ソフトバンクロボティクス株式会社は2026年5月13日、業務用清掃ロボット「Whiz」シリーズに新たに3製品(Whiz P、Whiz B、Whiz V)を投入し、日本企業による開発・設計・品質管理でのフルラインナップを実現すると発表した。Whiz PとWhiz Bは同日販売を開始し、Whiz Vは先行受付を開始する。
Whiz Pは中小規模の商業施設やオフィスビル向けで、吸引、掃き掃除、スクラビング、モップがけの4つの清掃モードを搭載する。Whiz Bは物流倉庫や工場向けの自律走行型スクエアスイーパーで、一晩で40,000平方メートル以上を清掃する。Whiz Vは最小通行幅60センチの乾式バキュームタイプで、Whiz iと比較して清掃効率が約2.4倍、最大稼働時間が約1.4倍となる。
ソフトバンクロボティクスは2019年のWhiz発売以降、世界で4万台以上を出荷し、国内メーカーシェア3年連続1位を獲得している。Whizシリーズは施設管理AIプラットフォーム「SBX Connect」と連携する。
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業務用清掃ロボットWhizシリーズ 3製品を新発売 | ソフトバンクロボティクス株式会社
【編集部解説】
ソフトバンクロボティクスが2026年5月13日に発表した「Whiz」シリーズ3製品の新規投入は、単なる製品ラインナップ拡充のニュースとして読むには、背景にある文脈が重すぎる発表です。なぜなら、この発表は日本政府が同年3月に公表した「AIロボティクス戦略」と時期的にも内容的にも呼応する動きだからです。
経済産業省は2026年3月にAIロボティクス戦略の行程表を取りまとめ、2030年までに警備や廃棄物処理などの現場へAI搭載自律ロボットを導入することを目指す方針を示しました。さらに政府は3月10日の日本成長戦略会議で、AIロボット分野で2040年までに世界シェア3割超、20兆円規模の市場獲得を目標として掲げています。今回の3製品投入は、この国家戦略の方向性に沿った民間側の動きとして位置づけることができるでしょう。
特に注目すべきは「日本企業による開発・設計・品質管理でのフルラインナップ」という、これまでのプレスリリースにはあまり見られなかった表現です。これは中国メーカー(PUDU、Gausiumなど)の急速な台頭に対する、明確なポジショニング宣言と捉えられます。実際、ソフトバンクロボティクスは2023年に中国深セン拠点のPUDUと日本総代理店契約を結び、その配膳ロボットなどを国内で取り扱っており、グローバルなサプライチェーン全体を抑えつつ、自社開発製品で「日本国内で完結する」選択肢を提示する二段構えの戦略がうかがえます。
なお、ソフトバンクロボティクスは従来、中国Gausium社の「Phantas」「Beetle」を国内で取り扱っており、Whiz PとWhiz Bは公式サイトの表記上もこれら既存製品名と併記される形で展開されています。ただし、これらが正式なOEM・リブランド関係にあるかどうかは公式に確認できていません。あくまで公開情報からの推測ですが、Whizブランドのフルラインナップ戦略は、既存の取り扱い実績とグローバルサプライチェーンを活かした現実解と読み取ることもできるでしょう。プレスリリースが「開発・設計・品質管理」と表現し、製造そのものへの言及を慎重に避けている点には、こうした構造的背景が透けて見えます。
技術的なポイントとして、Whiz Vの「最小通行幅60センチ」という仕様は重要です。小売店の狭い陳列通路やオフィスなど、日本市場の物理的制約に最適化された設計はまさに「現場でしか得られない知見」の蓄積によるものと言えます。ソフトバンクロボティクスが2019年以来Whizシリーズで世界4万台超の出荷実績を通じて得たフィードバックループの結晶といえます。
また、施設管理AIプラットフォーム「SBX Connect」との連携、そしてデータが日本国内で管理されることへの明示的な言及にも注目です。プレスリリースでは「一部製品の連携は開発中」とされており全機種で即時に連携が実装されるわけではありませんが、経済安全保障への意識が高まる時流の中、稼働データを国内で完結させる方針を打ち出した意義は小さくありません。施設の稼働データ、人流データ、レイアウト情報は、悪用されればセキュリティリスクになり得る情報資産であり、特に公共施設や重要インフラ事業者の間で海外サーバー経由への懸念が高まっている現状への一つの回答となります。
一方で、潜在的な課題も冷静に見ておく必要があります。日本企業による「フルラインナップ」を強調する戦略は、グローバル市場で価格競争力に勝る中国製品とどう差別化していくかという課題と表裏一体です。富士経済の調査では国内メーカーシェア3年連続1位とされていますが、これは「国内メーカー」のシェアであり、市場全体(海外メーカー含む)でのシェアではどう見えるかは別の論点です。また「業務用屋内サービスロボット売上世界1位」の根拠(Grand View Research社調べ)は2022年4月時点のデータであり、現在の世界市場での競争環境は中国勢の急成長で大きく変化しているという文脈は押さえておくべきでしょう。
長期的な視点では、清掃ロボットはフィジカルAIの社会実装が進む領域の一つです。VLA(Vision-Language-Action)モデルや世界モデルといった次世代AI技術が、今後この領域に流れ込んでいくことが見込まれます。今回の3製品はまだ従来型のAI(自律走行、障害物回避、ルート最適化)の延長線上にありますが、ここで蓄積される稼働データこそが、次世代の汎用AIロボット開発における日本企業の競争力の源泉となり得ます。「データを国内で管理する」とは、つまり「日本のAI産業の燃料を日本に残す」という意味でもあるのです。
