「体験」が「確信」に変わる場所——第6回 XR・メタバース総合展 夏 現地レポート

第6回 XR・メタバース総合展 夏 (公式サイト)
https://www.xr-fair.jp/hub/ja-jp.html

今年も東京ビッグサイトを舞台に、「第6回 XR・メタバース総合展 夏」が開催されました。XR(VR・AR・MR技術の総称)とメタバース関連の製品・サービスが集結する日本最大級の専門展です。

来場者の27.7%が部長クラス以上(2025年夏展実績)という数字が示すとおり、この場はすでに「技術見学」から「意思決定の準備」の場へと変わりつつあります。

本稿では、筆者が実際に足を運んで体験した5社のブースを中心に、展示の内容と現場で感じたことをレポートします。また、会場全体から読み取れる業界動向と、編集部として感じたことをあわせてお伝えします。

株式会社インテック

株式会社インテック

出展社情報(公式サイト)

公式サイト
https://www.intec.co.jp/

ソリューション/プロダクト

TISインテックグループの株式会社インテックが展示していたのは、米PROTO Inc.が開発するAI搭載ホログラフィック通信プラットフォーム「PROTO」です。インテックは国内販売ライセンス保持企業として、機器調達から設置、コンテンツ作成、運用保守まで一貫して支援する体制を整えています。

縦190cm相当のディスプレイを持つ「THE LUMA」と、小型卓上サイズの「THE M2」の2機種を取り扱っており、いずれもゴーグルやヘッドセットなしで映像をホログラム風に立体視できるのが特徴です。

解決する課題

遠隔地にいる人物を「等身大のホログラム」として現場に呼び込み、対面に近い体験を実現します。海外にいる役員や著名人が会場に「ホログラムで登壇」してスピーチを行うことも可能で、移動コストの削減と臨場感の両立を目指しています。また、AIアバターとの組み合わせにより、窓口・接客・案内といった業務への応用も広がっています。

活用技術と強み

AIアバターによる対話、マルチリンガル対応(多言語自動翻訳)、リアルなリップシンク・アイシンクによる自然なコミュニケーション体験が特徴です。裸眼で複数人が同時体験できる点が、従来のXRデバイスとの大きな差別化ポイントといえます。

導入実績としては、2024年末に山形銀行との共同実証実験を実施しており、AIアバター行員による接客で「対面と同等の親しみ・安心感」が得られたという結果が報告されています。2026年4月にはソフトバンクとの販売協力契約を締結し、法人向けの提案から導入まで分担する体制を整えました。

ブースでは来場者が実際にホログラムとして撮影され、等身大の自分が空間に浮かび上がるデモが行われていました。筆者自身も体験しましたが、「自分がホログラムになる」という感覚は想像以上に強烈なものでした。

筆者が現地で実際に体験した動画です。

ゴーグルもヘッドセットも不要で、その場にいる複数人が同時に体験できるという手軽さは、XRの「入口」として機能する可能性を強く感じさせます。「未来の技術」という表現が似合わない、いま現場に入れる技術として着実に歩んでいる印象を受けました。

株式会社ソリッドレイ研究所

株式会社ソリッドレイ研究所

出展社情報(公式サイト)

公式サイト
https://www.solidray.co.jp/

ソリューション/プロダクト

産業向けVRの老舗として知られる横浜の企業です。今回の展示は、プロジェクションマッピングを活用した空間イマーシブ体験に軸を置いていました。壁面や床面への投影によって周囲の環境そのものが書き換えられ、XRデバイスを装着することなく「空間ごと没入する」体験を提供しています。

解決する課題

ヘッドセット型のXRデバイスは装着の手間や不快感が普及の障壁になることがありますが、プロジェクションマッピングを用いた空間イマーシブ体験は、その場にいる全員が同時に体験できます。教育・訓練・空間提案といったビジネス用途において、より幅広い参加者に没入体験を届けられる点が強みです。

活用技術と強み

国内での研究開発に継続的に投資しており、イマーシブ技術の自社開発力を持つ数少ない企業のひとつです。「デバイスを使わずに空間を変える」というアプローチは、エンターテインメント用途にとどまらず、製造業や建設業の空間シミュレーションにも応用が利きます。ブースではパンフレットも配布されており、本社(横浜)での体験を広く案内しています。

