AIの利用リテラシーを語るフェーズは、もう終わりに近づいているのかもしれません。経済産業省とIPAが2026年4月16日に公表したデジタルスキル標準ver.2.0(DSSver.2.0)は、「AIを使う人」ではなく「AIに食わせるデータを整える人」をDX推進人材の中心軸に置き直し、AX(AIトランスフォーメーション)時代に向けてDX推進人材を6類型17ロール体系へと再設計した、踏み込んだ改訂でした。
先行記事「デジタルスキル標準ver.2.0公表|経産省・IPAがデータマネジメント類型を新設、AX時代のスキル再編」では、改訂の骨子と「データを整える役割」の重要性についてお伝えしました。本稿では、その続編として147ページに及ぶ本体PDFの記述を丁寧に読み込み、17ロール体系の再設計の論理・海外標準との接続・実務への含意まで踏み込んで深掘りしていきます。
【ポイント】
- なぜver.2.0は「6類型17ロール」という新体系でDX推進人材を再定義したのか
- ver.1系の「追記型」改訂とver.2.0の「再設計型」改訂は、構造的に何が違うのか
- データマネジメント類型の3ロール(データスチュワード/データエンジニア/データアーキテクト)は、どう棲み分け、どう連携するのか
- ビジネスアーキテクト類型の刷新は、なぜBABOKの国際職能体系と接続する布石になっているのか
- 「グラフィックデザイナー」から「コミュニケーションデザイナー」への転換は、単なる呼称変更ではない
- AI実装・運用、AIガバナンスが共通スキルリストに入った意味は、全類型への波及にある
- デザインマネジメント実践を「全ビジネスパーソンの素養」と位置づけた狙い
- あなたは「AIを使う側」か、「AIに使わせる側」か
ver.2.0は何が「メジャーバージョンアップ」なのか
DSSの改訂履歴を時系列で並べると、今回の改訂の位置づけが見えやすくなります。
| 版 | 公開 | 性質 | 主な変更 |
|---|---|---|---|
| ver.1.0 | 2022年12月 | 初版 | DXリテラシー標準+DX推進スキル標準の統合公開 |
| ver.1.1 | 2023年8月 | 追記 | 生成AI関連の補記追加 |
| ver.1.2 | 2024年7月 | 追記 | 生成AI行動例の追加、スキルチェックリスト反映 |
| ver.2.0 | 2026年4月 | 再設計 | 類型新設、ロール再定義、カテゴリー構造見直し |
ver.1.1/1.2が表に追記を重ねる「差分追加型」の改訂だったのに対し、ver.2.0は類型(大分類)そのものを増減させ、ロール(中分類)の名称や粒度を組み替え、共通スキルリストのサブカテゴリー構造まで見直す「再設計型」の改訂です。
骨組みを書き換えるレベルの変更が入った理由は、改訂履歴の記述にも明示されています。生成AIの活用が進む中で「AIに学習させるデータの収集・整備・管理の重要性」が急速に高まったにもかかわらず、ver.1系ではこれを担う役割をDSSの枠組みの中に定義できていなかった──これが、類型新設に踏み切った直接の動機です。追記では補えない構造的欠落だったため、メジャーバージョンアップという形を取るしかなかった、ということになります。
ver.2.0が描く「6類型17ロール」の全体像
再設計の結果、ver.2.0のDX推進スキル標準は以下の6類型17ロールで構成されることになりました。
| 類型 | ロール数 | 所属ロール |
|---|---|---|
| ビジネスアーキテクト | 3 | ビジネスアーキテクト/ビジネスアナリスト/プロダクトマネージャー |
| デザイナー | 3 | サービスデザイナー/UX/UIデザイナー/コミュニケーションデザイナー |
| データサイエンティスト | 2 | データビジネスストラテジスト/データサイエンスプロフェッショナル |
| データマネジメント(新設) | 3 | データスチュワード/データエンジニア/データアーキテクト |
| ソフトウェアエンジニア | 4 | フロントエンド/バックエンド/クラウドエンジニア・SRE/フィジカルコンピューティング |
| サイバーセキュリティ | 2 | サイバーセキュリティマネージャー/サイバーセキュリティエンジニア |
