TF International Securitiesのサプライチェーンアナリストで10年以上Apple関連予測を続けるMing-Chi Kuoが、Appleのヘッドセットとグラス製品の今後3年間のロードマップを発表した。
2025年後半にM5チップ搭載のVision Proをリリース予定で、チップセット以外の仕様は現行のM2搭載モデルと同じである。現行Vision Proは2024年2月2日に米国で発売され、日本では2024年6月28日に59万9800円で発売された。2027年後半には現行機より40%以上軽量で大幅に安価なApple Vision Airの量産開始を予定し、A-seriesチップセット、プラスチック材質、マグネシウム素材の採用でコスト削減を図る。2028年後半には全く新しいデザインの次世代Vision ProとLCoSディスプレイ搭載の真のARグラスの発売を計画している。スマートグラス分野では2027年半ばからRay-Ban Metaグラス対抗製品の量産を開始し、2027年に300万から500万台のコンポーネント出荷を予測している。Ray-Ban Metaグラスは2024年2月時点で累計200万台を販売している。
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Apple Vision Air Coming In 2027, Supply Chain Analyst Claims
【編集部解説】
この報告は、Appleの空間コンピューティング戦略における重要な転換点を示しています。Ming-Chi Kuoは72.5%の予測精度を誇るアナリストとして知られていますが、今回の予測には複数の注目すべき要素が含まれています。
まず技術的な観点から見ると、M5チップへのアップグレードは単なる性能向上以上の意味を持ちます。AppleによるとM4はM2と比較してCPU性能が1.5倍、GPU性能が4倍向上しており、M5では更なる飛躍が期待されます。これは現在のVision Proが抱える処理能力の制約を大幅に改善し、より複雑なAR体験を可能にするでしょう。
Apple Vision Airの40%軽量化という目標は、技術的に非常に挑戦的です。現行のVision Proは約600グラムですが、これを360グラム程度まで軽減するには、材料工学とコンポーネント設計の根本的な見直しが必要になります。A-seriesチップの採用は性能とのトレードオフを意味しますが、一般消費者にとっては十分な処理能力を提供するはずです。
競争環境において、Appleは明らかに後手に回っています。Meta Ray-Banグラスは既に200万台を販売し、2026年末までに年間生産能力を1000万台まで拡大する計画です。Appleが2027年にスマートグラスに参入する頃には、Metaは3世代目の製品を投入している可能性があります。
LCoS(Liquid Crystal on Silicon)ディスプレイ技術の採用は興味深い選択です。この技術は高い画質と比較的コンパクトな設計を実現できる一方で、偏光ビームスプリッターが必要となり、デバイスの小型化に制約をもたらします。MicroLEDが理想的な解決策とされる中で、LCoSは現実的な妥協案と言えるでしょう。
市場への影響として、Apple Vision Proの現在の販売台数は年間約50万台と推定されており、大衆市場への普及には程遠い状況です。Vision Airが真に60万円を大幅に下回る価格で提供されれば、空間コンピューティングの民主化が加速する可能性があります。
長期的な視点では、2028年の真のARグラス投入が最も重要なマイルストーンになるでしょう。これが成功すれば、コンピューティングの次なるパラダイムシフトの主導権をAppleが握ることになります。しかし、技術的困難さとタイムラインを考慮すると、実現には相当な挑戦が待ち受けていることは間違いありません。
【用語解説】
空間コンピューティング
物理空間にデジタル情報を重ね合わせて表示し、ユーザーが自然なジェスチャーや視線で操作できるコンピューティング技術。従来の2Dディスプレイの制約を超えた3次元インターフェースを実現する。
LCoS(Liquid Crystal on Silicon)
液晶をシリコン基板上に形成したマイクロディスプレイ技術。高解像度・高画質を実現できるが、偏光ビームスプリッターが必要で小型化に制約がある。HoloLensやMagic Leapで採用されている。
MicroLED
LED素子を極小サイズで配列したディスプレイ技術。高輝度・低消費電力・高コントラストを実現するAR/VRの理想的な表示技術とされるが、大量生産技術が確立されていない。
EyeSight
Apple Vision Proの外側レンティキュラーディスプレイに装着者の目を表示する機能。周囲の人とのアイコンタクトを可能にし、没入状態を外部から視認できるようにする独自技術。
Visual Intelligence
Appleが開発するマルチモーダルAI技術。カメラで撮影した画像を解析し、物体認識や情報検索、翻訳などを提供する機能の総称。
ウェーブガイド
光を特定方向に導く光学部品。AR/VRデバイスでは、小型プロジェクターからの映像を眼前のレンズ全体に均等に分散させるために使用される。
【参考リンク】
Apple公式サイト – Vision Pro(外部)
Appleの空間コンピューティングデバイス「Vision Pro」の公式製品ページ
【参考記事】
Ming-Chi Kuo: 72.5% accurate – AppleTrack(外部)
Ming-Chi Kuoの予測精度を追跡・検証するサイト
Apple Vision Pro sales actually soared 211% in Q3 2024(外部)
Vision Proの実際の販売動向に関する市場調査データ
Meta’s AR / VR hardware roadmap through 2027(外部)
Metaの競合製品ロードマップに関するレポート
Ray-Ban Meta Glasses Have Sold 2 Million Units(外部)
Ray-Ban Metaグラスの販売実績に関する記事
Apple Smart Glasses Reportedly Set To Launch In Late 2026(外部)
Bloomberg Mark Gurmanによるスマートグラス発売時期予測
Apple Is Still Working On MicroLED Displays For AR Glasses(外部)
AppleのMicroLEDディスプレイ開発に関する詳細レポート
【編集部後記】
2027年という、わずか2年半後に実現するかもしれないApple Vision Airの登場は、私たちの日常にどのような変化をもたらすでしょうか。現在60万円のVision Proが大幅に軽量化・低価格化されることで、空間コンピューティングがついに一般層に届く可能性があります。
皆さんは、もしApple Vision Airが20万円台で手に入るようになったら、どんな用途で使ってみたいと思いますか?リモートワークでの没入感のある会議、映画鑑賞、ゲーム体験、それとも全く新しい使い方を想像されているでしょうか。
日常的に身につけるものと、特定の目的で使うものとして、どう棲み分けられていくのでしょうか。