いつも使っているAIに、新しい「住み家」ができました。xAIは、対話AI「Grok」のサブスクリプションを、世界で急速に支持を集めるオープンソースのAIエージェント「Hermes Agent」の中で直接使えるようにしました。これは単なる機能追加ではありません。AIをどこで動かし、何を任せるのか——その選び方そのものが、静かに変わり始めています。
xAIは2026年5月15日、Grokのサブスクリプションを、Nous Researchが開発するオープンソースの自己改善型エージェント「Hermes Agent」内で直接利用できるようにしたと発表した。
Hermes Agentはコンピューター、サンドボックス、VPS上で常時稼働し、セッションをまたいだ長期記憶を生成するエージェントである。WhatsApp、Discord、Telegram、Signalなどのメッセージングサービスと接続できる。
Hermes内のGrokサブスクリプションでは、テキスト会話と推論に対応するGrok 4.3、音声応答のGrok Text-to-Speech、画像・動画生成のGrok Imagineの3機能を利用できる。この接続機能はすべての料金プランで利用可能である。導入はHermes Agentをインストールし、コマンドでxAI Grok OAuthを選択、ブラウザでサインインする手順となる。
xAIは今後、オープンソースエージェントとの連携をさらに追加する予定としている。
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Connect Grok to Hermes Agent
【編集部解説】
このニュースを「Grokに新機能が増えた」とだけ受け取ると、本質を見落とします。今回xAIが行ったのは、自社モデルの機能拡張ではなく、他社が育てたオープンソースの土俵に自分の製品を持ち込むという、流通戦略の転換です。
鍵を握るHermes Agentは、Nous Researchが2026年初頭にかけて急速に注目を集めたエージェントです。NVIDIAの公式ブログは、登場から3か月足らずでGitHubのスター数が14万を超え、OpenRouter上で世界で最も使われているエージェントになったと伝えています。短期間でこれだけ支持された理由は、その設計思想にあります。
従来のAIエージェントは、タスクを終えるたびに文脈を忘れる「健忘症」を抱えていました。Hermesはこの問題に正面から取り組み、経験からスキルを生成し、使用しながら改善し、自分の過去の会話を検索し、セッションをまたいでユーザー像を深めていく学習ループを内蔵しています。つまり、使うほど賢くなる「自己改善型」である点が、単なるチャットボットとの決定的な違いです。
ここに、今回の連携の妙があります。これまでHermesに外部のモデルを接続するには、APIキーの設定が一般的でした。今回の更新で、Grokについてはブラウザ経由のOAuth認証だけで自分のサブスクリプションをそのまま接続できます。技術者でなくても、永続的に動き続ける自分専用エージェントの「頭脳」にGrokを据えられるわけです。
なぜxAIが今この一手を打ったのか。背景には競争環境の厳しさがあります。同社はほぼ同時期にコーディングエージェント「Grok Build」も投入していますが、これはAnthropicのClaude CodeやOpenAIのCodexから約1年遅れての参入でした。正攻法の製品競争で出遅れた以上、すでに開発者の支持を集めたオープンソース基盤に乗り入れるのは、合理的な巻き返し策と言えます。
利用者にとっての利点は明快です。料金プランを問わず接続でき、テキスト推論のGrok 4.3、音声のText-to-Speech、画像・動画のGrok Imagineを、常時稼働する自分のエージェントから扱えます。クラウドのVPS上で動かし、Telegramから指示を送る、といった使い方も現実的になります。
一方で、見落とせない論点もあります。Hermesが価値とする「長期記憶」は、裏を返せば対話の履歴や個人の傾向がローカルに蓄積され続けることを意味します。サブスクリプション型の商用モデルと、自己改善する自律エージェントを組み合わせると、誰がどのデータを保持し、その来歴をどう監査するのか、という問いが避けられません。導入のしやすさと、説明責任やデータ統制のバランスは、利用者側が意識すべき点でしょう。
規制の観点でも示唆に富みます。クラウド上のチャット画面で完結する利用と異なり、ユーザーの手元で永続的に動くエージェントは、従来のAIサービス規制の枠組みからこぼれやすい可能性があります。「どこでAIが動いているか」が曖昧になるほど、規制の設計は難しくなります。
長期的に見れば、今回の動きはAI競争の主戦場が「最も賢いモデル」から「最も使われるエージェント基盤」へ移りつつある可能性を示しています。モデルは差し替え可能な部品となり、ユーザーとの関係を持ち続けるエージェントの側に価値が宿る——その構図変化の入り口に、私たちは立っているのかもしれません。
【用語解説】
AIエージェント
利用者の指示を受けて、複数の手順からなるタスクを自律的に実行するAIプログラムのこと。質問に答えるだけのチャットボットと異なり、ツールの操作や情報収集まで自ら行う。
自己改善型(学習ループ)
タスクを処理するたびに、その解決手順を再利用可能な「スキル」として蓄え、次回以降に活かす仕組み。使うほど能力が高まる点が、従来のAIとの違いである。
長期記憶(セッションをまたぐ記憶)
1回の対話が終わっても情報を消さず、過去のやり取りや利用者の傾向を保持し続ける機能。多くのAIが対話ごとに文脈を忘れるのに対し、これを克服する設計を指す。