この17ロールという粒度は、組織が「DXを推進するには結局どんな人材を何人ずつ集めればいいのか」という問いに、具体的な輪郭を与えるために設計されたものです。次章以降では、この17ロール体系の中で特に改訂インパクトが大きかった部分──データマネジメント類型の新設、ビジネスアーキテクト類型の刷新、コミュニケーションデザイナーの登場──を順に掘り下げていきます。
データマネジメント類型の3ロール、その使い分けの論理
ver.2.0の最大の変更点であるデータマネジメント類型には、3つのロール──データスチュワード/データエンジニア/データアーキテクトが配置されました。名前だけ見ると近接しているように感じますが、PDF本体を読み込むと、それぞれが担う層(レイヤー)が明確に異なっていることがわかります。
それぞれのロールが立つ「階層」
DSS本体では、3ロールの関係を次のように整理しています。
- データスチュワード:事業ドメイン知識をベースに、データの品質・信頼性・安全性の確保を現場で担う役割。事業部門へのマネジメントの浸透・定着を推進するため、事業ドメインスキルが特に求められる
- データエンジニア:異なる収集元からのデータを一貫性・整合性を持たせて統合し、利活用できる形に整備して提供する役割。データパイプラインの設計・実装が中核のため、ITスキルが特に求められる
- データアーキテクト:組織・事業全体のデータ構造や流れを俯瞰し、データライフサイクル全般を見据えたデータアーキテクチャを設計・継続的に見直す役割。事業ドメインスキルとITスキル双方の理解が求められる
これをポジショニングとして見ると、データアーキテクトが全社設計の視点、データエンジニアが実装の視点、データスチュワードが現場運用の視点という三層構造になっています。
「現場理解」「実装力」「全社設計」の三層モデル
興味深いのは、従来のデータサイエンティスト類型の中にあったデータエンジニアが、ver.2.0でデータマネジメント類型に統合されたという点です。これは単なる配置換えではなく、データエンジニアリングが「AI活用の下流工程」から「AI活用の前提を支える基盤工程」へと格上げされたことを意味します。
生成AIブーム以降、日本企業の現場で最も頻繁に聞かれた嘆きのひとつが、「データが整理されていないからAIを使わせられない」というものでした。ver.1系のDSSは、この嘆きに対する回答を持ち合わせていませんでした。ver.2.0の3ロール体制は、**「現場でデータの意味を理解する人(スチュワード)」「データを技術的に動かせる形に整える人(エンジニア)」「全社最適の絵を描く人(アーキテクト)」**という分業を明示することで、データ整備の組織的遂行を可能にしようとしているのです。
ビジネスアーキテクト類型の再定義──海外標準との接続
先行記事でも触れられていたビジネスアーキテクト類型の構造問題は、実はver.1系の利用者なら誰もが違和感を抱いていた点です。「類型名もビジネスアーキテクト、ロール名もビジネスアーキテクト」という入れ子構造は、現場で人材像を議論するときに深刻な混乱を生んでいました。
「類型名=ロール名」問題の解消
ver.2.0では、類型名はビジネスアーキテクトのまま保持しつつ、その下のロールを以下の3つに刷新しています。
- ビジネスアーキテクト(ロール):組織や事業を俯瞰し、経営戦略を全体最適の事業構造に落とし込み、変革のロードマップを立案
- ビジネスアナリスト:業務・組織・システムの分析を担い、要求の整理と実装担当者への伝達、関係者間の利害調整を実施
- プロダクトマネージャー:特定のプロダクトの責任者として、企画から構築、継続的改善、ビジネス拡大までライフサイクル全般でチーム運営を担う
国際職能体系との接続という含意
この刷新で特に注目されるのは、ビジネスアナリストとプロダクトマネージャーという国際的に通用しやすい役割名が採用された点です。とくにビジネスアナリストについては、DSS本体の補足資料で BABOK(IIBA)、The PMI Guide to Business Analysis(PMI)、ISO/IEC/IEEE 29148 が参照情報として挙げられており、国際的なビジネスアナリシス/要求定義の知識体系との接続を意識した構成になっていることがうかがえます。
DSS本体の記述でも、「海外の一般的なビジネス変革人材の中から、それぞれ異なる視点と専門性を生かし、組織に前向きな変化をもたらしながら、DXとビジネス変革を力強く推進する代表的な役割」として3ロールを定義したと明記されています。
