「コードが書けなくても、AIと一緒なら業務アプリは自分で作れる」——そんな時代の入り口を示す動きが出てきました。ノーコード推進協会(NCPA)が2026年6月1日、入門資格「ノーコードパスポート サファイア試験」を改定し、新たに生成AIの知識領域を加えたのです。背景にあるのは、自律的に仕事をこなす「AIエージェント」の台頭。エージェントが働くには、その受け皿となる業務アプリが社内に数多く必要になります。それを外注に頼り切らず、自分たちの手で作れる人をどう育てるか。今回の改定は、まさにその問いへの答えのひとつです。作る楽しさと、安全に使う備え。その両方を一枚の試験に込めたこのニュースを、読み解いていきます。
一般社団法人ノーコード推進協会(NCPA、代表理事:中山五輪男)は2026年6月1日、「ノーコードパスポート サファイア試験」の改定版をリリースした。学習コンテンツと出題範囲をアップデートし、新たに生成AIに関する知識領域を追加したものである。
改定の背景には、業務を自律的にこなすAIエージェントの台頭があり、エージェントが連携する業務アプリを社内で内製化するスキルへの需要を見据えている。学習コンテンツは全5カテゴリで構成され、DXマインドセットと組織文化、ノーコード活用戦略とビジネス価値、利用者と業務を踏まえたUI/UX設計、安全なデータ活用とシステム連携、現場主導のアジャイル運用力からなる。
改定日は2026年6月1日で、今後は改定後の試験のみ受験可能となる。改定前に取得した合格は取り消されず、改定前・改定後いずれの合格も資格の有効性に変わりはない。ロゴマークには試験改定年が付記される。
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「ノーコードパスポート サファイア試験」を改定し、生成AI関連の学習コンテンツを拡充 | 一般社団法人ノーコード推進協会のプレスリリース

【編集部解説】
このニュースを「資格試験が一つ新しくなった」という話として読むと、本質を見落としてしまいます。私が注目したいのは、改定の理由として協会が「AIエージェントの台頭」を真正面に据えた点です。
AIエージェントとは、人間が一つひとつ指示を出さなくても、目的を与えれば自律的に業務をこなしていくAIのことです。チャットで質問に答えるだけだった生成AIが、社内システムを操作する「働き手」へと役割を変えつつある、と言い換えてもよいでしょう。
ここで見過ごされがちなのが、エージェントが働くには「働く場所」が要る、という事実です。エージェントがデータを読み書きし、処理を実行するための業務アプリが社内に十分そろっていなければ、どれだけ賢いAIも宝の持ち腐れになります。今回の改定は、この「アプリの受け皿が足りない」という構造的な課題に、人材育成の側から手を打とうとするものだと読み取れます。
実際、市場の数字もこの方向を裏づけています。調査会社ガートナーは、2026年末までに企業向けアプリケーションの40%がタスク特化型のAIエージェントを搭載するようになる(2025年の5%未満から)と見込んでいます。1年で少なくとも約8倍という変化のスピードは、業務アプリの「数」をめぐる需要が急膨張することを示唆しています。
その膨張するアプリを誰が作るのか。ここでノーコードと「市民開発(シチズンデベロッパー)」が交わります。市民開発とは、専門のエンジニアではない一般の社員が、ローコードやノーコードのツールを使って自ら業務アプリを組み立てる動きのことで、MIT Sloanもこの担い手を「市民開発者」として説明しています。すでに市民開発者はプロの開発者を大きく上回る規模に達しているとの見方が広がっています。二次情報では、世界で1億人を超え、プロの開発者のおよそ4倍とする推計もありますが、これらの数値は調査主体や「市民開発者」の定義によって幅があり、確定した実数ではない点には留意が必要です。
つまりこの試験改定は、「コードは書けないが、AIと協働してアプリを作れる人」をどう育てるか、という極めて今日的な問いへの一つの回答です。外注に頼り切らず社内で内製する——協会のいうカテゴリ2の戦略は、コスト削減だけでなく、変化の速さに自前で追従するための備えでもあります。
一方で、私が「デジタルの窓口」として見過ごせないのは、今回の改定がカテゴリ4で「安全なデータ活用とシステム連携」を明確に掲げている点です。ここには二つのリスクが名指しされています。
一つは「シャドーIT」。情報システム部門の管理外で、現場が勝手にアプリやツールを増やしてしまう状態を指します。誰でもアプリを作れる時代の裏側で、把握されないアプリが攻撃の入り口になりうる——この危うさは、市民開発の広がりと表裏一体です。実際、作り手の急増に対して可視化やガバナンス、統制が追いつかず、攻撃対象となる領域が急速に広がっているという指摘も出ています。
もう一つが「AIの嘘」、いわゆるハルシネーションです。生成AIがもっともらしい誤情報を出力する現象で、これを鵜呑みにしたまま業務アプリに組み込めば、誤りが自動的に拡散しかねません。便利さと危うさが同じコインの裏表である以上、「作れること」と同じ重さで「安全に運用できること」を学ぶ設計は、的を射ていると感じます。
長期の視点で見れば、この資格は「AIを使える人材」を測る物差しの一つになっていく可能性があります。2025年に76億ドル規模だったAIエージェント市場は、2030年に500億ドルを超えると予測されているなか、企業が求めるのは、AIに仕事を任せきる人ではなく、AIの出力を判断し、責任をもって統制できる人でしょう。受験料5000円(税抜)、60分・50問という入口の手軽さは、その第一歩を多くの人に開くものだと言えます。