オープンソース/MITライセンス
ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを誰でも閲覧・改変・再配布できる形で公開する方式。MITライセンスはその中でも制約が緩く、商用利用も認められる代表的な許諾条件である。
VPS(仮想専用サーバー)
1台の物理サーバーを仮想的に分割し、利用者ごとに専用環境として貸し出すサービス。低コストで常時稼働するコンピューター環境を確保でき、エージェントの常駐先として使われる。
サンドボックス
プログラムを外部から隔離された安全な領域で動かす仕組み。万一不具合や不正な動作が起きても、本体のシステムに影響が及ばないようにするための保護環境を指す。
OAuth認証
パスワードを直接渡さずに、外部サービスへ自分のアカウント利用を許可する認証の仕組み。今回の連携では、APIキーの手動設定なしにGrokのサブスクリプションを接続する手段として用いられる。
【参考リンク】
xAI(公式サイト)(外部)
イーロン・マスクが率いるAI企業の公式サイト。対話AIのGrokをはじめ、各種モデルやAPI、最新の発表をまとめている。
Connect Grok to Hermes Agent(外部)
GrokをHermes Agentに接続する手順と利用できる機能を記したxAIの公式発表ページ。本記事が扱う一次情報である。
Hermes Agent(Nous Research公式サイト)(外部)
Nous Researchによる自己改善型エージェントHermes Agentの公式サイト。特徴や対応環境、導入手順を確認できる。
Hermes Agent GitHubリポジトリ(外部)
Hermes Agentのソースコードが公開されている開発拠点。MITライセンスのもとで機能の詳細や更新履歴を閲覧できる。
Hermes Agent xAI Grok OAuthドキュメント(外部)
xAI公式発表が案内する技術文書。GrokをOAuthでHermes Agentへ接続する設定手順を具体的に解説している。
【参考記事】
Hermes Unlocks Self-Improving AI Agents, Powered by NVIDIA RTX PCs and DGX Spark(外部)
Hermes Agentが登場3か月足らずでGitHubスター14万超を獲得し、OpenRouterで最も使われるエージェントになったと報じる。
Hermes Agent tops use as Nous Research’s self-improving model leads OpenRouter(外部)
2026年5月10日時点でHermes AgentがOpenRouter日次首位に立ち、1日2240億トークンを処理したと報じる記事。
Hermes Agent 2026: First Production-Ready Self-Improving Open-Source AI Agent(外部)
Hermes Agentが2026年初頭に登場し、その後の数か月で機能が成熟した経緯を整理した記事。普及の速さを解説する。
xAI joins crowded coding agent race with Grok Build(外部)
xAIがコーディングエージェントGrok Buildを投入したと報じる記事。先行する競合に対し後発での参入だと指摘する。
Introducing Grok Build(xAI公式)(外部)
Grok Buildの公式発表ページ。5月14日付でSuperGrok Heavy加入者向けに早期ベータ提供を開始したと記す。
xAI introduces its coding agent called Grok Build(外部)
Grok Buildの投入を5月15日扱いで報じる記事。公式ページの日付と報道日に揺れがあることを示している。
Introducing Codex(OpenAI公式)(外部)
OpenAIのコーディングエージェントCodexの公式発表ページ。Grok Buildとの参入時期の差を検証するために参照した。
【関連記事】
xAIがコーディングエージェント「Grok Build」公開|イーロン・マスクが選んだ「囲い込まない」設計とは
本記事の解説で触れた、xAIがほぼ同時期に投入したコーディングエージェントを扱った記事。
ロリポップ!AIエージェントクラウドが登場|GMOペパボが「OpenClaw」「Hermes Agent」をノーコードで動かせるクラウドを提供開始
Hermes Agentをノーコードで動かせる国内クラウドサービスを伝える記事。背景理解の補完に。
Anthropic、Claude Managed Agentsを大幅拡張―自己改善する新機能
本記事の核心「自己改善型エージェント」を、競合のAnthropic側の動きから捉えた記事。
Google「Remy」始動か—OpenClawに対抗する24時間AIエージェント、Gemini基盤で社内テスト中
常時稼働する自律AIエージェントという同じ潮流を、Google側の取り組みから追った記事。
【編集部後記】
「AIを使う」と聞くと、画面を開いて質問を打ち込む姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。でも今回の連携は、その手前にある「どこでAIを動かすか」という選び方そのものを問いかけているように感じます。
みなさんなら、賢いモデルを選びますか。それとも、自分を覚えていてくれる相棒を選びますか。正解はまだ誰にも分かりません。だからこそ、この変化の入り口を一緒に眺めていけたら嬉しいです。気づいたことがあれば、ぜひ聞かせてください。