これは、日本独自用語で閉じていたビジネス変革人材の職能定義を、国際労働市場と接続可能なボキャブラリーに開いたということを意味します。採用・転職の両サイドで、海外事例や外資系企業のジョブディスクリプションと照らし合わせやすくなり、人材の流動性を押し上げる効果が期待できます。
「ビジネスアーキテクト」と「ビジネスアナリスト」の使い分け
両者の違いは、PDF内の「活躍場面」の記述で明示されています。ビジネスアーキテクトは「部門やプロダクトを横断して戦略実現に向けた施策を全体最適で整理し、優先順位と投資対効果を可視化」する場面で、ビジネスアナリストは「部門や領域を横断した問題解決や新たなビジネスの立ち上げで、関係者間の連携だけでは施策が進まず、横断の業務分析者や調整者が必要」な場面で活躍する、と整理されています。
戦略を描く側に立つのがアーキテクト、要求を分析して実装に橋渡しするのがアナリスト、プロダクト単位で責任を持つのがプロダクトマネージャー──こう整理すると、3ロールの棲み分けは直感的に理解できるはずです。
コミュニケーションデザイナーが担う「タッチポイント統合」
改訂履歴の記述に立ち返ると、デザイナー類型ではロール「グラフィックデザイナー」が「コミュニケーションデザイナー」に見直されています。
呼称変更ではなく「守備範囲」の拡張
「グラフィックデザイナー」という旧ロール名は、造形・ビジュアル制作の専門性を強く想起させる名前でした。しかし、ver.2.0の定義を読むと、新ロールの守備範囲はそこから大きく広がっています。
DSSver.2.0におけるコミュニケーションデザイナーの責務は、「ステークホルダーやユーザーとのタッチポイントを横断し、ブランド理念とビジョンを言語化。一貫したメッセージングとビジュアル・コンテンツで製品・サービスの意義や使い方を正しく伝える体験を設計する。制作から運用まで統括し、顧客データやフィードバックを活用してコミュニケーション施策を継続的に最適化する」と定義されています。
注目すべきは、「タッチポイントを横断し」「言語化」「一貫したメッセージング」「顧客データやフィードバックを活用」「継続的に最適化」といった表現です。これらが示しているのは、造形を整える職能から、ブランド体験とコミュニケーション戦略を統合的に設計する職能への拡張です。
デジタル時代のデザイン職能とは何か
スキルマッピングの記述も、この拡張を裏付けています。コミュニケーションデザイナーには、「顧客・ユーザ/ステークホルダー理解」「価値発見・定義」「クリエイティブディレクション」のスキルにおいて、知識とともに高い実践力が求められると明示されています。
ブランド体験は、SNS投稿、プロダクトUI、メールマガジン、プレスリリース、広告クリエイティブ、店頭体験といった多様な接点(タッチポイント)の集合として立ち上がるものです。それぞれのタッチポイントを別々のデザイナーがバラバラに整えていては、ブランドとしての一貫性は保てません。コミュニケーションデザイナーは、このタッチポイント全体の一貫性を担保し、データを用いて継続的に改善していく役割として定義されたわけです。
サービスデザイナー、UX/UIデザイナーと並んで、3ロールでデジタル時代のデザイン職能を再編した構成だと読み取れます。
5. AI実装・運用とAIガバナンス、なぜ全類型に波及するのか
共通スキルリストのカテゴリー「データ整備・AI・データサイエンス活用」のサブカテゴリー「データ・AIの戦略的活用」に、ver.2.0では「AI実装・運用」と「ガバナンス体制の構築・運用」が明示的に位置づけられました。改訂履歴には、一般社団法人データサイエンティスト協会のスキルチェックリスト改訂も踏まえた対応であると記されています。
スキル項目の中身を見る
PDF本体から、それぞれのスキル項目の内容を確認しておきます。
- AI実装・運用:生成AI、AIエージェント、マルチモーダル、IoTなどのAIシステム開発を実装し、運用管理を現場定着させるスキル。学習項目例として、AIシステム運用(AutoML、MLOps、AIOps)、生成AI(開発・活用、コーディング支援、ファインチューニング)、AIエージェント、マルチモーダルAI、ナレッジ活用、インターフェース、オントロジー、IoT、ロボティクスなどが並ぶ
