AppleはWWDC 2025(2025年6月9日現地時間、日本時間6月10日)において、visionOS 26の新機能として「macOS Spatial Rendering」を発表した。この機能により、MacからApple Vision Proにイマーシブ体験をリアルタイムでレンダリング・ストリーミングすることが可能になる。
macOS Spatial Renderingは、MacとVision Proの連携によりワイヤレスPC VR体験を実現する技術である。ユーザーがmacOSアプリでイマーシブスペースを起動すると、Vision Proにプロンプトが表示され、承認すると自動的にリモートレンダリングが開始される仕組みとなっている。
現在、オープンソースツールのALVRがApple Vision ProをSteamVRヘッドセットとして使用することを可能にしているが、SteamVRは2020年にmacOSサポートを終了している状況である。
Apple Vision ProはM2チップを搭載しているが、M2 Pro、M2 Max、M2 Ultraはより高い性能を提供する。さらにM2シリーズはM3とM4によって置き換えられており、M3 MaxはマルチスレッドedなCPU性能で3倍、GPU性能で5倍以上、最大512GBのユニファイドメモリを提供している。
この技術により、より高品質な仮想体験のレンダリングが可能になり、特にエンタープライズ分野での活用が期待される。企業は開発中の製品やコンポーネントのフォトリアリスティックな1対1の再現をレンダリングできるようになり、Varjoなどの企業にとって重要な競争相手となる可能性がある。
開発者はSwiftUIのRemote Immersive Space構造を使用してmacOS Spatial Renderingを実装できる。また、Compositor ServicesとARKitがMacでも利用可能になり、既存のMacアプリにイマーシブ体験を追加することが可能になる。
from:macOS Spatial Rendering For Vision Pro Is Apple’s Take On PC VR | UploadVR
【編集部解説】
今回WWDC 2025で発表されたmacOS Spatial Renderingは、Apple Vision Proの可能性を劇的に拡張する技術革新です。これまでVision ProはM2チップを搭載したスタンドアロンデバイスとして動作していましたが、macOS 26(コードネーム:Tahoe)との連携により、より高性能なMacの処理能力を活用できるようになります。
この技術の核心は、MacとVision Proの間でリアルタイムレンダリングとストリーミングを行う点にあります。Apple Developer動画によると、Compositor ServicesとARKitがMacでも利用可能になり、Remote Immersive Space SwiftUI scene typeを使用して実装されます。これにより、既存のMacアプリケーションに比較的容易にイマーシブ体験を追加できる可能性があります。
特に注目すべきは、この技術がエンタープライズ市場に与える影響の大きさです。visionOS 26では新しいEnterprise APIも導入され、組織が独自の空間体験を作成できるようになります。製品設計や建築分野では、フォトリアリスティックな3Dモデルの表示や複雑なシミュレーションが求められますが、これまでのスタンドアロンVRデバイスでは処理能力の限界がありました。
M3 MaxやM4といった最新のAppleシリコンチップは、Vision ProのM2チップと比較して大幅な性能向上を実現しています。特にM3 Maxは、マルチスレッドCPU性能で3倍、GPU性能で5倍以上の向上を実現し、最大512GBのユニファイドメモリも活用可能です。この処理能力により、CADソフトウェアや3DCGアプリケーションの高品質なレンダリングをVision Proで体験できるようになります。
競合他社との比較では、Meta QuestシリーズがPC VR機能を提供している一方で、AppleはmacOSとの深い統合により差別化を図っています。特にVarjoのような高価格帯のエンタープライズVRソリューションに対して、Appleエコシステム内での統合性という強みを活かした競争優位性を築こうとしている姿勢が明確です。
技術的な観点から見ると、visionOS 26では手のトラッキングが最大3倍高速化され、PlayStation VR2 Sense controllerやLogitech Museといった空間アクセサリーのサポートも追加されています。これにより、より精密で応答性の高いインタラクションが可能になります。
長期的な視点では、この技術はAppleの将来的なAR/VRデバイス戦略の基盤となる可能性があります。より軽量なARグラスの開発において、処理の重い部分をiPhoneやMacに委ねることで、デバイス自体の小型化と高機能化を両立させる道筋が見えてきます。
また、開発者エコシステムの観点からも重要な意味を持ちます。既存のmacOSアプリケーション開発者が比較的容易にVR対応を実現できることで、Vision Pro向けのコンテンツが急速に拡充される可能性があります。これは、これまでコンテンツ不足が課題とされてきたVision Proにとって、大きな転換点となるでしょう。
【用語解説】
macOS Spatial Rendering:macOS 26で導入される新機能で、MacからApple Vision Proにイマーシブ体験をリアルタイムでレンダリング・ストリーミングする技術。Remote Immersive Space SwiftUI scene typeを使用して実装される。
