Last Updated on 2025-04-25 15:33 by admin
Metaは2025年4月24日、VR/AR部門であるReality Labsの従業員100名以上を解雇した。この人員削減はOculus Studiosの複数チームに影響を与えており、VRフィットネスアプリ「Supernatural」の開発チームも含まれている。Metaの広報担当者は「Oculus Studiosの一部チームが構造と役割の変更を行っており、チームの規模に影響を与えた」と説明している。
解雇の対象となったのは、MetaのQuest VRヘッドセット向けVRコンテンツを開発するOculus Studiosの従業員と、ハードウェア部門のオペレーション担当者である。Bloombergの報道によると、Metaは「2つの異なるチームで行われている類似の作業を合理化する」ことを目的としている。解雇された従業員はMeta社内の新しい役職に応募する資格がある。
Supernatualの開発チームは公式Facebookコミュニティで、ワークアウト配信のペースは減少するものの、より多くのワークアウトに複数の強度オプションが用意されると発表した。これにより各ユーザーに適したワークアウトの数は実際には増加すると説明している。
これはMetaが買収したVRスタジオで人員削減を行うのは初めてではない。2023年には、Echo VRの開発元Ready at Dawnの多くのスタッフとOnwardの開発元Downpour Interactiveの多数のスタッフを解雇し、その後Ready at Dawnは閉鎖された。
Reality Labsは2024年第4四半期に49.7億ドル(約7,455億円)の営業損失を計上し、売上高は11億ドル(約1,650億円)だった。2020年以降、Reality Labsの累積営業損失は600億ドル(約9兆円)を超えている。
Metaは2025年2月に全社的に行った「最も成績の低い従業員」を対象とした約3,600人(全社の5%)の人員削減に続く措置となる。Metaは2025年4月24日時点で従業員数74,067人を抱えている。
Metaは2025年4月24日現在、Beat Games(Beat Saber)、Camouflaj(Iron Man VRとBatman: Arkham Shadow)、Within(Supernatural)、Sanzaru Games(Asgard’s WrathとAsgard’s Wrath 2)、BigBox VR(Population: One)、Downpour Interactive(Onward)、Armature Studio(Resident Evil 4 VR)、Twisted Pixel(Wilson’s Heart)など複数のVRスタジオを所有している。現時点では、Supernatural以外にどのスタジオが今回の人員削減の影響を受けているかは不明である。
from Meta Laid Off Employees In Some Of Its Acquired Studios Again
【編集部解説】
Metaの今回のVR/ARスタジオでの人員削減は、同社のメタバース戦略の転換点を示す重要な動きと言えるでしょう。Reality Labsは2024年第4四半期だけで49.7億ドル(約7,455億円)の損失を出し、2020年以降の累積損失は600億ドル(約9兆円)を超えています。この巨額の投資に対して、市場からの圧力が高まっていることが背景にあります。
特に注目すべきは、今回の人員削減がOculus Studiosの複数チームに影響を与えているという点です。Bloombergの報道によれば、100名以上の従業員が解雇されており、これは2025年2月に行われた「パフォーマンスの低い従業員5%(約3,600人)を削減」する全社的な人員整理に続く措置となります。
VRフィットネスアプリ「Supernatural」の開発チームへの影響は、VR市場の現状を象徴しています。Metaは2021年に約400億円を投じてSupernatural開発元のWithinを買収し、米連邦取引委員会(FTC)による独占禁止法違反の訴訟も乗り越えました。しかし、高額な買収後わずか4年で人員削減に踏み切ったことは、VRフィットネス市場の成長が当初の期待に届いていない可能性を示唆しています。
今回の再編では、「より効率的に作業する」という表現が使われていますが、これは多くの場合、コスト削減を意味します。Metaの広報担当者は「将来の複合現実体験に向けてより効率的に作業するため」と説明していますが、Reality Labsの膨大な赤字を考えると、投資家からの収益性改善圧力に応える側面が強いでしょう。
ハードウェア部門の人員削減も報告されていることから、Quest 3の販売が期待を下回っている可能性があります。一方で、Ray-Banとのコラボレーションによるスマートグラスは予想を上回る売上を記録しているとの報道もあり、Metaが軽量で日常的に使えるAR製品にシフトしている可能性も考えられます。
Meta CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は2025年を「ピボタル・イヤー(転換点の年)」と位置づけており、Reality Labs CTOのアンドリュー・ボズワース氏も2025年を「最も重要な年」と表現しています。これは、巨額投資の成果が問われる正念場であることを示唆しています。
VR/AR市場全体を見ると、Apple Vision Proの登場やSamsungの参入など競争が激化する中、Metaは戦略の見直しを迫られています。特に、完全没入型VRから、日常生活に溶け込むAR/MR(複合現実)へと重点をシフトしている傾向が見られます。
今後は、完全没入型のVRよりも、現実世界と仮想世界をシームレスに融合させるMR技術や、日常的に使用できる軽量デバイスに注目が集まる可能性があります。また、AIとの統合により、よりパーソナライズされた体験が提供される方向に進むことも予想されます。
Meta自身も、AI分野に600億〜650億ドルを投資する計画を発表しており、AIとXRの融合が次の成長エンジンになるという見方もあります。今回の人員削減は痛みを伴う決断ですが、長期的な視点では、より持続可能なXR市場の発展につながる可能性もあるでしょう。
【用語解説】
Reality Labs(リアリティ・ラボ):Metaが運営するVR/AR技術開発部門。元々はOculus VRとして知られていたが、2021年にReality Labsに改称された。VRヘッドセットQuest(クエスト)シリーズやRay-Ban Meta スマートグラスなどを開発している。2022年時点で約17,000人の従業員を抱えていた。
Oculus Studios(オキュラス・スタジオ):MetaのVRゲーム開発部門。自社開発と外部スタジオの買収を通じて、Quest向けの独占コンテンツを制作している。500億円以上の投資を行っている。
Supernatural(スーパーナチュラル):Meta Quest向けのVRフィットネスアプリ。世界中の美しい風景の中で、プロのコーチによるガイダンスを受けながら、音楽に合わせてエクササイズができる。月額サブスクリプションモデルを採用している。Metaは2021年に約400億円でWithin社を買収した。
MR(複合現実):VRとARの要素を組み合わせ、現実世界と仮想世界を融合させる技術。
【参考リンク】
Meta(外部)Meta(旧Facebook)の公式サイト。同社のビジョンや製品、サービスに関する情報を提供している。
Meta Quest(外部)MetaのVRヘッドセット「Quest」シリーズの公式サイト。最新モデルの仕様や対応アプリを案内。
Reality Labs(外部)MetaのVR/AR研究開発部門「Reality Labs」の公式サイト。最新の研究成果や技術開発の方向性を紹介。