会場でのプロジェクションマッピング体験は、ひとことで言えば「分かりやすかった」というものです。XRという言葉の難しさとは裏腹に、「空間がそのまま変わる」体験は技術に詳しくない来場者にも直感的に伝わります。派手さより没入感の質を重視した設計であることが、ブース全体から伝わってきました。XRデバイスに依存しないイマーシブ技術の可能性として、今後さらに注目したい企業のひとつです。

PICO

公式サイト
https://www.picoxr.com/jp

ソリューション/プロダクト

VRヘッドセット「PICO 4 Ultra」と、全身トラッキングを実現するアクセサリ「PICO Motion Tracker」を展示していました。

ヘッドセットとモーショントラッカーを組み合わせることで、フルボディトラッキング(全身の動きをVR空間に反映するいわゆる「フルトラ」)が実現できます。

解決する課題

VRでのフルトラッキングはこれまで「高い・難しい」というイメージが強く、専用のスーツや多数のセンサーを必要とするシステムが中心でした。PICOは本体とモーショントラッカーを合わせてもおよそ11万円前後という価格帯で、この体験をコンシューマー向けに開放しています。

活用技術と強み

「PICO 4 Ultra」はMR(複合現実)技術とトラッキング技術の進化を取り込み、手軽さと没入感の両立を訴求しています。VRChat用途でのフルトラッキングはユーザー層の間で長年「やってみたいが敷居が高い」と言われ続けてきた機能であり、この価格帯への降下は市場に対してインパクトのあるメッセージを発しています。産業用途としてのモーションキャプチャ代替という観点でも、価格の現実感は評価に値します。。

ブースで印象的だったのは、展示担当者が価格について非常に熱心に語っていた点です。「11万円台でPICO本体もフルトラも揃う。個人ユーザーならこれで充分です」という言葉は、技術仕様の説明よりも先に出てきました。

この訴求の仕方には、現在のXR市場が抱える課題がよく表れているように思います。フルボディトラッキングはVRChatユーザーの間で長年「いつかやりたい」機能の筆頭でしたが、実現するには高価な外部センサーや複雑なセットアップが必要で、多くの個人ユーザーには現実的な選択肢ではありませんでした。それが11万円台というコンシューマー価格帯に降りてきた。技術的な進歩よりも、この「届く価格になった」という事実のほうが、市場へのインパクトとしては大きいかもしれません。

フルトラを体験できる環境が個人レベルで整うことは、VRChat上の表現の幅を広げるだけでなく、アバターを使った身体表現やパフォーマンスといった新しい創作活動の裾野を広げることにもつながります。「個人勢ならこれで充分」という一言は、PICOがプロや法人ではなく、熱量のある個人ユーザーを明確にターゲットに据えていることを示していました。

XREAL

公式サイト
https://www.xreal.com/jp/

ソリューション/プロダクト

今回のXREALブースで最も前面に押し出されていたのは、ASUSのゲーミングブランドROG(Republic of Gamers)との共同開発製品「ROG XREAL R1」です。本展の直前である6月15日に国内発表会が行われたばかりで、ブースの熱量もそのままでした。

世界初となる240Hz対応マイクロOLEDゲーミングARグラスで、最大171インチ相当の仮想スクリーン、応答速度0.01ms、BOSEによるサウンドチューニングを搭載しています。価格は14万1550円(税込)からで、ROG Allyとのシームレスな連携も特徴です。

解決する課題

ARグラスでのゲーミング体験において、「遅延」「画質」「音質」という三つの課題を同時に解消しています。移動中でも画面を空間に固定できる「アンカーモード」により、新幹線や飛行機の中でも没入感のある大画面ゲームプレイが可能になります。

活用技術と強み

XREAL独自開発の「X1チップ」により、ネイティブな3DoFサポートと2D映像のリアルタイム3D変換を実現しています。エコシステムとしての広がりも注目点で、秋にはGoogleとの協業によるフラグシップモデル「XREAL AURA」(Android XR対応)のリリースも控えています。XREALは今年を「プロダクト大豊作の年」と表現しており、コンシューマー向けARグラスの覇権争いが具体的な製品と価格を伴った段階に入ったことを示しています。

