みなさんは今日、YouTubeを見ましたか?おそらく多くの方が「はい」と答えるのではないでしょうか。今や私たちの生活に欠かせないYouTubeですが、実は2007年6月19日は、この巨大プラットフォームが日本語を含む10か国語に対応した記念すべき日なのです。
あの時から18年。YouTubeは単なる動画サイトから、世界で20億人が利用するメディア帝国へと成長しました。テレビの視聴時間を奪い、新しい職業を生み出し、私たちの情報の取り方そのものを変えてしまったのです。でも、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
まさかの出発点:出会い系サイト志望だったYouTube
「YouTubeって最初から動画サイトだったんでしょ?」そう思っている方、実は違うんです。2005年2月14日、バレンタインデーに産声を上げたYouTubeは、なんと出会い系サイトとして構想されていました。
創設者の3人は、PayPalで一緒に働いていた仲間でした。チャド・ハーリー、スティーブ・チェン、そしてジョード・カリム。彼らの中でも特にカリムが語る創設秘話は興味深いものです。
2004年、スマトラ島沖地震とスーパーボウルでのジャネット・ジャクソンのハプニング事件が立て続けに起こりました。カリムはネットでその動画を探しまくったのですが、なかなか見つからない。「なんで動画をみんなで共有できるサイトがないんだ?」この素朴な疑問が、後に世界を変える巨大プラットフォームの種になったのです。
よく語られる「ディナーパーティーの動画を共有するため」という美談について、カリム本人は「マーケティング用の作り話だよ」とあっけらかんと語っています。現実って、案外そんなものかもしれませんね。
そしてわずか1年半後の2006年、GoogleがYouTubeを16億5000万ドル(当時のレートで約2000億円)で買収。この金額、今思えば安すぎる買い物だったかもしれません。
↑カリム氏が投稿した、YouTube史上最初の動画
あの日、世界が広がった:2007年6月19日の多言語対応
2007年6月19日。多くの日本人にとって、この日は特別な意味を持ちます。それまで英語オンリーだったYouTubeが、ついに日本語に対応したのです。フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、オランダ語、ポーランド語、ブラジルポルトガル語、中国語(繁体字)、韓国語と合わせて、一気に10か国語対応という大胆な展開でした。
この日を境に、日本のインターネット文化は大きく変わりました。それまで「動画なんて重くて見られない」と思っていた人たちが、気軽に動画を楽しむようになったのです。当時を知る人なら覚えているかもしれませんが、「ようつべで見た」なんて言葉が流行ったのもこの頃でした。
現在、日本のYouTube月間利用者数は7000万人以上です。これは日本のインターネット利用者の約82%に相当し、もはや「知らない」と言える方が珍しい存在になってしまいました。
ちなみに私の祖母(85歳)も大正琴の演奏動画をYouTubeにアップロードしています。
「好きなことで、生きていく」が生んだ革命
2014年10月。テレビをつけると、見慣れない顔の青年が映っていました。「ヒカキンって誰?」多くの人がそう思ったはずです。でも、このCMは日本社会に大きな衝撃を与えました。「好きなことで、生きていく」というキャッチフレーズと共に、YouTuberという新しい職業が世間に認知されたのです。
この時、多くの親御さんは困惑したのではないでしょうか。「将来はYouTuberになりたい」と言い出す我が子に、何と答えていいかわからない。でも子どもたちは敏感に時代の変化を感じ取っていたのかもしれません。
実際、YouTubeで成功するクリエイターは確実に増えていました。2018年の発表では、年収100万円台のクリエイターが35%増、1000万円台の人は40%増。「好きなこと」が本当に「生きていく」手段になっていたのです。
ただし、成功の裏には厳しい現実もありました。多くの人が「YouTuberになれば簡単に稼げる」と勘違いし、結果的に挫折することも。華やかに見える世界の裏側には、地道な努力と継続が必要だったのです。
2019年、ついにテレビを超えた瞬間
2019年は日本の広告業界にとって歴史的な年でした。電通の調査で、ついにインターネット広告費(2兆1,048億円)がテレビ広告費(1兆8,612億円)を上回ったのです。
