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VR曝露療法で恐怖症・不安症治療を革新 ― Meta Quest Pro活用の最新事例:oVRcome×カンタベリー大学

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-01 16:29 by admin

ニュージーランドのカンタベリー大学(University of Canterbury, UC)は、2025年5月、クライストチャーチ発のスタートアップoVRcome(オーヴァーカム)と提携し、バーチャルリアリティ(VR)を活用した恐怖症や不安症の治療プログラムを導入した。oVRcomeは創業者アダム・ハッチンソンが率いる企業で、18種類の恐怖症(飛行機恐怖症、クモ恐怖症、高所恐怖症、スピーチ恐怖症など)に対応したVRアプリとヘッドセットを提供している。

このプログラムでは、UCの臨床心理学トレーニングの一環として、研修中の臨床心理士が患者へのVR曝露療法(VRET)を実施する。患者はVRヘッドセットを装着し、心拍数や心拍変動をリアルタイムで測定しながら治療を受ける。リラクゼーション技法も併用され、恐怖対象への自動的な恐怖反応を弱めることができる。

oVRcomeの臨床試験では、6週間のプログラムで恐怖症の重症度が平均75%減少し、その効果は3~6カ月後も持続したとの報告がある。また、社会不安障害への応用も進められており、12週時点で約35%減少し、18週時点では約50%の症状減少が報告されている。

oVRcomeは現在、30カ国以上で展開されており、アプリは英語のみだが、多言語化やパーソナライズ機能の開発も進められている。今回の提携により、UC心理学センターは最先端の治療技術を研修生が習得でき、地域社会への治療提供能力も拡大した。

from University Connects With VR To Help Treat Fears And Phobias

【編集部解説】

カンタベリー大学とoVRcomeによるVR曝露療法の取り組みは、デジタルメンタルヘルス分野の新たな潮流を示している。oVRcomeは、特定の恐怖症や社会不安障害に対し、自己管理型のバーチャルリアリティ曝露療法(VRET)と認知行動療法(CBT)を組み合わせたアプリケーションを提供している。

この技術の大きな特徴は、従来の高額なVR機器や専門施設に頼らず、比較的安価なヘッドセットとスマートフォンアプリで治療が可能な点だ。ニュージーランドでの臨床試験では、oVRcomeを6週間利用したグループで恐怖症の重症度が平均75%減少したというデータがあり、社会不安障害でも18週間で症状が平均35%減少するなど、幅広い不安症状に効果が認められている。

ポジティブな側面として、患者が自宅で自分のペースで治療を進められるため、従来の対面曝露療法に比べてハードルが低く、治療の継続率が高いことが挙げられる。また、多様な恐怖症や不安症状に対応でき、個々のニーズに合わせて曝露レベルを調整できる柔軟性も強みだ。心理士不足や医療アクセスの課題を抱える地域社会にとって、コスト効率の高い治療手段となる可能性もある。

長期的には、oVRcomeのようなデジタルメンタルヘルスツールが、医療現場の人材不足や地域格差を補完し、より多くの人が質の高い治療にアクセスできる社会の実現に寄与する可能性がある。今後は多言語化やAIによるパーソナライズ化など、さらなる技術進化が期待される。

【用語解説】

VR曝露療法(Virtual Reality Exposure Therapy, VRET)
バーチャルリアリティ技術を使い、患者が苦手とする状況や対象を仮想空間で体験し、不安や恐怖を段階的に克服する治療法。現実世界での曝露が難しい場合にも有効。心のリハビリを仮想空間で行うトレーニングジムのようなもの。

認知行動療法(CBT)
思考や行動のパターンを見直すことで、心の問題を改善する心理療法。曝露療法はCBTの一部。

カンタベリー大学(University of Canterbury, UC)
ニュージーランド南島クライストチャーチ市にある国立大学。1873年創立。心理学や工学など幅広い分野で知られる。

oVRcome(オーヴァーカム)
ニュージーランド発のスタートアップ企業。VRを用いた不安症・恐怖症向け曝露療法プラットフォームを開発・提供している。

【参考リンク】

oVRcome公式サイト(外部)VR曝露療法のプラットフォーム。恐怖症や不安症の克服をサポートするアプリやVRコンテンツを提供。

カンタベリー大学公式サイト(外部)ニュージーランド南島の国立大学。心理学や工学分野で世界的に評価されている。

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乗杉 海
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