Remote Immersive Space:SwiftUIの新しいシーンタイプで、macOS Spatial Renderingを実装するために使用される。MacからVision Proへのリモートレンダリングを可能にする開発者向けAPI。
visionOS 26:Apple Vision Pro向けの最新オペレーティングシステム。空間ウィジェット、強化されたPersonas、共有空間体験、macOS Spatial Renderingなどの新機能を搭載。
macOS 26 Tahoe:Appleの最新デスクトップオペレーティングシステム。visionOSにインスパイアされたデザインとVision Proとの深い統合機能を特徴とする。
Compositor Services:visionOS 26でMacでも利用可能になったフレームワーク。高性能な3Dレンダリングとコンポジティング機能を提供し、イマーシブアプリケーションの開発に使用される。
PlayStation VR2 Sense controller:visionOS 26でサポートされた空間アクセサリー。6自由度の高性能モーショントラッキング、指タッチ検出、振動サポートを提供。
【参考リンク】
Apple Vision Pro – Apple公式サイト(外部)Appleの空間コンピューティングデバイス「Vision Pro」の公式製品ページ。機能、仕様、価格などの詳細情報を提供している。
visionOS 26 introduces powerful new spatial experiences for Apple Vision Pro – Apple Newsroom(外部)Apple公式によるvisionOS 26の発表記事。空間ウィジェット、強化されたPersonas、macOS Spatial Renderingなどの新機能を詳細に解説している。
macOS Tahoe 26 makes the Mac more capable, productive, and intelligent than ever – Apple Newsroom(外部)Apple公式によるmacOS 26 Tahoeの発表記事。visionOSにインスパイアされたデザインとVision Proとの統合機能について説明している。
What’s new in visionOS 26 – WWDC25 – Apple Developer(外部)WWDC 2025でのvisionOS 26の新機能に関する開発者向けセッション動画。macOS Spatial RenderingやRemote Immersive Spaceの技術詳細を解説している。
Varjo Technologies(外部)フィンランドを拠点とするエンタープライズ向け高解像度VR/MRヘッドセットメーカー。人間の目レベルの解像度を実現する「Bionic Display」技術で知られる。
ALVR – GitHub(外部)PC VRをワイヤレスでリモートプレイできるオープンソースソフトウェア。Apple Vision ProをSteamVRヘッドセットとして使用することを可能にする。
【参考動画】
【参考記事】
visionOS 26 introduces powerful new spatial experiences for Apple Vision Pro | Apple Newsroom
Apple公式によるvisionOS 26の発表記事。Spatial Widgets、Enhanced Personas、Enterprise APIなどの新機能を詳細に解説している。
Apple Vision Pro SteamVR Support Now Available Via App | UploadVRAL
VRがApple Vision Pro向けにTestFlightで利用可能になったことを報じる記事。手のトラッキング対応やHDR出力などの技術的改善点を詳述している。
Mixed Reality Headset for Professionals – Varjo XR-4 Series
Varjo XR-4シリーズの製品ページ。28メガピクセルの高解像度ディスプレイ、120°×105°の視野角など、エンタープライズ向け最高峰のMR技術を紹介している。
【編集部後記】
今回のmacOS Spatial Renderingの発表を見て、改めてAppleの戦略の巧妙さに感嘆しています。Vision Proの発売当初、「高価すぎる」「コンテンツが少ない」といった批判もありましたが、Appleは着実に次の一手を準備していたのですね。
特に印象的なのは、既存のMacユーザーにとってVision Proが突然「使える」デバイスになる点です。PhotoshopやFinal Cut Pro、Xcodeといった日常的に使用するアプリケーションが、将来的にはVision Proの広大な仮想空間で利用できるようになる可能性を考えると、ワクワクが止まりません。
また、M3 MaxやM4の処理能力をフル活用できるという点も見逃せません。MacBook ProやMac Studioを所有している方にとって、Vision Proは単なる新しいガジェットではなく、既存の投資を最大限に活かすためのディスプレイデバイスとして位置づけられるのではないでしょうか。
個人的には、この技術がクリエイティブワークフローに与える影響に最も期待しています。3Dモデリングや映像編集を空間上で行える日が、思っていたよりも早く訪れそうです。Appleエコシステムの真価が問われる、まさに正念場の機能と言えるでしょう。
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