度を下回っているとも明記されています。単年での突破と長期平均での突破は意味が大きく異なるため、メディア報道では混同されがちな点に注意が必要です。
予測システムの信頼性
WMOの予測は、英国気象庁をはじめとする世界の主要気候予測センターからのデータを統合したものです。これらの予測システムは、過去の検証において高い精度を示しており、科学的信頼性は非常に高いと評価されています。
この予測は、クリーンテクノロジー分野に大きな影響を与えるでしょう。カーボンキャプチャ技術、再生可能エネルギー、気候適応技術への投資が加速し、ESG投資の重要性がさらに高まることが予想されます。
経済・社会への波及効果
農業生産性の低下、極端気象による保険業界への影響、沿岸都市のインフラ投資需要の増大など、経済全体への影響は計り知れません。特に、世界人口の3分の1が極端な暑さにさらされるという予測は、労働生産性や都市計画に根本的な変革を迫るものです。
規制環境の変化
各国政府は、より厳格な排出削減目標の設定を余儀なくされ、炭素税の導入や化石燃料からの急速な転換が政策課題として浮上するでしょう。企業にとっては、サステナビリティ報告の義務化や環境規制の強化が避けられない流れとなります。
長期的な技術開発の方向性
この危機的状況は、同時に技術革新の大きな機会でもあります。気候工学技術、スマートシティ、精密農業、災害予測AI など、人類の適応能力を高める技術分野でのブレイクスルーが期待されています。
重要なのは、この予測を「諦め」ではなく「行動の加速」の契機として捉えることです。技術による解決策の模索と社会システムの変革が、今まさに求められているのです。
【用語解説】
ティッピングポイント
気候システムにおいて、小さな変化が大きく不可逆的な変化を引き起こす臨界点のこと。一度超えると元の状態に戻ることが困難になる。
産業革命前レベル(1850-1900年平均)
温室効果ガスの大規模排出が始まる前の基準温度。現在の温暖化の程度を測る国際的なベースラインとして使用される。
パリ協定
2015年に採択された国際的な気候変動対策の枠組み。世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2度未満、できれば1.5度に抑制することを目標とする。
年平均から十年規模の気候予測
WMOが主導する、1年から10年先までの気候状況を予測するシステム。季節予報と長期気候変動予測の中間に位置する重要な予測手法。
グローバル・プロデューシング・センター
WMOが指定した世界の主要気候予測機関。英国気象庁、フランス気象庁、ドイツ気象庁、日本気象庁などが含まれる。
【参考リンク】
WMO公式報告書(外部)
2025年5月26日発表の「WMO Global Annual to Decadal Climate Update (2025-2029)」完全版PDF
WMO年平均から十年規模気候予測リードセンター(外部)
英国気象庁運営のWMO公式予測センター。世界各国の気候予測データを統合
WMOメディアセンター(外部)
2025年5月28日付けWMO公式プレスリリース。今回の予測に関する詳細説明
国連広報センター東京(外部)
WMO報告書の日本語での紹介と解説。国連機関による公式な情報発信
【参考動画】
【編集部後記】
今回の予測は、私たちが生きている「今この瞬間」の地球の状況を示しています。2025年から2029年という、まさに目前に迫った期間の話です。この予測をどう受け止め、個人として、そして社会として何ができるのでしょうか。技術革新による解決策への期待と、現実的な適応策の必要性をどうバランスさせるべきか。みなさんはこの「1.5度の壁」を前に、どのような未来を描き、どのような行動を選択されるでしょうか。
【参考記事】
Climate Change News – Global warming may top 1.5C during 2025-2029, experts predict(外部)
気候変動専門メディアによる科学的視点からの深掘り記事。英国気象庁のアダム・スケイフとレオン・ハーマンソンの専門家コメントを含み、自然変動要因や火山噴火の影響についても詳細に解説している。
Business Standard – Global temperature likely to breach 1.5°C in next five years: WMO(外部)
経済・ビジネス視点からの報道で、COP30に向けた各国の気候計画(NDCs)提出状況と政策的含意について重要な情報を提供。180カ国が未提出という具体的データを含む。
CNBC TV18 – UN says 70% chance that 2025-2029 average warming will top 1.5C(外部)
国際経済メディアによる包括的な報道。WMO副事務局長コ・バレットの重要なコメントと、長期温暖化の測定方法について詳細な解説を含む。