ランボルギーニの新しいアプリは、新型車の初お披露目に、モーターショーの舞台ではなくApple Vision Proのヘッドセットを選びました。その参加条件は、ヘッドセットを持っているかどうかという、これまでとは違う基準に置き換わっています。この采配は、これから何を変えていくのでしょうか。
ランボルギーニ(Automobili Lamborghini)は2026年7月7日、Apple Vision Pro向け公式アプリ「Lamborghini」を発表した。現行モデルのTemerario、Revuelto、Urus SE、Urus SE Performanteを収録し、実寸大の車両を自室に配置する「Shared Space」と、独自設計の仮想空間で鑑賞する「Full Immersion」の2モードを提供する。
内装や空力、ハイブリッド構造を可視化でき、Spatial Audioでエンジン音も再現する。Urus SE Performanteは英グッドウッドでの実車公開に先立ちデジタルで初公開された。アプリはApp Storeで提供される。
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Automobili Lamborghini Unveils the Official Lamborghini App for Apple Vision Pro
【編集部解説】
ランボルギーニがApple Vision Pro向けアプリを出したこと自体は、業界内で驚くべき話ではありません。同じくVW傘下のポルシェは2024年からこのプラットフォームで複数の用途を試しており、Vision Proと自動車ブランドの組み合わせにはすでに前例が積み上がっています。
今回の発表で実質的に注目すべき点は、アプリの機能そのものよりも、Urus SE Performanteという新型車が、実車としての披露の場である英グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに先立って、Vision Pro上でデジタルとして先に公開されたという順序にあります。
ポルシェのVision Pro活用は用途ごとに性格が異なります。「911 Spirit 70」アプリは色や素材を選んで愛車を仕立てるコンフィギュレーターとして設計されており、レースエンジニア向けには走行データを可視化する業務ツールが、工場の現場向けには訓練用アプリケーションが、それぞれ別の目的で用意されてきました。一方、ランボルギーニのアプリにはカラーやオプションを選ぶ購入導線が存在しません。搭載されているのは、デザインの成り立ちやエンジニアリングの背景をたどらせる、ドキュメンタリー的な解説体験です。
この違いは小さくありません。ポルシェの用途は、すでに存在する車、あるいはすでに決まった仕様を「見せる・売る・整備する」ための道具です。対してランボルギーニは、まだ実車が世に出ていない段階の車そのものを、Vision Pro経由で先に見せるという使い方をしています。従来、新型車の披露は物理的なイベントを起点にしており、そこへの参加権はメディアの取材枠や会場の招待によって決まっていました。今回の采配は、その参加権を「ヘッドセットを持っているかどうか」という別の基準に置き換えたことを意味します。
ただし、この「先出し公開の場」がどれほど広い読者に開かれているかについては、慎重に見る必要があります。Vision Proの普及は、2024年の発売以来ずっと苦戦が伝えられてきました。IDCの調査では、米国での発売後最初の四半期の販売台数は10万台に届かず、続く四半期の国内販売は75%減少するとの見通しが示されています。アプリの生態系についても、2024年9月時点で利用可能なアプリは約1770本にとどまり、そのうちvisionOS専用に開発されたものは34%にすぎないと報じられています。つまり「先出し公開」を体験できる母数自体が、まだかなり限られているということです。
日本については、Vision Proは2024年6月28日から発売されています。発売時点の価格は59万9800円からと報じられており、体験できる層は限られます。なお、ランボルギーニのアプリが日本のApple Storeアカウントでも利用可能かどうかは、今回のプレスリリースには明記がなく、確認できていません。
この采配が今後の恒常的な発表様式になるのか、それともグッドウッドの日程に合わせた一回限りの仕掛けだったのかは、この事例だけでは判断できません。はっきりしているのは、今回のニュースの核心が空間コンピューティングという技術そのものではなく、新型車の情報をどの順番で、誰に対して開放するかという発表設計の側にある、という点です。
【関連記事】
