スタンフォード大学とMIT共同研究:生成AIがカスタマーサポート業務の生産性を15%向上、新人の離職率40%減 – 世界初の大規模実証研究

 - innovaTopia - (イノベトピア)

スタンフォード大学とMITの研究チームが、カスタマーサポート業務におけるジェネレーティブAIの実践的な導入効果を分析した世界初の大規模な実証研究の結果を2024年11月に発表しました。

研究概要:
・対象:5,172人のカスタマーサポートスタッフ
・期間:2019年9月から2021年6月
・データ:約300万件のチャット会話
・研究手法:GPTベースのAIアシスタントの段階的導入による比較分析

主な研究結果:
1. 生産性への影響
– 1時間あたりの問題解決数が平均15%向上
– チャット処理時間が8.5%短縮(43分から35分へ)
– 1時間あたりのチャット処理数が15%増加

2. スキルレベルによる効果の違い
– 経験の浅い/スキルの低いスタッフ:生産性30%向上
– 熟練スタッフ:生産性向上はわずか

3. 品質指標への影響
– 問題解決率が1.3%向上
– 顧客満足度は大きな変化なし
– 顧客の感情的反応が改善(センチメントスコアが0.18ポイント向上)

4. 従業員への影響
– 新人の離職率が40%減少
– マネージャーへのエスカレーション要求が25%減少
– 非英語圏のスタッフの英語力が向上

from: Generative AI at Work

【編集部解説】

この研究は、生成AIの実践的な導入効果を大規模に検証した世界初の実証研究として、非常に重要な意味を持っています。

特に注目すべきは、AIが「人間を置き換える」のではなく「人間の成長を加速させる」ツールとして機能する可能性を示した点です。これまでのIT導入では、高スキル労働者の生産性をより向上させる「スキル偏向的技術進歩」が観察されてきましたが、今回の研究では、むしろ経験の浅い従業員やスキルの低い従業員の方が大きな恩恵を受けていることが明らかになりました。

この結果は、生成AIが「暗黙知」を学習・伝達できることを示唆しています。熟練者の対応パターンをAIが学習し、それを経験の浅い従業員に提案することで、従来なら時間をかけて習得するしかなかったスキルの早期獲得を支援できる可能性があります。

一方で、懸念すべき点も明らかになっています。熟練従業員がAIの提案に依存しすぎることで、独自の創造的な解決策を考え出さなくなる可能性が指摘されています。これは長期的には、AIの学習データの質の低下につながりかねません。

日本企業への示唆としては、新入社員研修やOJTにおけるAI活用の可能性が挙げられます。特に、ベテラン従業員の暗黙知の継承が課題となっている業界では、生成AIを活用した新しい人材育成モデルを検討する価値があるでしょう。

 

【編集部追記】

この研究で示されたAIの効果は、以下のように例えることができます:
– 熟練した先輩社員が常に隣で助言してくれるような状態
– カーナビのように、最適な選択肢を提示してくれる存在

今回、紹介した研究は第三次AIブームから盛んに取りざたされていて、現在でも議論の種となっている「AIが人間の仕事を奪うのか」「AIが人間のように仕事をする日が来るのか」「AIにできて人間にできない仕事とは何か」という、問題に対する一つの回答を「3年近くの検証期間と5000人規模の標本と数百万規模のチャット履歴」の膨大なデータをもとに提示した、ある種私たちのAI観のブレイクスルーとなる重要な論文の一つであると考えることができるでしょう。

編集部として特に興味深いことは「新人や経験の浅いスタッフの能力は質と量ともに上昇したが、熟練したスタッフの仕事の質は若干の低下が見られた」ことです。これは熟練したスタッフはAIよりも独創的な方法論や言語化できない独自のノウハウによって仕事をこなしていることを示唆します。

現在日本では若者の離職率はたびたび問題視されており、また若者の多くはライフワークバランスの観点から昇進を拒んでいるという世論がある中で、生成AIを活用した業務は新人の離職率を下げてAIがマネージャー職へのエスカレーションを減少させてくれるという結果から鑑みるに、今後日本社会においてAI活用は社会問題解決の糸口になる強い可能性が示唆されたと思います。

最後に所感になりますが、新人や経験の浅いスタッフと異なり、熟練者の教育のためには企業ごとに熟練者の独自のノウハウを蓄積する必要が今回の研究では示唆されたと思います。独創的な手法や発想自体を生み出す方法論や熟練者の持つ独自の感覚については、まだAIにとっても課題ではあるようです。

【用語解説】

ジェネレーティブAI
ChatGPTのような、新しいコンテンツを生成できるAI。従来のAIが定型的な判断や分類を得意としたのに対し、人間のような創造的な出力が可能。

暗黙知
言葉や文章で表現することが難しい知識やスキル。例えば自転車の乗り方のように、「体で覚える」技能。

【参考リンク】

  1. OpenAI(外部)
    ChatGPTを開発した企業。大規模言語モデルの開発をリード。
  2. スタンフォード大学 人工知能研究所(外部)
    AIの研究開発をリードする研究機関。
  3. 参考論文https://arxiv.org/pdf/2304.11771 

今後「社会におけるAI活用の効果」について最新の海外論文をサーベイしていくことで、日本語圏におけるAI活用やビジネスパーソンのAI観の変革を目指した、速報をお届けします。続報をお待ちください。

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