Deskrex「Snorbe」提供開始|調査結果をナレッジグラフに蓄積し未調査領域を探索するRaaS

[更新]2026年5月27日

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AIを使った調査は、「速く探す」ことについては一定の答えが出つつあります。しかし「前回の調査を踏まえて深める」となると、多くのツールはまだリセットから始まります。調査のたびに文脈を説明し直し、以前に見つけた論点を再度たぐり寄せる——この繰り返しは、AIが得意なことと人間が実際に求めていることの間に残った、小さくない溝です。株式会社Deskrexが発表したAIリサーチエージェント「Snorbe」は、過去の調査を外部メモリとして積み上げ、次の調査の足場にするという設計でこの溝に向き合います。


株式会社Deskrexは、AIリサーチエージェント「Snorbe」のクローズドアルファ版を2026年5月26日より一般提供すると発表した。

Snorbeは、ウェブ・SNS・特許・論文・政府系専用DBを横断調査し、結果をベクター・グラフ・文字列インデックスの3形式で蓄積する。独自の探索アルゴリズムで未調査領域(ホワイトスペース)を自動検出し、過去調査と新情報を結びつけることで新たな調査観点を提示する。

Anthropicが提唱するMarkdown形式の「スキル」機能を搭載し、主要AIベンダー各社のモデルに対応。Claude CodeやCodex向け外部メモリとしての連携機能も提供する。クローズドアルファ期間中は無料で全機能を試用できる。

From: 文献リンクDeskrex、AIリサーチエージェント「Snorbe」クローズドアルファ一般提供開始(PR TIMES)

【編集部解説】

AIエージェントが「実行」から「蓄積」へ向かっている

AIエージェントをめぐる競争は、ここ数年で大きくフェーズが変わりました。初期の論点が「何をどこまで自律的に実行できるか」だったとすれば、2025年以降の主戦場の一つは「実行した結果をいかに次に活かすか」に移りつつあります。

その流れを象徴する動きとして注目されているのが、「OpenClaw」や「Hermes」といったエージェントです。同エージェントは、タスクを完了するたびに学習内容をMarkdownのスキルファイルとして書き出し、次のタスクでそれを再利用する仕組みを持ちます。セッションを跨いだ全文検索や、外部メモリプロバイダーとの連携も含め、「過去の経験を構造化して引き継ぐ」アーキテクチャが設計の核にあります。

PRの「開発と提供の背景」には、既存ツールが「一問一答型の設計に留まっている」という問題が書かれています。RAG技術の構造的な限界はすでに業界で広く認識されており、LlamaIndexのようなフレームワークもこの問題に取り組んできた経緯があります。(→ 関連:LlamaIndexが解決するRAG技術の限界、次世代LLMアプリ開発への道筋を示す

Snorbeが向かっている方向も、ここと重なる部分があります。過去の調査結果をベクター・グラフ・文字列インデックスの3形式で蓄積し、次の調査でそれを参照・再利用する。「前回調べたA社の特許ポートフォリオと比較して」という跨ぎ調査の指示が成立するのも、この設計があってのことです。

なお、前日(5月25日)には富士通も「自己進化マルチAIエージェント」を標榜する「Fujitsu Kozuchi」を発表していますが、こちらはモデルのファインチューニングによる重み更新を機能の中核に置いており、外部メモリとグラフによる蓄積を軸とするSnorbeとは設計思想が異なります。「自己進化」という語が何を指すかは、製品ごとに確認が必要です。(→ 関連:富士通「Fujitsu Kozuchi」、自己進化マルチAIエージェント技術が運用の常識を変える

「記憶」という言葉が指すもの

Snorbeのリリースには「対話を重ねるほど育つエージェント記憶」という表現があります。これを読んで「AIモデル自体が学習して賢くなっていく」と受け取ると、実態とずれる可能性があります。

AIモデルの重みをリアルタイムで更新し続けるシステムは、現在の商用サービスの水準では一般的ではありません。Snorbeが説明するのは、調査結果をデータベース・グラフ・インデックスとして外部に保存し、後から検索・参照する仕組みです。LPには「クラウド版ではPostgreSQLとpgvectorを使用する」旨の説明があり、これはベクトルデータベースを使った標準的なRAGの実装に近いと読めます。

「記憶が育つ」ということは、データが蓄積されるほど参照できる情報が増えることであり、モデルそのものの能力が向上するわけではないという区別は、業務に組み込む際の判断に直結します。

リサーチSaaSとしての固有の設計

汎用エージェント基盤と比べたとき、Snorbeが明確に異なるのは「リサーチ業務」への特化です。

特許・論文・政府系DBを対象とする専用の調査機能、観点マトリクスやExcel/CSV/PDFへの出力、チームワークスペースと定期実行スケジュール、セルフホスト対応など、これらはいずれも、研究開発部門や新規事業部門の調査業務フローを前提とした設計です。汎用性を追うのではなく、「調査業務の記憶と蓄積」という特定の問題を解くことに賭けている製品と言えます。

また、Claude CodeやCodexの外部記憶として機能するAPIを提供するという方向性も、単体SaaSというよりエージェント間インフラの一部として位置づけようとする意図が見えます。自前のAIエージェントを構築している組織が、ナレッジ蓄積の機能だけをSnorbeに委ねるという使い方を想定しているようです。

