NTTドコモビジネス、ElevenLabsの音声AIをコンタクトセンターに統合へ|出資が生んだ協業

[更新]2026年7月1日

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出資が、いつ協業に変わるのか。その境界線は、必ずしも技術の優劣だけでは決まりません。資本関係という土台の上に、事業上の理屈がどこまで重なるのか。両者は本来、別の軸で動くものです。コンタクトセンターという地味な現場を舞台に、CVCという仕組みの実際の機能を読み解きます。


イレブンラボジャパン合同会社とNTTドコモビジネス株式会社は、自然な音声AIを活用したコンタクトセンター応対の実現に向けた協業を開始した。本協業は株式会社NTTドコモ・ベンチャーズによるイレブンラボへの出資および連携支援を背景としている。取り組みはユースケース創出と提案活動の推進、業界・業務に応じた音声AIソリューションの共同検討、イレブンラボの音声AI技術のNTTドコモビジネスのサービス・プラットフォームへの統合の3点である。

具体的な取り組みとして株式会社ドコモ・ファイナンスのコンタクトセンター業務において、イレブンラボの音声AI技術を活用した電話応対サービスの本格導入に向けた実証実験を実施している。今後は金融業界での活用具体化を進めた後、幅広い業界・業務領域への展開をめざすとしている。

From: 文献リンクイレブンラボとNTTドコモビジネス、自然な音声AIを用いたコンタクトセンター応対の実現に向けた協業を開始

【編集部解説】

今回の発表を「音声AIがコンタクトセンターに使われる」という一般論として読むと、実はあまり目新しさがありません。ANCARにはすでに「Voice」というボイスボット機能が存在し、NTTドコモビジネス自身がAIによる顧客応対を提供してきました。

この発表の固有性は、協業の起点が「株式会社NTTドコモ・ベンチャーズによるイレブンラボへの出資」だと明記されている点にあります。NTTドコモ・ベンチャーズはNTTグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として、スタートアップへの出資を通じてグループ各社との協業を後押しする役割を担っており、今回の協業はその役割が実際に機能した一例として位置づけられます。

イレブンラボ(ElevenLabs)自体は、2022年の創業からわずか数年で急成長した音声AI企業です。2026年2月には新たに5億ドルの資金調達を実施し、評価額は110億ドルに達しました。これは前年の評価額から3倍以上に伸びた水準で、SequoiaやAndreessen Horowitz(a16z)といった著名な投資家がこのラウンドに参加しています。なお、Nvidiaは2025年9月の前ラウンドで出資しており、投資家層の広がりを示す一例といえます。NTTドコモ・ベンチャーズもイレブンラボの出資者の一社であることが、複数の報道で確認できます。

イレブンラボの音声AIは、すでに海外の金融機関で実務導入が進んでいます。たとえば2026年に入り、欧州の金融サービス企業がイレブンラボの音声AIエージェントをカスタマーサポートに導入し、対応時間の大幅な短縮を報告した例があります。今回の協業で金融分野が最初の実証フィールドとして名指しされている背景には、イレブンラボ側にすでに金融分野での実績があるという事情も読み取れます。

NTTドコモビジネス側の事情も見ておく必要があります。同社は2025年9月、コンタクトセンターや店舗向けのAIサービス群「docomo business ANCAR」を発表し、12月から順次提供を始めています。ANCARにはすでに音声自動応答の「Routing」やボイスボットの「Voice」といった機能が含まれており、今回の協業はこの既存基盤に対して、イレブンラボの音声生成・音声理解技術(ElevenAgentsを含む)を統合していく取り組みと位置づけられます。つまり、ゼロから音声AI機能を作るのではなく、すでに自社で提供しているサービスの「人間らしさ」の精度を、外部の専門技術を取り込むことで底上げするという設計です。

なぜ自前で音声合成の精度を磨くのではなく、出資先の技術を統合する道を選んだのか。この点について、本協業の発表文では明確な理由は述べられていません。ただ、コンタクトセンター業務で課題として挙げられているのが、抑揚や間、文脈を踏まえた応答、そして応答遅延の解消という、音声生成技術そのものの完成度に依存する部分である点は注目に値します。通信インフラと業務知見を持つ通信キャリアが、その上に乗せる「声」の自然さについては、すでに高い評価を得ている専門企業の技術を採用するという分業が、この協業の構造として読み取れます。

ドコモ・ファイナンスでの実証実験は、現時点では「本格導入に向けた」段階にとどまっており、どの程度の業務範囲・規模で運用されるか、効果がどう測定されるかについては、今回の発表では明らかにされていません。今後、金融分野での実証がどのような形で具体化し、他の業界へ展開されていくかが、この協業の実質を測る材料になります。

【用語解説】

ElevenAgents:イレブンラボが提供する、自然な音声対話を通じて顧客応対や業務支援を行うAI音声エージェントプラットフォーム

CVC(コーポレートベンチャーキャピタル):事業会社が自己資金を投じてスタートアップに出資する投資形態。財務的リターンに加え、出資先企業との事業連携や技術獲得を目的とすることが多い

【参考リンク】

ElevenLabs公式サイト(外部)
音声生成・音声理解を中核とする音声AIプラットフォームを提供する企業。2022年創業、2026年2月時点で評価額110億ドル。

NTTドコモビジネス株式会社公式サイト(外部)
法人向けネットワーク・クラウド・AI・通信サービスを提供するNTTグループの事業会社。2025年7月にNTTコミュニケーションズから社名変更。

NTTドコモ・ベンチャーズ公式サイト(外部)
NTTグループのコーポレートベンチャーキャピタル。先端AIスタートアップ等の発掘・投資およびグループ各社との協業推進を担う。

株式会社ドコモ・ファイナンス(外部)
今回の実証実験の舞台となるNTTドコモグループの金融サービス会社。

【参考記事】

ElevenLabs raises $500M Series D at $11B valuation|ElevenLabs公式(外部)
2026年2月の資金調達発表。評価額110億ドル到達の経緯と投資家構成を記載した一次情報。

ElevenLabs raises $500M from Sequoia at an $11 billion valuation|TechCrunch(外部)
同調達ラウンドの詳細と、ElevenLabsのARR成長について報じた記事。

ElevenLabs revenue, valuation & funding|Sacra(外部)
RevolutやKlarnaなど金融機関での音声AIコンタクトセンター導入事例を含む企業分析。

docomo business ANCAR™発表プレスリリース|NTTドコモビジネス公式(外部)
2025年9月発表、既存のコンタクトセンターAIサービス「ANCAR」の機能構成を示す一次情報。

音声AIの米ユニコーン日本進出 声色再現し多言語に翻訳|日本経済新聞(外部)
NTTドコモ・ベンチャーズがイレブンラボへの出資者である旨を報じた記事。

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【編集部後記】

CVCの出資が、単なる財務的リターンの追求にとどまらず、グループ会社の既存サービスへの技術統合という形で実装される事例は、増えていくのではないでしょうか。出資する側にとっては、出資先の成長を見守るだけでなく、自社の事業に技術を取り込む選択肢が手元にあることになります。一方で、出資という資本関係があるからこそ協業が成立しやすいという構造は、技術そのものの優劣とは別の力学が働いている可能性も示しています。出資から協業、そして実証実験への流れが、どの程度の速度で進むのか。私たちはこの先の展開を、技術の精度だけでなく、座組みの実効性という観点からも見ていきたいと思います。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。