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6月18日【今日は何の日?】「京都帝国大学創設の日」ー京都大学が生んだテクノロジー

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日本の学術史を変えた6月18日

今日、6月18日は1897年(明治30年)に京都帝国大学が創設された記念すべき日です。この日本で2番目に創設された帝国大学は、125年を超える歴史の中で、世界を変革する数々のテクノロジーを生み出してきました。

近代国家への脱皮を急ぐ日本の「学問の府」

京都帝国大学は、帝国大学令制定後、近畿地方にも帝国大学の設置を求める声が上がっていたが、財政難のため見送られ続けていました。1895年に西園寺公望は日清戦争で得た賠償金を基に第三高等学校を帝国大学へ昇格させる提案を行い、ついに実現に至ったのです。

創立当初の学生数は47名、教官数は9名という小さなスタートでしたが、まず理工科大学(理学部と工学部の前身)が設置され、続いて1899年京都帝国大学法科大学および京都帝国大学医科大学、1906年京都帝国大学文科大学を設置し、10年をかけて分科大学を設置しました。

世界を変えた京都大学のテクノロジー

1. 山中伸弥教授のiPS細胞 – 再生医療の革命

現在最も注目される京都大学発のテクノロジーといえば、2012年のノーベル生理学・医学賞をジョン・ガードンと共同受賞した山中伸弥教授のiPS細胞(人工多能性幹細胞)でしょう。

2006年にはマウスの体細胞に4つの遺伝子を導入することにより、ES細胞とほぼ同じ性質をもった人工多能性幹(iPS)細胞の誘導に成功しました。この技術により、事故や疾病などにより失われたり機能不全となった臓器や組織の働きを、細胞や組織などを移植することで改善させる再生医療の扉が開かれました。

実用化も着実に進んでおり、日本では世界に先駆け、2014年に目の難病である加齢黄斑変性の患者にiPS細胞から作った網膜色素上皮細胞を移植する手術が実現したほか、2025年4月には患者ごとに「マイiPS細胞」を製造する施設も稼働を始めました。

2. 湯川秀樹・朝永振一郎 – 理論物理学の黄金時代

京都大学は日本の理論物理学の聖地でもあります。1949年日本人として初めてノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹は、1934年「中間子論」の論文を発表。素粒子論の足掛かりをつくったという偉業を成し遂げました。

興味深いことに、湯川と1965年にノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎は、どちらも父親が京大の教授であり、厳格な家庭に育った。京都一中、京都三高、京都大学とまったく同じコースを歩き、同じ年に卒業して京大の玉城教授の研究室で量子力学の研究に没頭した同級生でした。

この二人の英才は、玉城研究室で勉強するときには、同じ部屋で机を並べて研究していたという逸話からも、当時の京都大学の自由な学風と学術的な環境の豊かさがうかがえます。

3. 福井謙一のフロンティア軌道理論 – 化学反応の本質を解明

1981年にノーベル化学賞を受賞した福井謙一は、1952年、フロンティア軌道理論 (frontier orbital theory) を発表。これはフロンティア軌道と呼ばれる軌道の密度や位相によって分子の反応性が支配されていることを初めて明らかにしたもので、世界の化学界に衝撃を与えた革新的な理論でした。

たくさんある電子のうち最前線(フロンティア)にいる電子しか化学反応に関与しないという概念は、それまでは経験的に知られていた有機化学反応を、なぜそれがおこるのか、なぜこの反応は起こらないのか、という体系的な理論を確立させたことで、化学の理解を根本から変えました。

4. 本庶佑のPD-1研究 – がん免疫療法の扉を開く

2018年にノーベル生理学・医学賞をジェームズ・P・アリソンと共同受賞した本庶佑特別教授の研究は、がん治療に革命をもたらしました。

PD-1(Programmed cell death 1)は、T細胞の細胞死誘導時に発現が増強される遺伝子として1992年に当研究室メンバーであった石田博士らによって単離・同定されたのが始まりでした。その後の研究で、癌細胞は自分の持つPD-L1をPD-1と結合させT細胞の機能を抑えることで、自身を排除しようとする免疫から逃れているという仕組みが明らかにされたのです。

この発見により開発された「ニボルマブ(オプジーボ)」などの抗PD-1抗体は、従来の免疫治療法と比較すると、PD-1抗体治療単独の奏功率は20-30%、がん腫によってはCTLA-4抗体との併用治療で、奏功率は50-60%と劇的に向上したという成果を上げています。

5. 吉野彰のリチウムイオン電池 – IT社会を支える基盤技術

2019年10月、ノーベル化学賞受賞が決定した吉野彰氏は、現代のIT社会を支える基盤技術を生み出しました。合成繊維の発展という世相を背景に、新たなものを生み出す研究をしたいという思いから、京都大学工学部石油化学科に入学した吉野氏は、すでに量子化学分野の権威として知られていた福井謙一への憧憬も京大工学部入学の理由の一つであり、大学では福井の講義を受講しているといいます。

1985年にリチウムイオン電池の原型を完成させましたた吉野氏の発明は、小型・軽量で高出力の蓄電池が実現したことで、スマホなどIT機器やEVの普及を可能にし、太陽光発電など再生可能エネルギーの導入拡大にもつながるという広範囲な影響を与えています。

興味深いことに、福井先生がノーベル化学賞を受賞されたのは「フロンティア電子理論」。簡単に言うと、化合物の物性や化学反応などを実験ではなく計算で理論的に予測していこうというものでした。リチウムイオン電池の研究にも、実は福井先生のフロンティア電子理論が随所に盛り込まれていますと吉野氏が語るように、京都大学の研究は世代を超えて受け継がれているのです。

「自由の学風」が生み出すイノベーション

これらの世界を変えた技術には共通点があります。それは京都大学の建学の精神である「自由の学風」です。

山中教授は「必要は発明の母」であるとすれば、「偶然は発明の父」で、両方がそろって初めて発明はできると語っており、自由な研究環境だからこそ生まれる「セレンディピティ」の重要性を強調しています。

福井謙一も基礎学問の重視、異分野の交流・融合、そして、普遍的な法則・本質へのアプローチ、科学における倫理観の育成を大切にし、「数学が好きなら化学をやれ」というアドバイスは、今で言う「異分野の融合」を先駆的に実践していました。

未来を切り拓く京都大学

現在も全国有数の大学都市として知られる京都で、京都大学は今日も次世代の革新技術の創出に取り組んでいます。128年前の6月18日に始まった「学問の府」は、日本発の技術で世界を変え続けているのです。

iPS細胞による再生医療、免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療、リチウムイオン電池による持続可能な社会の実現—これらはすべて、京都大学の「自由の学風」が生み出した人類の宝といえるでしょう。

6月18日の今日、私たちは京都帝国大学創設という歴史的な一歩が、いかに現代の技術革新につながっているかを改めて実感することができます。そして、この伝統は確実に未来へと受け継がれていくのです。

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さつき
社会情勢とテクノロジーへの関心をもとに記事を書いていきます。AIとそれに関連する倫理課題について勉強中です。ギターをやっています!