- ガバナンス体制の構築・運用:データ・AIの戦略的活用推進のために、法規制や倫理の下でデータとAIの品質・信頼性を保つためのスキル。学習項目例として、データガバナンス(基盤、セキュリティ/プライバシー、データ連携、アーキテクチャ設計、運用・監視)、AIガバナンス(AI倫理、ガイドライン整備、責任あるAI管理、推進・運用)などが並ぶ
全類型へ波及する重み
注目すべきは、AI実装・運用とガバナンスが共通スキルリストに位置づけられた点です。共通スキルリストは、すべての類型・ロールに横断的に適用される枠組みのため、ビジネスアーキテクトだろうとデザイナーだろうと、サイバーセキュリティエンジニアだろうと、それぞれの職種なりの水準で「AI実装・運用」と「AIガバナンス」の素養が求められるという建てつけになっています。
各ロールのスキルマップを見ると、確かにAI実装・運用の重要度(a/b/c/d)はロールによって異なるのですが、どのロールのスキル表にもAI実装・運用が記載されているという事実が、ver.2.0の思想を端的に表しています。AIは「データサイエンティストだけの特殊技能」ではなく、「DX推進に関わる全員が一定水準を備えるべき基礎教養」になった──この認識の転換が、共通スキルリストへの組み込みとして形になったわけです。
デザインマネジメント実践──全ビジネスパーソン素養という位置づけ
ver.2.0のもう一つの興味深い追加が、「デザインマネジメント実践スキル」です。改訂履歴には、「全てのビジネスパーソンが持つべきデザインの素養」としてこれを定義した、と明記されています。
DSS-LとDSS-Pの両方に反映された設計
参考資料部分を読むと、デザインマネジメント実践は3層構造で設計されています。
- 組織変革マネジメントスキル:業務・組織・プロセス・企業文化風土の変革に資する「デザインの考え方を用いた組織のマネジメント」──DSS-P(DX推進スキル標準)に新規追加
- プロセスマネジメントスキル:製品・サービス・ビジネスモデルの変革に資する「デザインプロセスのマネジメント」──DSS-Pに新規追加
- 基盤スキル:理解する力・構想する力・伝える力──DSS-L(DXリテラシー標準)のマインド・スタンスに反映
つまり、全ビジネスパーソンが備えるべき素養(DSS-L)と、DX推進人材が担うべき専門スキル(DSS-P)の両方に、デザインマネジメント実践の考え方を組み込んだ構成です。
「デザイン思考/アジャイル」の包含と拡張
参考資料の記述で印象的なのは、「デザインマネジメント実践は、デザイン思考/アジャイルな働き方を包含している」という補足です。つまり、デザイン思考という知識を持つだけで終わらせず、一人ひとりが実践につなげることに重きを置くことを強調するため、表題を「デザイン思考/アジャイルな働き方」から「デザインマネジメント実践」へ変更した、という意図が明示されています。
VUCAと呼ばれる不確実性の高い時代における変革の実行力は、「顧客を中心に考える」「トライ&エラーで仮説検証を繰り返す」「サイロを越えて知と知を融合する」といった、デザインアプローチに源流を持つ実践知にかかっている──そういう認識が、DSS全体の通奏低音として流れ込んでいるのです。
キャリア戦略として読む:あなたは「AIを使う側」か、「AIに使わせる側」か
ここまでDSSver.2.0の構造を解きほぐしてきましたが、最後に個人のキャリア戦略という視点からこの文書を読み直したいと思います。
「使う側」と「使わせる側」の非対称性
先行記事のリードにあった「AIを使う人とAIに使わせるデータを整える人の違い」という問いかけは、実はこの文書の最も本質的な示唆を射抜いています。生成AIやAIエージェントが普及した時代においては、プロンプトを書けるスキル自体は急速にコモディティ化していくと予想されます。一方、組織のデータを整備し、AIが安全に扱える状態を保証する役割は、各組織のドメイン知識・法規制・事業文化と密接に結びついており、外部から簡単に置き換えられない職能として残ります。
この非対称性が、ver.2.0がデータマネジメント類型を新設した底流にある時代認識だと、筆者は受け止めています。
6類型17ロールを「キャリアの羅針盤」として使う
ver.2.0の6類型17ロールは、日本の就業文化では馴染みのないジョブ型的な枠組みです。だからこそ、個人が自分のキャリアをどの類型・ロールに照らして伸ばすのかという問いを立てるための、使える道具になります。