最後に冷静な留保も添えておきます。これはあくまで「基礎力」を証明する入門資格であり、取得が即戦力を保証するわけではありません。資格そのものより、ノーコードと生成AIをどう自分の現場で活かすか——その実践こそが本丸だという前提を、忘れずにいたいところです。
【用語解説】
ノーコード
プログラミングのコードを書かずに、画面上の部品をドラッグ&ドロップするなどして業務アプリやシステムを作る手法・ツールの総称である。IT未経験者でも扱いやすく、開発のスピードとコストで優位を持つ。
AIエージェント
人間が逐一指示しなくても、目的を与えれば自律的に判断・行動し、業務をこなしていくAIを指す。質問に答える従来型の生成AIと異なり、自らシステムを操作して一連の作業を完結させる点が特徴である。
生成AI
文章・画像・コードなどを新たに生み出すAIの総称。本件では、ノーコードと組み合わせてアプリ開発を支援する道具として位置づけられている。
市民開発(シチズンデベロッパー)
専門のエンジニアではない一般の社員が、ノーコードツールを用いて自ら業務アプリを開発する動き、またはその担い手を指す。内製化を支える主役と目されている。
内製化
外部ベンダーに発注せず、社内の人材と道具で必要なシステムやアプリを自前で作ること。コスト抑制と、変化への対応速度の両面で利点があるとされる。
DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を使って業務プロセスや組織のあり方、ビジネスモデルそのものを変革する取り組みである。
UI/UX
UIは画面のボタンや配置など利用者が直接触れる接点(ユーザーインターフェース)、UXはそれを通じて得られる使い心地・体験(ユーザーエクスペリエンス)を指す。
シャドーIT
情報システム部門の管理が及ばないまま、現場が独自に導入・利用するアプリやツールのこと。把握されないため、情報漏えいや攻撃の入り口となるリスクをはらむ。
ハルシネーション(AIの嘘)
生成AIが、事実に基づかないもっともらしい誤情報を出力してしまう現象である。鵜呑みにすると誤りが業務に紛れ込む恐れがある。
アジャイル
最初から完璧を目指さず、小さく素早く作って公開し、改善を繰り返していく開発・運用の進め方を指す。
【参考リンク】
ノーコード推進協会(NCPA)(外部)
「日本のソフトウェア文化を変革する」を掲げる協会。ノーコードの普及や人材育成、認定制度を運営する発表主体の公式サイト。
ノーコードパスポート サファイア(認定制度 概要)(外部)
今回改定された入門資格の公式ページ。試験時間や出題数、合格点、受験料など制度の概要をまとめて確認できる。
アステリア株式会社(外部)
代表理事の中山五輪男氏がCXOを務めるIT企業。データ連携やノーコードのアプリ作成ツールを開発・提供している。
ガートナー(Gartner)(外部)
本文で引用した企業アプリの40%がAIエージェントを搭載するとの予測を公表する、米国の調査・助言会社の公式サイト。
【参考記事】
AI app builder statistics 2026: market size, adoption, and trends(Hostinger)(外部)
市民開発者数やAIアプリ開発の市場統計を幅広く集約した記事。引用元は二次情報が中心で、数値は定義により幅がある。
Why companies are turning to ‘citizen developers’(MIT Sloan)(外部)
市民開発者をローコード/ノーコードでアプリを作る人々と定義し、企業が活用を進める背景を解説した記事。
Mobile App Development Trends 2026: AI, No-Code & Beyond(Lovable)(外部)
企業アプリの40%がAIエージェントを搭載する予測を、前年比8倍の変化として読み解く2026年の潮流記事。
The future of AI agents: Key trends to watch in 2026(Salesmate)(外部)
AIエージェント市場が2030年に500億ドル超へ拡大すると予測し、2026年の主要トレンドを概観した記事。
AI Agents & Business Apps Security Report 2026(Nokod Security)(外部)
市民開発の拡大に伴い、可視化やガバナンスが追いつかず攻撃対象が広がるリスクを警告したセキュリティ報告。
Belitsoft report: 2026 AI agent trends(Barchart 掲載)(外部)
企業が平均12のAIエージェントを稼働させるが半数が単独で動くという活用実態を報じた記事。※Salesforceの2026 Connectivity Benchmark Reportを二次引用したもの。
【関連記事】
ノーコード/ローコード開発の落とし穴:民主化されたアプリ開発がもたらすセキュリティリスクとその対策
誰もがアプリを作れる時代の裏側にあるシャドーITやデータ露出のリスクと、その対策を整理した記事。
Airtable新機能Cobuilder:AIがアプリを数秒で自動生成 – ノーコード開発の革命
AIとノーコードを掛け合わせ、対話するだけで業務アプリが自動生成される潮流を象徴するニュース。
【編集部後記】
正直に言うと、私が最初にこのニュースで足を止めたのは「生成AIの追加」ではなく、カテゴリ4の「安全なデータ活用」でした。新しい道具が広まるとき、私たちはつい「何ができるか」に目を奪われますが、同じ熱量で「どう守るか」を語る入口は、まだ多くありません。
だからこそ、作る楽しさと守る備えを一枚の試験に同居させたこの改定を、私は静かに頼もしく感じています。みなさんが「自分でも作れそう」と思えた瞬間があれば、ぜひその感触を大切にしてください。その一歩に、私もそっと伴走できたらうれしいです。