実務利用に際して確認すべきこと

社内文書や調査資料の取り込みを前提とするSnorbeのような設計では、外部AIプロバイダーへのデータ送信範囲と退会時のデータ削除条件が、導入前に確認が必要な論点です。機密性の高いデータをRAGで活用する際のリスク管理は、行政分野での導入事例でも同様に論じられています。(→ 関連:さくらインターネット、飛騨市に国内完結型生成AIを提供─RAG活用で行政業務を効率化

【用語解説】

ナレッジグラフ(Knowledge Graph)
エンティティ(企業・人物・技術・論文など)とその関係性をノードとエッジで表現したデータ構造。単純な検索インデックスと異なり、「A社がB技術を保有し、B技術はC分野に属する」という関係性を辿った探索が可能。GoogleがSearch向けに普及させた概念で、現在はAIエージェントの長期記憶基盤としても活用が広がっている。

ホワイトスペース(White Space)
市場調査・研究開発の文脈では、既存のプレイヤーや先行研究がまだカバーしていない領域を指す。競合の手薄な技術領域、先行研究の引用ネットワークにおける空白、未参入の市場セグメントなど。Snorbeでは、蓄積されたナレッジグラフの「密度が低い領域」としてこれを検出する仕組みを持つと説明している。

RAG(Retrieval-Augmented Generation)
LLMが回答を生成する際に、外部のデータベースや文書から関連情報を検索・参照する手法。モデル自体を再学習させることなく、最新情報や組織固有の情報を回答に反映できる。Snorbeが採用する「エージェンティックRAG」は、エージェントが自律的に検索・蓄積・参照のループを回す形態を指す。

ベクトルデータベース
テキストや画像を数値ベクトルに変換し、意味的な近さで検索できるデータベース。「完全一致」ではなく「意味的に似ている」文書を探し出すことができる。SnorbeはPostgreSQLの拡張であるpgvectorを使用していると説明しており、グラフ・テキストインデックスと組み合わせた3形式の蓄積構造を採っている。

RaaS(RAG-as-a-Service)
RAG機能をAPIやSaaSとして外部提供するビジネスモデル。自前でRAG基盤を構築・運用するのではなく、外部サービスを呼び出して知識検索・蓄積機能を利用する形態。Deskrexは自社のSnorbeをRaaSと位置づけ、Claude CodeやCodexなど外部エージェントの記憶基盤として利用できると訴求している。

【参考リンク】

Snorbe サービスページ(外部)
Snorbeのクローズドアルファ申し込み窓口。機能概要・活用用途・価格(クローズドアルファ期間中は無料)の説明と申し込みフォームを掲載。

Snorbe ドキュメント(外部)
グラフ機能・スキル機能・チーム設定・セルフホスト構築手順など、製品の技術仕様と操作方法を公開。

株式会社Deskrex 公式サイト(外部)
Deskrexの会社概要、Snorbe・Deskrex App・受託開発・コンサルティングの各事業説明を掲載。

Hermes Agent(Nous Research)(外部)
Nous Researchが2026年2月に公開した自己改善型AIエージェントのドキュメント。記憶・スキル・自己改善アーキテクチャの仕様が公開されている。

Hermes Agent 公式サイト(外部)
Hermes Agentの概要とインストール手順。オープンソース・MITライセンスで公開されており、試用が可能。

【参考記事】

Hermes Agent Review: Nous Research’s Self-Improving AI Agent(外部)
Hermes Agentのアーキテクチャを詳細に分析したレビュー記事(2026年4月)。スキル自動生成の仕組み、記憶レイヤーの構造、既存エージェントとの差異を実装レベルで解説。

Hermes Agent Documentation(GitHub / mudrii)(外部)
Hermes Agentの包括的ドキュメント。v0.14.0(2026年5月16日リリース)時点の仕様を記録。SQLiteによるセッション横断記憶、スキルの永続化、マルチプロバイダー対応などの詳細が確認できる。

Hermes Agent: Self-Improving AI Agent vs OpenClaw — Full Breakdown(Turing Post)(外部)
Hermes AgentとOpenClawの比較分析記事(2026年5月)。Nous Researchの開発背景とHermes Agentが汎用エージェント基盤として持つ位置づけを整理。

【関連記事】

【編集部後記】

ナレッジグラフが積み上がるほど新しい問いが生まれるという設計思想には、私たちも共感する部分があります。ただ、過去調査の再利用が増えるほど、調査者の視野が「すでに見たもの」に引き寄せられるリスクも同時にあります。記憶が増えることが、本当に探索の幅を広げるのか——この問いは、Snorbeに限らず、AIと知的生産の関係を考えるうえで、しばらく手放さずにいたいと思っています。

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りょうとく
趣味でデジタルイラスト、Live2Dモデル、3Dモデル、動画編集などの経験があります。最近は文章生成AIからインスピレーションを得るために毎日のようにネタを投げかけたり、画像生成AIをお絵描きに都合よく利用できないかを模索中。AIがどれだけ人の生活を豊かにするかに期待しながら、その未来のために人が守らなけらばならない法律や倫理、AI時代の創作の在り方に注目しています。