- 事業の現場理解が強く、AI活用の仕組みを現場に根付かせる仕事に惹かれる人→データスチュワード
- コードを書きパイプラインを動かすのが好きで、抽象的な構造を具体的な技術で実装したい人→データエンジニア
- 全社を俯瞰した仕組みづくりや、長期的なアーキテクチャ設計に情熱を感じる人→データアーキテクト
- 経営の意図をビジネス構造に落とし込み、ロードマップで変革を牽引したい人→ビジネスアーキテクト
- 業務分析と利害調整で、プロジェクトの流れを作ることにやりがいを感じる人→ビジネスアナリスト
- プロダクト単位で成果責任を持ち、グロースまで面倒を見たい人→プロダクトマネージャー
- タッチポイント全体を束ねて、ブランド体験を統合的に設計したい人→コミュニケーションデザイナー
類型・ロールは互いに排他的ではなく、得意領域を中核としながら徐々に複数のロールを担えるようになっていくことが、本書自体でもキャリアアップ像として提示されています。
「スキルプラットフォーム」との組み合わせ
IPAが構築を進めているデジタル人材スキルプラットフォームは、個人が持つスキル情報を蓄積・可視化する仕組みとして設計されています。マナビDXで学習コンテンツとの紐付けも進んでおり、DSSver.2.0で定義された類型・ロール・スキルを土台に、個人の現在地と目指す先を見える化する環境が整いつつあるというのが現状です。
この環境整備によって、人材育成の文脈では組織と個人のスキル・ギャップを客観的に議論できるようになり、企業の採用・育成の判断精度も、個人のキャリア選択の解像度も、どちらも高まっていくことが期待されます。
「データを整える人」が主役の時代へ
DSSver.2.0の147ページは、単なるスキルリストの技術文書ではありません。AIエージェント時代の到来を見据えた、日本のDX推進の人材戦略ドキュメントとして読むべき文書です。
データマネジメント類型の新設が象徴する通り、次の10年で代替不能な価値を発揮するのは「AIを使える人」ではなく「AIが使えるデータと仕組みを整えられる人」であり、ビジネスアーキテクト類型の刷新が示す通り、日本の人材定義は国際労働市場との接続を意識した方向へ舵を切っています。コミュニケーションデザイナーへの転換が示す通り、デザインは造形から戦略設計へ拡張し、デザインマネジメント実践が示す通り、その素養は専門職だけでなく全ビジネスパーソンに求められるものになりました。
6類型17ロールという再設計された枠組みは、企業の人事部門や研修設計者にとっての設計図であると同時に、一人ひとりのビジネスパーソンが自らのキャリアを再設計するためのマップでもあります。次の3〜5年、あなたはこの17ロールのどこを核に据えますか。
【用語解説】
AX(AIトランスフォーメーション) AIを前提として業務・組織・ビジネスモデルを再設計していく変革の概念。DXに続く次段階の概念として、ver.2.0で正面から採用された。
類型(Category) DX推進スキル標準における役割群の大分類。ver.2.0ではビジネスアーキテクト/デザイナー/データサイエンティスト/データマネジメント/ソフトウェアエンジニア/サイバーセキュリティの6類型で構成される。
ロール(Role) 類型をさらに細分化した個別の役割。ver.2.0では計17ロールが定義されている。
データスチュワード 事業ドメイン知識に基づき、データの品質・信頼性・安全性の確保に向けた運用を担う役割。事業部門・現場組織へのデータマネジメントの浸透・定着を推進する。
データエンジニア 異なる収集元からのデータを一貫性・整合性を持たせて統合し、利活用できる形に整備して提供する役割。ver.2.0でデータマネジメント類型に統合された。
データアーキテクト 組織・事業全体のデータ構造や流れを俯瞰し、データライフサイクル全般を見据えたデータアーキテクチャの設計と継続的な見直しを担う役割。全社横断的なデータ利活用とガバナンスの両立を実現する。
ビジネスアナリスト プロダクトやプログラムにおける業務・組織・システムの分析を担い、要求の整理と実装担当者への伝達、関係者間の利害調整を行う役割。IIBAのBABOKで体系化された国際的な職能定義と接続している。