Apple vs. Meta─ティム・クックCEOが挑む「空間コンピューティング覇権戦争」
IDC調査によるVision Pro販売台数の苦戦とキャズム理論での分析。今回の記事の「普及の障壁」に関する記述と同じデータ系統を、Metaとの競争構図も含めたより広い視点から論じている。
Apple Vision Pro戦略を大転換|AI搭載スマートグラスを前倒し開発、Meta Ray-Banに対抗
2025年10月時点の続報。Vision Pro単体での普及策から、スマートグラスへの戦略転換に至る経緯を報じており、今回の記事より新しい普及状況のアップデートとして読める。
【編集部後記】
限られた所有者だけが先に触れられる公開手法は、新型車発表という儀式の一部を静かに書き換えています。これまで、実車を最初に見る権利はメディアの取材枠や会場の招待によって決まっていました。
その基準が、ヘッドセットを持っているかどうかという、まったく別の条件に置き換わろうとしています。ポルシェとランボルギーニという2つの事例を並べてみると、同じ技術でも使い方の思想がまったく異なることが見えてきます。この采配が自動車業界全体に広がる兆しなのかもしれません。
【用語解説】
空間コンピューティング(Spatial Computing):デジタルコンテンツを現実空間にシームレスに融合させる技術。Apple Vision Proが採用する中核概念で、平面の画面ではなく3次元の空間全体を操作対象とする。
Shared Space / Full Immersion:ランボルギーニアプリが提供する2つの表示モード。前者はデジタルの車両を自室など現実の環境に配置する方式、後者はランボルギーニが設計した完全デジタルの環境内で車両を鑑賞する方式。
Spatial Audio:音源の位置を立体的に再現する音響技術。今回のアプリでは、ユーザーが車両の周りを移動すると、エンジン音が現実空間と同じように変化して聞こえる形で使われている。
Centro Stile:ランボルギーニのデザインスタジオ(サンタガタ・ボロニェーゼ本社内)。アプリ内では、ここに所属するデザイナーの解説とともに、モデルのデザインモチーフを紹介するコンテンツが提供されている。
スペースフレーム:車体の骨格を構成する構造形式の一つ。衝突安全性と軽量性を両立させる設計で、アプリ内ではボディを透過して内部構造を確認できるコンテンツとして扱われている。
HPEV(High Performance Electrified Vehicle):ランボルギーニが自社のハイブリッドフラッグシップ(Revuelto等)に用いる独自呼称。高出力を維持しながら電動化を組み込んだモデル群を指す。
【参考リンク】
Automobili Lamborghini公式サイト(外部)
ランボルギーニ(Automobili Lamborghini)の公式サイト。モデルラインナップ、最新ニュース、正規ディーラー情報などを掲載している。
Apple Vision Pro公式ページ(外部)
Apple Vision Proの公式製品ページ。空間コンピューティングデバイスの機能、技術仕様、価格、デモ予約などの情報を提供している。
Porsche公式サイト(外部)
ポルシェの公式サイト(インターナショナル版)。モデルラインナップや同社のApple Vision Pro活用事例を含む企業情報を掲載している。
【参考記事】
Lamborghini Apple Vision Pro App Debuts Urus SE Performante Before Goodwood|Next Reality(外部)
自動車・XR分野を専門に扱うVirtual Reality Newsの記事。ランボルギーニとポルシェのVision Pro活用の違いを分析し、今回の発表順序が持つ意味を論じている。
New Apple Vision Pro app for the Porsche 911 Spirit|Porsche Newsroom(外部)
ポルシェの公式ニュースルーム記事。「911 Spirit 70」向けVision Proアプリの機能とコンフィギュレーターとしての設計を紹介している。
Apple Vision Pro、6月28日(日本時間)より新しい国と地域で販売開始|Apple Newsroom(外部)
Apple Japanの公式発表。Vision Proが2024年6月28日に日本を含む新たな国と地域で発売されたことを伝えている。
アップル、「Vision Pro」「iPhone16」の生産縮小か|Yahoo!ニュース エキスパート(小久保重信氏)(外部)
小久保重信氏によるYahoo!ニュース エキスパート記事。IDC調査に基づくVision Proの販売不振とアプリ生態系の実態、日本価格を報じている。