清掃という最も身近な「人間の労働」が自動化されていく流れは、人口減少社会の日本にとって必然の変化です。問題は、その変化を海外プラットフォーマーに委ねるのか、自国で技術と知見を蓄積していくのか、という選択です。今回の発表は、その選択への一つの意思表示と読み取ることができます。
【用語解説】
AIロボティクス戦略
日本政府が2026年3月に取りまとめた、AI搭載自律ロボットの社会実装に関する国家戦略である。少子高齢化に伴う人手不足への対応と、AI・ロボット産業を日本の中核産業に育成することを目的とする。経済産業省を中心に、警備や廃棄物処理などの現場での導入を2030年までに目指している。
フィジカルAI
言語や画像だけでなく、現実世界の物理的な動作や環境認識をAIで制御する技術領域である。ヒューマノイドや自律走行ロボット、自動運転車などが該当する。日本政府は2040年までに世界シェア3割超、20兆円規模の市場獲得を目標として掲げている。
VLA(Vision-Language-Action)モデル
視覚情報、言語による指示、物理的動作を統合的に処理する次世代AIモデルである。従来のティーチングプレイバック方式(人がロボットに動作を覚えさせる方式)に代わり、自律性と汎用性を飛躍的に高める技術として注目されている。
【参考リンク】
ソフトバンクロボティクス株式会社 公式サイト(外部)
Pepper、Whiz、Serviなどを展開する国内有数のロボットインテグレーター。世界9カ国に拠点を持つ。
Whizシリーズ製品ページ(外部)
Whiz、Whiz P、Whiz B、Whiz Vの全ラインナップ情報やSBX Connect連携機能を掲載する公式ページ。
SBX 公式サイト(外部)
ソフトバンクロボティクスグループの施設管理サービス事業会社。AI・ロボットで清掃・警備・設備管理を提供。
Gausium 公式サイト(外部)
中国・上海を拠点とする自律型清掃ロボットの専業メーカー。Phantas、Beetleなどを世界展開している。
経済産業省 ロボット政策ページ(外部)
AIロボティクス戦略を含む、日本政府のロボット産業育成施策の公式情報を掲載する経産省のページ。
Grand View Research 公式サイト(外部)
業務用屋内サービスロボット市場の調査を行う米国の市場調査会社。「世界1位」引用の出典元である。
【参考記事】
ソフトバンクロボティクス、PUDUのサービスロボットを取り扱い開始(外部)
2023年の発表。中国深セン拠点のPUDU製品を日本総代理店として取り扱うことが公式に確認できる。
事務局説明資料 2026年3月 経済産業省(外部)
フィジカルAIを含むAI・ロボティクス領域での日本の競争戦略、戦略17分野61製品・技術の優先支援方針を示す。
高市政権、AIロボットで世界シェア3割確保へ-官民投資で行程表素案(Bloomberg)(外部)
政府が2026年3月10日に公表したAIロボット分野で世界シェア3割超、20兆円市場獲得目標のロードマップ素案。
第1回AI・半導体WG 事務局説明資料(経済産業省)(外部)
AIロボティクス戦略の対象範囲、VLAモデルや模倣学習などの技術トレンド、データセット整備の必要性を解説。
Beetle – 産業用清掃ロボット(Gausium公式)(外部)
「一晩で40,000平方メートル以上」のカバレッジなど、Whiz Bと共通するスペックが記載されている製品ページ。
Phantas – 業務用清掃ロボット(Gausium公式)(外部)
4つの床面清掃モードを搭載しており、Whiz Pと共通する設計思想が確認できる業務用清掃ロボット製品ページ。
【関連記事】
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Whizシリーズに直接言及し、清掃業界の自動化と労働の変容を論じた記事。今回の新製品発表の社会的文脈を深掘りできる。
SBX AI警備×アール・エス・シー|ソフトバンクロボティクスが切り拓く次世代警備ソリューション
本記事で言及した「SBX」のグループ会社・サービスを扱う記事。施設管理プラットフォーム構想の理解に直結する。
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編集部解説で扱った「国家戦略としてのロボット産業」という視点を補強する論考記事。
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「日本企業による開発・設計・品質管理」「経済安全保障」というテーマで構造的に酷似。別領域での同じ潮流を対比できる。
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経済産業省の「2040年までにAI・ロボティクス分野で339万人不足」推計に言及。本記事の数値文脈を補強する。
【編集部後記】
オフィスや商業施設で清掃ロボットを見かける機会は、ここ数年で急速に増えました。多くの方にとって、もはや珍しい存在ではないかもしれません。けれど今回の3製品同時投入の裏側には、「日本のロボット産業をどう守り、育てるか」という国家規模の戦略が動いています。
みなさんが普段利用する施設の床を、どこの国で設計されたロボットが清掃しているのか。蓄積されるデータはどこに流れているのか。少し意識を向けてみると、足元から見えてくる未来があるかもしれません。みなさんの周りの「自動化」、いかがでしょうか。