プロダクトマネージャー 特定のプロダクトの責任者として、企画から構築、継続的改善、ビジネス拡大までライフサイクル全般でチーム運営を担う役割。北米テック企業を中心に標準化された国際的なロール。
コミュニケーションデザイナー タッチポイントを横断し、ブランド理念とビジョンを言語化し、一貫したメッセージングで体験を設計する役割。ver.2.0でグラフィックデザイナーから領域を見直して定義された。
AI実装・運用 生成AI、AIエージェント、マルチモーダル、IoTなどのAIシステム開発を実装し、運用管理を現場定着させるスキル。AutoML、MLOps、AIOps、ファインチューニングなどが学習項目に含まれる。
AIガバナンス AI倫理、ガイドライン整備、責任あるAIの管理・推進・運用を扱う領域。ver.2.0で共通スキルリストに位置づけられた。
デザインマネジメント実践スキル 多様な関係者の連携や共創をデザインの素養をベースに促進するスキル領域。「デザイン思考/アジャイルな働き方」を包含しつつ、実践につなげる意図を強調するため名称を変更し、DSS-LとDSS-Pの両方に反映された。
DSS-L/DSS-P DSS-LはDXリテラシー標準(全ビジネスパーソン対象)、DSS-PはDX推進スキル標準(DX推進人材対象)の略称。
マナビDX IPAが運営するデジタル人材育成ポータル。DX推進スキル標準に紐づけられた学習コンテンツを検索できる。
デジタル人材スキルプラットフォーム IPAが構築を進めている、個人のスキル情報を蓄積・可視化する仕組み。DSSに紐付けて活用される。
【参考リンク】
デジタルスキル標準ver.2.0 本体PDF(外部/PDF) 経産省が公開したDSSver.2.0本体資料。全147ページで4部構成、各類型・ロールの詳細が掲載されている。
デジタルスキル標準ver.2.0を公表します(外部) 経済産業省のプレスリリース。改訂の背景と4つのポイントが整理されている。
IPA デジタルスキル標準(外部) IPAによる公式ページ。リテラシー標準、推進スキル標準、FAQなどを掲載。
マナビDX(外部) IPA運営のデジタル人材育成ポータル。DX推進スキル標準に紐づけられた学習コンテンツを検索できる。
一般社団法人データサイエンティスト協会(外部) AI実装・運用、AIガバナンスのスキル追加で参照元となった専門家コミュニティの公式サイト。
【参考動画】
【関連記事】
デジタルスキル標準ver.2.0公表|経産省・IPAがデータマネジメント類型を新設、AX時代のスキル再編 本稿の元となる速報解説記事。改訂の骨子と「データを整える役割」の重要性を整理。
Google AI Professional Certificate提供開始、AI人材不足の解消へ — Walmart、Deloitteなど大手企業が採用 民間側のAI人材育成プログラムの動き。政府主導のスキル標準と対をなす、米国の民間資格アプローチを紹介。
AIがミスをしたら誰のせい? 経済産業省「民事責任の手引き」を読み解く 同じ経済産業省が公表した別の政策文書の解説。AI時代の制度整備の全体像を、人材育成と法的責任の両面から把握できる。
スタンフォード大学とMIT共同研究:生成AIがカスタマーサポート業務の生産性を15%向上、新人の離職率40%減 AIが労働者のスキル習得に与える影響を実証した研究。スキル標準の議論を、現場の生産性データから補完できる視点を提供。
【編集部後記】
深掘りを進めながら、筆者の頭に繰り返し浮かんだ問いがあります。それは、「データを整える仕事は、これまで日本企業でどうして軽視されてきたのか」という問いでした。
データスチュワードもデータアーキテクトも、どちらも地味です。派手なAIモデルを構築するわけでも、華やかなプロダクトを世に出すわけでもありません。でも、このレイヤーが崩れていると、上に乗るAIもプロダクトも結局うまく動かない──多くの企業がそれを、生成AIブームの過熱と失望を経て身をもって学んだはずです。
DSSver.2.0がこの役割を公式に類型として格上げしたことは、長い間「見えない仕事」だったデータ整備に、国レベルで光を当てる宣言に近いものだと感じています。みなさんの組織では、データを整える仕事は今どう位置づけられているでしょうか。そして、みなさんご自身は、これからの10年で「使う側」に立つのか、「整える側」に立つのか。SNSでぜひ意見を聞かせてください。一緒に考えていけたらうれしいです。