ROGとの提携が示すのは、ARグラスが「スマートフォンの付属品」から「ゲーミングエコシステムの中核」へと位置づけを変えようとしているということです。ゲーミングブランドとの協業、BOSEのサウンド、価格帯の明確化——これらは「誰に向けて売るか」が明確になってきた証左でもあります。ブースの人だかりも、その関心の高さをそのまま反映していました。

VR Chat関連展示

公式Xアカウント
https://x.com/VRChat_JP?s=20

感想

会場の一角で、VRChatを軸にした研究・開発展示と思いがけず長い時間を過ごしました。なかでも印象に残ったのが、ガウシアンスプラッティング(3D Gaussian Splatting)技術を活用した展示です。現実空間を高精度な3Dデータとしてリアルタイムに再現するこの技術は、VRChatのワールド制作に新たな表現の次元を開きつつあります。

ネット上ではVRChat周辺のネガティブなニュースが目立つこともあります。しかし会場で実際に研究者や開発者と話すと、国内外を問わず真剣に取り組んでいる人たちの厚みが実感できました。ソーシャルVRの「今」を形成しているのは、バイラルな話題ではなく、こうした地道な技術の積み上げです。その事実を、今回の展示ははっきりと示していました。

業界動向——二つの論理が走る、ひとつの会場

今回の展示会を歩いて感じたのは、XR市場が実質的に「二つの論理」で動いているということです。

一方は、産業・業務用途のXRです。インテックのPROTOや、特別企画エリア「∞ mugen(ムゲン)」に参画するキヤノン・シーメンス・NTTコノキューデバイスがここに属します。このカテゴリーの判断軸は「ROIが出るか」であり、導入決定は慎重になりがちですが、一度業務フローに組み込まれれば代替が難しいインフラになります。ソリッドレイ研究所が手がける空間イマーシブ技術も、教育・訓練・空間提案という業務文脈で評価される技術です。

もう一方は、コンシューマー・クリエイター向けXRです。XREAL・PICO・VRChat周辺がここに属します。判断軸は「使いたいか」「これでできることが広がるか」であり、価格と体験の質が直接購買に結びつきます。ROG XREAL R1の14万円台という価格も、PICOのフルトラ11万円台も、「手が届く」かどうかのリアルな検討対象として来場者に受け取られていました。

市場データを重ねると、IDCは2025〜2029年のスマートグラス市場のCAGR(年平均成長率)を29.3%と予測しており、MR/VRヘッドセットの出荷減少とは対照的な成長曲線を描いています。XR全体の2026〜2030年のCAGRは26.5%と見込まれ、その牽引役はグラス型デバイスです。

注目すべきは、この二つの市場が互いに交差し始めているという点です。PICOのフルトラ技術は産業用モーションキャプチャへの転用が利きますし、ガウシアンスプラッティングは製造業のデジタルツイン構築にも応用が効きます。「コンシューマーで磨かれた技術が産業に流れ込む」という構図は、XR市場に限らず技術普及の王道です。今回の会場には、その流れがすでに始まっていることが随所に感じられました。

【編集部後記】

昨年と比べて、これほど変わるものかと思う場面が何度もありました。ホログラムの中に自分が立つ体験も、11万円台でフルボディトラッキングが実現できるという事実も、一年前には想像しにくかった光景です。

今回の取材を通じて印象的だったのは、ハードウェア側の進化が現行モデルで技術的な天井に近づきつつある一方、AIをはじめとしたソフトウェア側の発展は青天井だという見立てです。デバイスの性能競争が落ち着いた先に何が生まれるのか——その問いが、会場を歩くあいだずっと頭の片隅にありました。

XRとIP・コンテンツ系の展示会が同時開催である理由も、改めて腑に落ちました。技術を作る側と、その技術で何かを表現しようとするクリエイターや企業が同じ会場に集まっている。ブースの前に立つと、その熱量は言葉よりも先に伝わってきます。この構図自体が、XRが次のフェーズに入ったことを示しているように思います。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。