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EU AI法一時停止の可能性、汎用AI規制の実務規範策定遅延で混乱拡大

EU AI法一時停止の可能性、汎用AI規制の実務規範策定遅延で混乱拡大 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-28 21:05 by admin

アイルランド欧州議会議員マイケル・マクナマラは2025年のIAPPとバークマン・クライン・インターネット・社会センターのデジタル政策リーダーシップ・リトリートで、EU AI法の実施一時停止の可能性を示唆した。

欧州委員会が汎用AI実務規範の発表期限を延長しており、当初2025年5月2日に予定されていた最終化が遅れている。同規範はAI法対象事業者が2025年8月2日発効のGPAI要件に準備するためのものである。

OpenAIのAI政策・規制担当副法務顧問ベン・ロッセンは既存の消費者保護法、不法行為法、製造物責任法がAI規制に適用可能と述べた。イタリアデータ保護当局理事会メンバーのグイド・スコルツァは自主規制を否定し、政策立案者と企業の協力による共同規制を提案した。

From: 文献リンクNavigate 2025: Potential EU AI Act pause opens new questions on approach to global regulation

【編集部解説】

EU AI法の実施一時停止の議論は、単なる規制の遅延ではなく、グローバルなAI規制競争の転換点を示しています。2024年8月に発効したEU AI法は、世界初の包括的なAI規制として注目されましたが、実際の運用段階で深刻な課題が浮上しました。

最も重要な問題は、汎用AI(GPAI)モデルに関する実務規範の策定遅延です。この規範は企業がコンプライアンスを判断する基準となるため、「推定コンプライアンス」の根拠として業界が強く求めているものでした。5月2日の予定から大幅に遅れている現状は、8月2日のGPAI要件発効に向けた準備を困難にしています。

興味深いのは、規制一時停止を求める声が当初AI法に反対していた業界団体から上がっていることです。これは規制回避ではなく、むしろ明確なルールの下で事業を展開したいという企業の本音を表しています。不確実な規制環境は、イノベーションにとって過度な規制以上に有害となる可能性があります。

マクナマラ議員が指摘する「米国主導の圧力」も重要な要素です。トランプ政権下でのAI規制緩和圧力が国際的に波及し、EUの規制アプローチに対する外部からの影響が強まっています。これは単なる経済的な圧力ではなく、AI開発における競争優位性を巡る地政学的な争いの側面も含んでいます。

一方で、日本は2025年にイノベーション促進を重視したAI法案を成立させるなど、規制よりも産業振興を優先したアプローチを採用しています。韓国も同様の方向性を示しており、アジア諸国とEUの間でAI規制哲学の根本的な違いが鮮明になっています。

OpenAIのロッセン氏が言及した既存法の活用という視点も注目に値します。新たな包括的規制を制定するのではなく、消費者保護法や製造物責任法といった既存の法的枠組みでAIリスクに対処するアプローチは、規制の柔軟性と実効性の両立を図る現実的な選択肢といえるでしょう。

EU AI法の一時停止が実現すれば、グローバルなAI規制の主導権争いに大きな影響を与えます。特に、基本的人権との関連でAI規制を位置づけるEUのアプローチと、経済競争力を重視する米国・アジア諸国のアプローチの対立が鮮明になる可能性があります。

企業にとっては、規制の不確実性が続くことで投資判断や事業戦略の策定が困難になる一方、追加の準備時間を得られるメリットもあります。しかし、長期的には明確で実行可能な規制フレームワークの確立が、持続可能なAI産業発展には不可欠となるでしょう。

【用語解説】

EU AI法(AI Act)
2024年8月に発効した世界初の包括的AI規制法。AIシステムをリスクレベル別に4段階に分類し、それぞれに異なる規制を適用する。2025年8月2日からGPAI要件が発効予定。

汎用AI(GPAI:General-Purpose AI)
大規模データでトレーニングされた汎用性を持つAIモデル。ChatGPTのような生成AIが典型例。EU AI法では特別な規制対象として位置づけられている。

実務規範(Code of Practice)
EU AI法の対象事業者がコンプライアンス要件を理解し準備するためのガイドライン。企業が「推定コンプライアンス」を得るための重要な基準となる。

マイケル・マクナマラ
アイルランド選出の欧州議会議員。EU AI法の実施一時停止の可能性について言及した政治家の一人。

ベン・ロッセン
OpenAIのAI政策・規制担当副法務顧問。CIPP/US資格保持者。AI規制に関する業界の立場を代弁する重要人物。

グイド・スコルツァ
イタリアデータ保護当局(ガランテ)の理事会メンバー。AI規制における自主規制に反対し、共同規制を提案している。

推定コンプライアンス
実務規範に従うことで、法的要件を満たしているとみなされる仕組み。企業にとって法的リスクを軽減する重要な制度。

【参考リンク】

IAPP(International Association of Privacy Professionals)(外部)
世界最大のプライバシー専門家コミュニティ。100カ国以上に7万人以上のメンバーを擁する

OpenAI(外部)
ChatGPTを開発したAI研究機関。人類に有益な形でAIを発展させることを目指す

バークマン・クライン・インターネット・社会センター(外部)
ハーバード大学にある研究センター。デジタル政策に関する重要な議論の場を提供

イタリアデータ保護当局(ガランテ)(外部)
1997年設立のイタリアの独立データ保護機関。個人データ処理の監督を担当

欧州委員会(外部)
欧州連合の執行機関。EU AI法の実務規範策定を担当し統一的な規制実施を監督

【参考動画】

【参考記事】

Support for AI Act pause grows but parameters still unclear(外部)
AI法一時停止への支持拡大について報じるIAPPの関連記事

【編集部後記】

EU AI法の一時停止議論は、私たちの働き方や生活に直結する重要な転換点かもしれません。規制が厳しすぎれば革新的なAIサービスの登場が遅れ、緩すぎれば安全性への懸念が残ります。

皆さんは日常でAIをどのように活用されていますか?また、AI規制について「これだけは譲れない」と感じるポイントはありますか?グローバルな規制競争の行方が、私たちが使えるAIツールの未来を左右するかもしれません。ぜひSNSで教えてください。

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TaTsu
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