長年、広告業界の王者だったテレビが、ついに新参者に追い抜かれた瞬間でした。これは単なる数字の変化ではありません。人々のメディア接触行動が根本的に変わったことを意味していたのです。
電車の中を見回してください。スマホでYouTubeを見ている人、多いですよね?テレビ番組の切り抜き動画を見たり、お気に入りのYouTuberをチェックしたり。気がつけば、私たちの情報源はテレビからスマホ、そしてYouTubeへとシフトしていたのです。
この変化は、企業の広告戦略も大きく変えました。「若い人にリーチしたければYouTube」が常識になり、従来のテレビCMだけでは不十分な時代になったのです。
AIが変えた動画体験:自動字幕から多言語吹き替えまで
YouTubeの進化で見落とせないのが、AI技術の活用です。最初は精度の低い自動字幕から始まりましたが、今では驚くほど正確になりました。聴覚に障害のある方はもちろん、電車内で音を出せない時や、外国語の動画を理解したい時など、誰もが恩恵を受けています。
そして2024年12月、ついに夢のような機能が実現しました。AI による自動吹き替えです。英語の動画が、まるで最初から日本語で撮影されたかのように日本語音声で楽しめるようになったのです。
世界的に人気のMrBeastの動画では、なんと「NARUTO」のナルト役で有名な竹内順子さんが日本語吹き替えを担当。アニメファンからすると、「ナルトがアメリカのYouTuberの声をやってる!」という不思議な感覚かもしれませんね。
これにより、言語の壁はほぼなくなりました。韓国のクッキング動画も、フランスのファッション解説も、ドイツの科学実験も、すべて日本語で楽しめる時代が来たのです。
光と影:誰もが発信者になれる時代の現実
YouTubeが実現した「誰もが発信者になれる」世界は、確かに素晴らしいものです。専門的な知識を持つ人が、大学の講義のような内容を無料で公開してくれる。料理研究家が手の込んだレシピを惜しみなく教えてくれる。プロの技術者が仕事のノウハウを共有してくれる。
学生時代を思い出してください。わからない問題があったとき、参考書を買いに行ったり、図書館に通ったりしていませんでしたか?今の学生は「YouTube先生」に教わることができます。数学の微積分から、英語の発音、プログラミングの基礎まで、たいていのことはYouTubeで学べてしまいます。
でも、メダルには裏面があります。誰でも発信できるということは、間違った情報も簡単に拡散されてしまうということです。「YouTube大学」で有名になった中田敦彦さんの動画でも、専門家から「それは間違っている」と指摘される事例がありました。
さらに深刻なのは、「炎上系YouTuber」の存在です。注目を集めるために過激な内容を投稿し、時には他人に迷惑をかける人たち。彼らの動画を見て「面白い」と感じる視聴者がいる限り、この問題はなくならないでしょう。
私たちはどう向き合うべきか
YouTube は確かに世界を変えました。でも、その変化をどう受け止めるかは私たち次第です。
情報を鵜呑みにせず、複数の情報源を確認する。エンターテイメントとして楽しむ動画と、学習目的の動画を使い分ける。炎上系の動画には関わらない。そんな「情報リテラシー」が、今まで以上に重要になっています。
一方で、YouTubeの可能性はまだまだ広がっています。VRやARとの組み合わせで、もっと没入感のある体験ができるかもしれません。リアルタイム翻訳技術が向上すれば、世界中の人とライブで交流することも可能になるでしょう。
18年前のあの日から今日まで
2007年6月19日から18年。あの時「ようつべ」と呼んでいた動画サイトは、私たちの生活に欠かせないインフラになりました。朝起きてニュースをチェックし、通勤中にお気に入りのチャンネルを見て、料理の参考にレシピ動画を見る。そんな日常が当たり前になっています。
「好きなことで生きていく」というスローガンは、多くの人に夢を与えました。実際に夢を叶えた人もいれば、現実の厳しさを知った人もいます。でも、挑戦する機会がそこにあることは、間違いなく素晴らしいことです。
2019年にインターネット広告費がテレビを超えたのも、AI技術で言語の壁がなくなったのも、すべては2007年6月19日のあの多言語対応から始まった物語の一部なのです。
これからYouTubeはどこに向かうのでしょうか。新しい技術、新しい問題、新しい可能性。変化し続ける世界の中で、私たちも一緒に成長していけたらいいですね。
毎年6月19日が来るたび、ちょっとだけYouTubeの歴史を思い出してみてください。そして今日見る動画も、18年前には想像もできなかった奇跡の一つなのだということを、心の片隅に留めておいてもらえたら嬉しいです。